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第23話 夢問答再び

(まいったなあ)


 フリオはひそかにボヤキながら、深めにかぶった赤い帽子を持ちあげました。

 ここは王都の勝利記念広場で、フリオのまわりにいるのはどれも異様な男たちです。


「きやがったきやがった」


 広場に近づいてくる三人、ブルック、イオリ、クロを指さし、左目に眼帯をした男が叫びました。


「セーラー服着てんのが王子さまだ!」


 眼帯男の指摘を聞きつけた男たちが、三人に対する感想を次々述べます。


「あれが王子? 女神さまみたいにきれーな顔しやがって。あれ本当に男か?」


「ちくしょう、かわいいじゃねえか」


「天使だ……」


「それより剣士を見ろ。あれで女だから逆にたまんねえ」


「てかドラゴン殺しなんていうからどんなえげつないのがくるのかと思ったら、スゲーいい女じゃねえか!」


「あんな強い女をヒーヒーいわせるのは最高だぜ」


「魔法使いは千歳だとさ! ああいうのロリ婆っていうのか? いろいろそそるぜ」


「おいフリオ感謝しろよ!」


 髪をオレンジに染めた大男は、痩せっぽちのフリオを強引に抱き寄せました。


「おれのおかげで今日は小遣いもらえんだからよ!」


「は、はいエドさん感謝します」


 フリオは精一杯の愛想笑いを浮かべました。

 勝利広場にいるのは、ゼップランド全土から集まった犯罪者です。

 ブルック一行がくるのをここで待っていたのです。

 その顔ぶれはマフィア、ギャング、殺し屋、用心棒、相手が死に至るまで痛めつけるサディスト、三百人殺しのシリアルキラー、食人鬼、吸血()、女性の足を切断して集めている狂人、辻斬り専門の剣士、麻酔なしで人体を解剖するのが大好きな無許可医……など多彩を極めます。

 集まった犯罪者の数はおよそ百人。

 ちなみにフリオの先輩エドの職業は王都に着いたばかりの若い女性をだまし、奴隷商人に売り飛ばす女衒です。


「さがってろ」


 広場に着いたイオリはブルックとクロをさがらせ、居並ぶ犯罪者の手もとを見ました。


(こいつらの得物はナイフに短剣、剣、槍、斧、メス、ハンマー、鞭、手裏剣、赤い帽子の若造は木剣、そのとなりの大男は鎖鎌か。珍しいもん持ってるな……お)


 刀持ってるやつがいる、とイオリが目を止めたときです。


「王子さまよ~」


 ひどくしわがれた声をあげたのはマフィアのボスらしい、額に傷がある中年男です。


「あんたの一番上の兄さんからのお達しだ。あんたをさらったら三億、護衛を殺したら一人につき一億払うってんだ。やらねえ手はねえよな?」


「メルヴィン兄さんが? そんなバカな」


 ブルックはショックを受けましたが、イオリは哄笑するメルヴィンの顔がたやすく脳裏に浮かびました。


(あの長男の差し金か。トラウマ持ちのマッチョらしい粗っぽい筋書きだ)


「きれいなお顔を傷つけたくなけりゃおとなしく捕まってくれ。護衛の二人は死んでもらう。国中の悪い奴らが百人集まった。二人殺して二億。あんたをさらって三億の計五億。集まった百人のうちボスは三人。この三人でわけまえの九十五パーセントを取るからわしの取り分は、と……約一億五千八百万ベルか。悪くねえな」


「おい」


 イオリは額に傷があるボスに声をかけました。


「なんだねお嬢さん?」


「おまえの夢はなんだ?」


「夢? そうさな、王都の賭場の利権を独占してえなあ」


「わしは若い女を独占したい」


 もう一人のボスが茶々を入れ、さらに


「おれは男がいい」


 有名な男色家のボスの言葉に、まわりにいたギャングたちが大げさに手を叩いて笑います。


「ギャハハ!」


「おまえらのは夢じゃねえ。欲だ」


 イオリの冷たい声が、ならず者どものカラ元気をたちまち冷まします。


「なんだと?」


「おれはいろんなバケモノと戦ってきた。中には人間に化けるバケモノもいる。バケモノはものすごく上手に化ける。姿かたちはもちろん血の色や指紋や体温や体臭も人間と同じだ。ちがいは一つしかないが、それがわからないやつはバケモノに食い殺される。どうだ? 人間とバケモノのちがいがわかるか? わかるやつはいってみろ」


 広場はにわかに静まり返りました。

 イオリの問いに答える者は、一人もいません。


「なんだわからないのか? じゃあ教えてやる。人間は夢を見る。バケモノは見ない。それがたった一つのちがいだ。おっと夢って夜見る夢じゃないぜ。理想や希望の夢だ。理想や希望は人間の特権で、でもおまえらはそれを持ってない。そんなやつらは見た目は人間でも本当の人間じゃない。

 だからおれはおまえらに容赦しない」


 イオリは鞘から不知火丸を抜くと、奇妙な構えを見せました。

 手を交差させて柄を持ち、逆さにした刃を百人の犯罪者に向かってまっすぐ突きつけたのです。


(かすみ)の構えだ)


 ブルックはイオリの構えがなんなのか、すぐわかりました。 

 ゼップランドの第三王子はご飯の次に武侠小説が大好きです。


(刀を水平に振るって相手の目をねらう構えといわれるが、相手は百人いる。イオリ、どうする気だ?)


 ブルックがイオリの真意を測りかねているときです。


「不知火流奥義

 【赤い影法師】」


 イオリが技名をつぶやくと、さえざえと青い光を放っていた不知火丸の刃が、真っ赤に輝きました。


「おお!」


 百人の犯罪者が嵐の海のようにどよめきます。


「選抜試験で見せた技だな!?」


 ブルックはここでイオリのねらいに気づきました。 


「おい、これヤバいぞ」


 男色家のボスがかすれた声を出します。


(こいつはさっきからハッタリをかましてるんじゃねえ。本気でおれたちに自分の夢を聞いてる。それはどういうことかというと、こいつがいつでもおれたちを殺せると確信してるってことだ!)


 男色家のボスはスーツのポケットからハンカチを取り出し、額の汗をぬぐいました。


(おれはむかしバベル大帝国で傭兵をやっていた。要領がよかったからすぐエリートが集まる百人隊に選ばれ、ロージャ共和国との戦争に駆り出された。

 あのとき、泥沼と化した戦場で、悪魔に会った。

 これは比喩じゃねえ。本物の悪魔に会ったんだ。赤い肌の悪魔はツノや牙があって、裸の背中にバカでかい剣を背負っていた。

 悪魔は十人いて、十頭の頭の毛が薄い恐竜にまたがっていた。

 悪魔を見た瞬間おれは悟った、今日がおれの命日だって。

 気がついたらバベル最強といわれた百人隊が、おれ以外全滅していた。

 なぜ自分が生き延びたのかわからねえ、でもあのとき以来なのはまちがいねえ)


「こんなに体が震える威圧を感じるのは……」


「最後に聞く」


 刃の光で瞳を赤く染めながら、イオリは居並ぶ百人の男に尋ねました。


「おまえたち本当に夢はないんだな?」


「お、おれあるよ!」


 赤い帽子のフリオは手をあげ叫びました。


「お、おれはマン……」


「や、やっちまえ!」「逃げろ!」


 額に傷があるボスと男色家のボスの声が、同時に広場に響きます。


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 百人の犯罪者は得物を振りかざし、地響き立ててイオリに突進しました。


「ぬおおおお!」


「きえー!」


「夢がないなら自分の冷たい血を啜って

 泣き死ね!」


 イオリは刀を水平に振るいました。

 すると刃の先端から赤い光が放たれます。

 燃えるように鮮やかな光は、押し寄せる暴力の怒涛を一瞬で止めました。

 光は広い空間を水平に薙ぎ、突進する百人の犯罪者どもの首をただ一閃ですべて斬り飛ばしたのです!

 鈍い音立てて生首が次々落ち、それに続いて血が噴水のように噴き出します。

 朝日に焼かれて早くも熱くなっていた石畳が血に洗われ、勝利広場は一瞬ひんやりと涼しくなりました。


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