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第38話 湖畔の死闘

 カンカンと、冴えた鐘の音が湖畔に響きます。


「こっちだ! こっちにこい!」


 半鐘を打ち鳴らし、ジャドは懸命に怪獣を湖へ誘導しました。


「こっちだ!」


「ジャドもういいよせ!」


 飛翔しながらイオリが叫んだとき、カイザーの目が真っ赤に輝きました。

 赤くなった目が見つめる先に、白いワンピース姿のジャドがいます。


「女神さま」


 半鐘を投げ捨てたジャドは、首から吊るしたシルバーリングのペンダントを握りしめました。


「これがおれの限界です。どうかわが罪をおゆるし……」


 そのときカイザーが炎を吐きました。

 一瞬で全身を炎に包まれ、ジャドは悲鳴もあげずに立ったまま炭と化しました。


「クソ!」


 イオリとクロはカイザーの頭を飛び越え、怪獣のすぐ目の前に舞い降りました。


「食らいやがれ!」


 イオリは引き絞ったロングボウから矢を放ちました。

 鋼鉄の甲冑を貫く矢が、至近距離から怪獣の目を直撃します!


「よし! って、え?」


 怪獣の瞳を射貫いたはずの矢は、粉々になって地上に落下しました。

 カイザーの目に傷一つついていません。


「目まで頑丈なのか。クロ!」


「ホラー!」


 クロもカイザーの目をねらい、矢を放ちました。

 弓の名人エルフ得意の連射です。

 立て続けに放たれる矢に、さすがのカイザーも顔をしかめます。


「いいぞクロ!」


 イオリも再びロングボウから矢を放ちました。

 今度は心臓をねらいます。


「怪獣といえども不滅のティグレを破壊されたら死ぬ」


 矢はカイザーのぶ厚い胸もとに弾き返されましたが、イオリはめげずにまた矢を放ちました。

 クロの連射も続きます。


「イオリ、クロ」


 公民館に辿り着いたブルックが、夕焼け空を見あげてつぶやきます。


「怪獣を絶対振り向かせるな。町に背を向けさせたまま戦うんだ」


「クロ、今度はおれが目をねらう!」


「イグニス!」


 クロが呪文を唱えると、矢の先端の矢尻が丸っこくなりました。

 クロが放った矢はカイザーの心臓部分に命中し、そこで爆発しました。

 矢尻に火薬が詰まっているのです。

 クロは立て続けに火矢を放ちました。

 イオリのロングボウの猛射もやみません。

 胸もとに何度も火花があがり、カイザーは遂にたたらを踏みました。


「カイザーが弱ってる!」


「攻撃が効いてるんだ!」


「いけいけ!」


 公民館に避難した人々が、湖畔の死闘を見て歓声をあげます。

 人々を公民館へ導いた老人ロジャーも叫びました。


「ぶっ殺せ!」


「やっちまえ!」


 イオリとクロに声援を送る人々の中に、ひょろりと痩せた靴磨きの青年がいました。


(クソ、よりによってわたしがイオリにエールを送るとは)


 伝説の殺し屋は思わず唇を噛みしめました。


(しかし背に腹は代えられん。わたしがここで死んだら殿下を守る人間がいなくなる)


「がんばれ!」


 とコンスタンチンが無念の思いで叫んだ瞬間です。


「よし!」


 イオリの顔に笑みが浮かびました。

 ロングボウの矢を避けようと、カイザーが遂に目を閉じたのです!


(いける)


 歓喜を胸にイオリが弓を引き絞ると、異変が起きました。

 夕日に赤く染まった湖に、突然硫黄のような匂いが立ち込めたのです。


「なんだ? ん?」


 異変は目を閉じたカイザーの額にありました。

 白いツノが青く輝いているのです。

 思わず輝きに見入っていると、カイザーがカッと目を見開きました。


「逃げろ!」


 イオリが絶叫した瞬間、カイザーのツノから青い稲妻が放たれました。

 急上昇したイオリとクロの足もとすれすれを稲妻は走り、湖対岸にあるなにかにぶつかって、そこで大爆発しました。


「うわ!」


 すぐ衝撃波が返ってきてイオリとクロはバランスを崩し、湖に落下しました。


「プハ! クロ、大丈夫か!?」


「助けて! 泳げない!」


 イオリは慌ててクロのそばに泳ぎ寄り、小さい体を抱えました。


「……おお」


 クロを抱いて湖の対岸を見たイオリは愕然としました。


「カイザー山が消えた……」


 標高三千メートルの山が、カイザーの一撃で跡形もなく吹っ飛んだのです。





 クロを抱えたイオリがやっと湖畔に泳ぎ着いたとき、カイザーの姿はそこにありませんでした。

 怪獣は地響き立てて町を歩いていました。

 邪魔な建物を次々破壊しながら西へ向かいます。

 西には町の人々が避難している公民館があります。


「みんな大丈夫だよ」


 すでに避難していたブルックは、震えながら自分にしがみつく子どもたちに告げました。


「この建物には結界が張られている。怪獣が攻撃しても壊れやしない……ん?」


 ブルックはポケットから黒い魔石を取り出し、握りながら公民館の四方を見つめました。

 建物を覆う防御魔力が、青い層となってボウッと見えます。


(魔力が薄い)


 カイザーの攻撃にこの建物は耐えられない、とブルックは確信しました。


「カイザーをここにこさせてはだめだ。湖に鎮めるしかない。しかしどうすれば……」


「ツノを斬ればいいよ」


 そのときブルックのそばにいた男の子が、ボソッとつぶやきました。

 小柄なおとなしい感じの子です。


「え? きみ名前は」


「スティーブン」


「スティーブン、それは聖典で読んだの? でも創世記には『女神さまが怪獣を湖に鎮めた』としか書いてないけど……」


「創世記じゃない。英雄オデッセイ伝に書いてある」


「ごめんよ」


 ブルックは自分にしがみつく子どもたちを床へおろし、背嚢から聖典を取り出しました。

 怪獣が立てる地響きで震える文字を、ブルックは必死に読みました。


「『女神はオデッセイに翼と聖剣を与えた。オデッセイはカイザーの頭の近くまで飛び、聖剣でツノを斬り落とした。ツノを失ったカイザーは闘志を失い、自ら湖に帰った。その後魔法使いが魔法で湖を封じ、怪獣が暴れることはなくなった。女神はオデッセイと魔法使いを勇者として讃えた』これだ!」


 ブルックは子どもたちから離れると胸に手を当てました。


「音声魔法【斜陽】、イオリ聞こえるかい?」


「聞こえる」


 イオリの声が、すぐ耳もとに帰ってきます


「オデッセイ伝に書いてあった。怪獣のツノを斬るんだ! そうすれば怪獣は自ら湖に沈む」


「わかった。クロ」


 イオリは抱いていたクロを湖岸に横たえました。


「ここにいろ。怪獣を退治してくる」


「わたしも行く」


「だめだ。休んでろ」


 翼を翻し、イオリは黒い影となって茜空に飛翔しました。


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