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第19話 おれがいつ〇〇なんていった?

「力、ですか?」


「力とは魔法のことだよ。クロは偉大な魔法使いだけど、ぼくはクロが使えない超魔法を一つだけ使える。その魔法でカミを倒す」


「なぜそんな魔法を使えるのです?」


「ぼくの母方の先祖はカミの眷属だった」


 ゼップランドの第三王子はサラッととんでもないことをいいました。

 

「今から千年前ご先祖さまはカミのもとを離れ、人間界で暮らすようになった。ある人間の女性を愛したのが離反の理由だ。千年たってわが一族から眷属の血はほぼ消えた。でも【力】だけはひそかに受け継がれた。その力を使ってカミを倒す」


「カミを倒す超魔法とはどんなものです?」


「ごめんそれは秘密だ。『獲物が息を引き取るまで手の内を明かすな』それがフリーダム家の掟なんだ。イオリ殿、これが旅の本当の目的だ。きみには迷惑な話だと思う。火の山まで護衛するだけでもたいへんなのに、さらにぼくがカミを倒すのにつきあわなければならないなんて無茶だ。『話がちがう』ときみがこの仕事を断ってもぼくは文句をいわないよ。もちろん違約金はこちらが払う……」


「いえ、護衛の仕事、やります」


「本当?」


「はい」


 しかしカミの息の根は自分が止める! とイオリがいおうとしたときです。


「よかった! では最終試験をやろう」


「最終試験?」


「カミとの契約で生贄は純潔であらねばならぬとされている。むろんぼくは童貞だけど、旅の途中で欲情したきみに犯されたらたいへんだ。ぼくが純潔を失った瞬間、契約違反に怒ったカミが天罰を下す。そうなったらまた百万を超える人間が死ぬ。それは困る。だからきみをテストする」


 ブルックは履いていたパンプスを脱ぎ捨て、素足をイオリの鼻先にヌッと突き出しました。


「これからきみの克己心を試す。ぼくの足にキスするんだ。キスしたらきみの股間をぼくに見せて。きみのものが立っていたら失格、萎えたままなら合格だ。

 さあ、キスして」





 イオリは自分の目の前に差し出された足を見つめました。

 きれいなピンクの爪が並び、華奢な指に武骨な皺などありません。

 不快な匂いがまったくしないのは、さすがに王家のおみ足というべきでしょう。


「……」

 

 イオリは無言で顔を近づけるとブルックの足を手に取り、甲にキスしました。


「股間を見せて」


 イオリはすぐ立ちあがりました。


「脱衣」


 イオリがつぶやくと、イオリの全身にぴったりフィットしていた竜皮のツナギが、だらりとゆるみます。

 イオリは指先で喉もとからおへそのあたりまで一直線にスー……と撫でました。

 ツナギのフロントがパラリと左右に開きます。

 するとゼップランドの名花レッドミーナによく似た甘い匂いが、ふわっとブルックの鼻をくすぐりました。


「え?」


 ブルックが声をあげたのは、イオリの胸が黒い下着に覆われていたからです。


「きみ、なぜそんなものを……」


 ブルックの質問が終わる前に、イオリは腰のところで止まったツナギを足もとまでおろしました。


「は?」


 またブルックが声をあげたのは、イオリが黒くて細い下着をはいているからです。

 ブルックのとまどいを無視して、イオリは下着を一気におろしました。


「……」


 さらけ出されたドラゴン殺しの股間を見て、ブルックは完全に声を失いました。


「……えーと、あれ? あ、あの、イオリ殿。これはいったい……」


「おれがいつ『おれは男だ』なんていった?」


 王子の目に自分の股間を大胆にさらしながら、イオリはきっぱり宣言しました。


「おれは女だ」


「ひでぶっ!」


 グリーンのドレスがコマのように急旋回します。

 ブルックは奇声をあげてソファから吹っ飛びました。

 下半身丸出しのイオリに拳で頬をぶん殴られたのです。

 イオリは再び竜皮のツナギを身につけ、最後につぶやきました。


「着装」


 シュッ、と音がして、竜皮がイオリの全身にぴったりフィットします。


「失礼。侮辱に笑顔を返せるほどおれは大人じゃない。で、どうなんだ? おれ合格? それとも不合格?」


 耳もとの赤いピアスを撫でるイオリに、ブルックは親指を立てました。


「ご、合格」


「ホラー」


 鼻血を垂らす美貌の王子に、クロは手をかざしました。

 するとてのひらから青い光が放たれ、その光に照らされたブルックの顔からみるみる傷が消えてゆきます。


「治癒魔法【陽だまりの()】ニャ」


(あいかわらず変わった名前の魔法だけど、もうブルックの鼻血が止まって顔の腫れも引いた。すごい魔法だ)


 感嘆するイオリにクロはこっそりウィンクしました。

 イオリも笑顔でウィンクを返します。


「やれやれ治った。ありがとうクロ」


 ブルックがたった今殴られたことなどもう忘れた顔でケロリと笑います。

 イオリは感心しました。


(ただの強がりじゃない。女のおれに殴られたことをなんとも思ってない。さすがに器が大きいな)


「さてイオリ殿」


「呼び捨てで構わない」


「そうかい? きみがレディと知らずに失礼した」


 ブルックが素直に頭をさげます。


「ではイオリ、クロ。ぼくらは今から命懸けの旅の仲間だ。旅の誓いを立てよう」


 三人は小さな輪になりました。


「三人でオデッセイの詩『アガルタ』を暗唱しよう」


 『アガルタ』はゼップランド建国の英雄オデッセイが友の死を悼んで詠んだ詩です。

 全国民の愛唱詩で、ゼップランドの民はなにかあるたびこの詩を詠みます。

 ブルック、クロ、イオリの三人は手をつなぎ、互いの目を見つめながら声をそろえて『アガルタ』を暗唱しました。


「よき人の魂ここに眠る

 よき人よ聞け

 風は汝を運ぶゆりかご

 雨は汝の死を悲しむ天の涙

 鳥の囀りは汝に捧げるレクイエム

 汝の魂が天に帰り夜空の星になるときわれらはふたたび一つになる

 ゼップランドは小さき国なり

 されどゼップランドは永遠に汝を愛す

 この小国が戦いに生き、戦いに死んだ汝のアガルタなり

 森よ、空よ、海よ、荒野よ、われらが友の魂を安らかに眠らせ給え

 女神とともにあれ」


「……さあ」


 暗唱を終えるとつないだ手を離さずに、ブルックが二人に告げました。


「旅の始まりだ。

 ぼくらは運命共同体、生きるも死ぬも一緒だ。一人が傷ついたら二人が助け、二人が傷ついたら一人が助ける。一人が笑ったら二人も笑い、一人が泣いたら二人も泣く。一人が生きたら二人も生きて、一人が死んだら二人も死ぬ。自分と女神の名誉を賭けてこれを誓えるかい?」


「誓う」


「誓うニャ!」


「OK、三人で力を合わせてカミを倒そう。

 ふんぞり返ったカミの顎に、右ストレートをお見舞いしてやるんだ!」


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