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第20話 街道をゆく

 イオリがブルックの最終試験を受けた翌日の七月二十七日。

 城の会議室で高官たちは喧々囂々の議論を重ねていました。


「まさかドラゴン殺しが女とは」


「王子のおそばに一か月も女をつけるなどあり得ぬ!」


「しかし凄腕じゃ」


「たしかにあれほどの剣士は大陸中探してもめったに見つからぬ」


「腕がよくとも女だ。王子に不埒な真似をしでかすかもしれんぞ」


「あの娘いい尻をしておった。あの尻で王子を誘惑するかもしれぬ」


「いや誘惑するのは王子のほうかもかもしれぬぞ。かわいいお顔をされていてもそこは男じゃ。なにかの拍子に小娘の裸を見てムラムラされるかもしれぬ。そんなことになったら……」


「バカを申せ! 殿下はそのようなお人ではない、恥を知れ!」


「恥を知れとはなんだ!」


 とうとう取っ組み合いが始まり高官たちの議論は収拾がつかなくなりました。





 そのころイオリはブルックやクロとともに、会議室で作戦会議を開いていました。


「カミとの契約内容を確認する」


 ジェットが三人に告げます。


「一つ、八月一日に王都を発ち街道を歩いて八月三十一日までに火の山に着くこと。

 二つ、生贄はゼップランドの王族から選ぶこと。

 三つ、生贄は処女か童貞であること。

 四つ、生贄のつき添いは剣士と魔法使いそれぞれ一名のみとすること。

 五つ、移動は徒歩に限る。馬車や乗り物を使うのは禁止。

 六つ、約束の期限までに火の山へ着き祭壇で生贄を捧げたら褒美として天罰はくださない。以上だ。質問あるか?」


 神妙な顔で首を振る三人を、カイが腕組みして見つめます。


「王都から火の山までの距離はおよそ五百キロ……イオリ、『たったそれっぽっち?』って顔だな。確かに足の速いメッセンジャーがリレーすれば三日で着く距離だ。だがな、街道の自然は厳しい。毒蛇やサソリしか生きられない荒野があり、ルートの途中で険しい山岳地帯が待っている。

 それにカルマや、盗賊や、魔法使いや、まだ名前のない魔物や犯罪者がおまえたちを待ち構えている。カミは生贄に試練を与える。試練を乗り越えた者は少ない。

 カミがゼップランドを儀式の舞台に選んでちょうど百年になる。この間儀式は五回行われたが成功したのは一人だけだ。五十年前バベル大帝国の太陽王の姉ナターシャ姫が生贄に選ばれ、無事火の山に辿り着いて斬首された。成功したのはナターシャ姫だけでほかの生贄は全員旅の途中で殺され、その後神罰として災害が起きた。現在の帝国の繁栄はナターシャ姫の成功に負うところが大きい。儀式の成否は政治的な影響力を持つ。それを忘れるな。

 それから旅の間ブルック殿下には今まで通り女装していただく。殿下が女の格好をしていることを国民は知らない。それにカミも『生贄の性別を隠すな』とはいってない。不埒な輩から殿下の身の安全を守るためにも、女に化けたほうが好都合だ。

 おれからは以上だ。ルーク、あとは頼む」


「旅のコースはシンプルだよ」


 机に広げた地図の上を飛びながら旅程を説明するのは、デッサン人形のように小柄な裸の妖精ルークです。


「八月一日の早朝王都を出発し【街道】を西に向かう。最初から最後までずっと街道を歩くんだ。王都から目的地の火の山までの距離は五百キロ。これを歩く。人間の徒歩の平均時速は四キロといわれてる。一日八時間歩いたらおよそ三十キロ。宿場町はぜんぶで十九か所あって、町と町の距離も三十キロ。人間が一日に歩く距離と同じだね。ただ最後の山岳地帯にある二つの宿場町だけ距離が八十キロある。ここは一回、もしくは二回野営するしかない」


 ルークの語りは流暢です。

 地図は妖精の家に代々受け継がれたもので、ルークは細部まで地図を熟知しているのです。


「最後の山岳地帯はちがうけど、街道は旅人が朝早く宿を出て、夕方次の宿に着くよう設計されている。この街道を一か月以内に踏破しなければ、さっきジェットがいったようにカミの天罰がくだる」


 ルークは軽くため息を突きました。


「しんどいよね? それに宿場町の実態もよくわかってない。というのも宿場町は王室の支配下にないからなんだ。

 街道はカミの領域だ」


 「カミの領域」と聞いて、ブルック、イオリ、クロの顔に緊張が走ります。


「そこに住むのはヤクザ、ならず者、殺し屋、賞金稼ぎ、ギャンブラー、お尋ね者の逃亡者、都会から逃げてきた娼婦、同じく都会から逃げてきた奴隷、そして狂信者なんかで堅気はほとんどいない。ゼップランドのどの町にも必ずいる治安警護人もいない。こんな危険な街道を旅するのは重武装の商人や、西の修道院を目指す修験者、一獲千金を夢見る冒険者、それに武者修行中の剣士や大道芸人などこれも一筋縄ではいかない連中だよ。じゃあもう一度宿場町の名前を確認しよう」


 ルークは地図を指さし、宿場町の名前を読みあげました。


「第一宿場町 興奮

 第二 享楽

 第三 物語

 第四 狂気

 第五 終末

 第六 永遠

 第七 世界

 第八 彼方

 第九 法悦

 第十 堕落

 第十一 奇跡

 第十二 怠惰 ここは港町だよ。

 第十三 臨終 ここから山岳地帯に入る。

 第十四 玩具

 第十五 戦闘

 第十六 灼熱

 第十七 午睡

 第十八 崇拝

 第十九 祭儀

 以上だよ。全然町の名前らしくないね」


 ルークははにかんだように笑いました。


「最初の宿場町興奮以外、どの町もゼップランドの国旗である白地に薔薇ではなく、それぞれの町の旗をかかげている」


 地図を見ると宿場町の名前の脇に、それぞれの町の旗が描かれています。


「宿場町の連中は自分たちの自治権を訴え、カミに忠誠を誓っている。王室に対し尊敬の念は持っていないよ。前回の生贄の旅でゾフィー姫は八番目の彼方と九番目の法悦の間で殺された。犯人は捕まっていない。気をつけて。ぼくからは以上だよ」


 話を終えたルークは地図をのぞき込むジェットの肩にふわりと腰かけました。


「ご苦労。十八番目の宿場町崇拝にカルト教団クルシミの総本山がある」


 ジェットの言葉を聞いたイオリの顔つきが変わります。

 イオリの脳裏に、アランたち幼なじみの死体のそばにいた、スキンヘッドの狂信者ウルフの顔が浮かびます。

 イオリが不知火丸で初めて斬った相手ウルフはクルシミの信者でした。


「カミを熱狂的に崇拝する狂人どもの巣窟だ。軍隊もここには手を出せない。ここが最大の難所だ。イオリ頼むぞ。王子を守って必ず突破してくれ」


「まかせてくれ」


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