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第27話 価値の魔法

「殿下どうなさいます?」


 燕尾服を着た怪人ザンダーは、舌なめずりしてブルックに問いかけました。


「怒りにまかせてわたしやショーティや手下を殺しますか? 女たちを犠牲にして? 市民を犠牲にしてアガルタなんて作れるのですか?」


「女たちは何時間踊ってる?」


「正午からだからもうすぐ五時間になりますな。あ、ショーティはそんなに長く弾いてないですよ。いったん魔法にかかったら勝手に踊り続けますから。今弾いてるのは演出です演出。さて、これを」


 ザンダーはどこかから大きな水晶玉を取り出しました。


「ご覧ください」


 ブルックとイオリが水晶玉をのぞき込むと、中にどこかの路上風景が映っていました。

 大勢の女や子どもが、道で踊っています。


「王都の路上に置いた複数の水晶玉から、ショーティのウクレレが流れているのです。女と同じで子どもも自由そのものだから自由の価値はわかりません。ショーティを殺したら、この者どもにかかった魔法も永遠に解けませんよ。どうなさいます殿下? 旅を続けるためにショーティを殺しますか? 無辜なる民を犠牲にして? それより殿下、あなたが犠牲になればよろしいのです。あなたがさらわれ、護衛が殺されれば、女子どもは救われるのですよ」


「……」


 無言のブルックに代わって、イオリはすらりと刀を抜きました。


「待て」


「なぜ止める? こいつら殺さないと前に進めないぞ」


「クロも魔法にかかってる」


 イオリはすぐ刀を鞘に戻しました。


「ここはぼくにまかせてくれ」


 ブルックは背嚢からなにか取り出しました。


「ショーティ、これを見てくれ」


 ブルックが指でつまんで差し出したのは、小さく四角い黒石です。

 イオリのアイデンティティ・ロックも黒石ですが、こちらはもっと艶がある石です。

 ショーティはウクレレを弾きながら黒石を見ました。

 すると一瞬ヌルッとした光沢が黒石に浮かびました。


「見ましたが?」


「ありがとう。魔法の名前は赤い靴。内容、ウクレレを聞いた人を死ぬまで躍らせる。発動条件、自由の価値を知らない者がかかる」


「あの、王子さま?」


 とまどうザンダーを無視してブルックはぶつぶつつぶやきました。


「これは魔法石(ウィッチ・ロック)という母の形見だ。この石は他人の魔法をコピーして収蔵する。きみの魔法もコピーした。ぼくはこれからコピーした魔法の内容を書き換える」


 ブルックがかざした魔法石が、冷たい輝きを放ちます。


「複写魔法【ウィリアム・ウィルソン】

 対象魔法、赤い靴

 内容、ウクレレを聞いた人を死ぬまで躍らせる。

 発動条件、『暴力の価値を知らない者』がかかる」


 すると宿場町や王都の女や子どものダンスが、ピタッと止まりました。

 その代わりザンダーたち宿場町のならず者が、一斉にふにゃふにゃ腰を振って踊り始めたのです。

 ブルックとイオリ、それにクロは微動だにしません。


「な、なんですかこれは!」


 自分も踊りながらザンダーがわめきます。


「おれたちぐらい暴力の価値を知ってる人間はいねえぞ!」


「いいや、あなたたちがわかっているのは暴力の『効果』だけだ。暴力の価値はまったくわかってない」


 ブルックが冷然と断言します。


「暴力は本来国家が独占するものだ。国家以外に暴力の行使を許されるのは血のにじむような修練を積んだ剣士や魔法使いだけだ。暴力の厳しさをなにも知らないあなたがたに暴力の価値はわからないし、暴力を行使する資格もない」


「お、おいショーティ!」


 数十人のならず者どもは腰を振って歩き出しました。

 荒野に向かって。

 ザンダーが慌てて叫びます。


「魔法を止めろ! 手ぶらで荒野に出たらおれたち死ぬぞ!」


「主題を変える」


 ショーティはウクレレの曲を変えました。

 バラード調からコミカルな曲に変えたのです。

 すると今度は宿場町にいる人間も、水晶玉に映った王都の人々も、分け隔てなく全員一斉に踊り始めました。

 ブルックまで踊り出したのです!


「あ、あれ?」


「おい」


 町で踊っていないのは二人だけです。

 その内の一人であるイオリが、やはり踊っていないショーティに声をかけました。


「おまえが今かけた魔法の内容がわかったぞ。これは『愛の価値を知らない人間』がかかる魔法だ。常に愛し愛される人間に、愛の価値はわからない」


「ということは、あなたは愛し愛されたことがないのですか?」


「ない。だから愛の価値がわかる。ショーティ、おまえはどうなんだ?」


「……わたしもあなたと同じです。愛の価値をよく知っています。わたしはかつて愛を手に入れたことがあります。でも失いました」


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