表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/107

第13話 一緒に帰ろう、と弟はいった

「え? まじ?」


 ジョニーはうっすらと笑みを浮かべて、その場に立ち尽くしました。

 目の前で見た二人の友の死を、現実として受け止めきれないのです。


「あらかわいい」


 蛸女はニヤニヤ笑いながらジョニーに触手を伸ばしました。


「おい待て!」


「あんたはかわいいというよりきれいだねえ」


 蛸女はイオリに目を向けました。


「そのきれいさがむかつくよ!」


 蛸女はイオリに向かって触手を振りました。

 黄色い毒液がイオリの顔目がけて飛びます。


「竜陣」


 イオリが叫ぶと着ているツナギの襟が瞬時に伸び、兜のようにイオリの頭全体を覆いました。

 その直後、ビシャッ! と毒液は皮兜を直撃しました。


「ざまあみろ! ……え?」


 蛸女の顔がショックで歪みます。

 おそるべき毒液を浴びた皮兜は、しかしまったく溶けることなく前と変わらぬ鮮やかな光沢をたたえていました。


「その程度の毒は竜の皮に効かないよ」


 黒い皮兜の内側でイオリは笑いました。

 不知火丸の刃の光で青く染まった目は、皮兜の向こうも透視できます。

 イオリは蛸女の心臓に紅白の小さい玉、不滅のティグレがあるのを確認しました。


(よし)


 ミチミチッ、とぶきみな音が聞こえます

 不知火丸を握ったイオリの手の、その指先まで竜の皮がすき間なく覆ったのです。


「舐めるな人間!」


 蛸女は触手をめちゃくちゃに振り回しました。

 一薙ぎで馬の胴体を真っ二つにする触手が数本まとめて降ってきます。

 イオリはすばやく刀を背中へ回しました。


「居合術【風神の門】」


 青い閃光が虚空に「X」を描きます。

 蛸女の触手は地響き立てて地面に落ちました。

 電光石火の居合斬りです。

 すかさずイオリは跳躍しました。

 蛸に豹が襲いかかったのです。


「ひぃ!」


 とっさに顔を覆った蛸女の心臓を、不知火丸は一直線に貫きました。

 不滅のティグレを斬ったのです。


「打突剣【明暗】」


 イオリは刀を引き抜きました。

 刀を抜くと蛸女の体は白い灰となって崩れました。


「まず一匹」


 イオリの頭と指を覆っていた竜の皮が元に戻ります。すると


「兄ちゃんエリックが!」


 今度聞こえたのはアンドレス少年の声です。

 振り返ると眼鏡の少年エリックが蜘蛛女の巣に絡まっていました。


「ジョニー」


 友の名を弱々しくつぶやき、エリックの顔は真っ青になりました。

 蜘蛛の巣の毒に当てられ、エリックはあっけなく死にました。


「エリック!」


「あなたもわたしの子どもたちの餌におなり。きれいな剣士」


 ザザザッと八本足で土を蹴散らし、蜘蛛女はイオリに接近しました。

 女は手の指から糸を放ち、イオリはその糸に絡めとられました。


「この野郎」


「オホホ! むだなことです」


 刀を振り回すイオリに蜘蛛女は嘲笑を浴びせました。

 驚くべきことに糸は不知火丸でも斬れないのです。

 虚空の結界や塀を利用して、蜘蛛女は蜘蛛の巣を大きく張り巡らせました。

 蜘蛛の巣に捕らえられたイオリは、たちまち全身を蜘蛛の糸で覆われました。


「ううっ」


 すき間なく白い糸に覆われ、イオリは手足のない芋虫のようにじたばたもがきました。


「オホホ! まあるくなっておいしそうだこと」


 蜘蛛女はぺろりと舌なめずりしました。


「クネクネしちゃって……いやらしい……やっぱりわたしがあなたをいただくわ」


 蜘蛛女は滑るように糸を伝ってイオリに接近しました。


「じゃあ、ごめんあそばせ」


 女のお腹がバリッと裂け、そこに巨大な口が出現しました。


「イオリ!」


 とディーンが叫んだときです。


竜牙(りゅうが)!」


 絶叫とともにイオリの全身を包んだ蜘蛛の糸車が、粉微塵に裂けました。


「おお!」


「あれは?」


 中からあらわれたイオリの姿を見て人々は驚愕しました。

 竜皮のツナギの全身に、鋭い棘が立っているのです!


「竜の生命力って凄いよな? 皮になってもまだ生きてる」


 地上に降り立ち、イオリは自分が着ているツナギの肩をそっと撫でました。


「今はおれの支配下にあるからおれを守ってくれる。もういいぞ」


 イオリの一言ですべての棘は引っこみました。


「おのれ!」


 やはり地上に降り立った蜘蛛女の指先から白い糸がほとばしります。


「糸に包まれて窒息しなさあい!」


「よく聞け」


 はやくも勝ち誇る蜘蛛女の声を聞きながら、イオリはかつて師匠のオスカーにいわれた言葉を思い出しました。


「おまえはこれからあらゆるものを斬らなきゃなんねえ。固いのやぶ厚いのや熊みたいにでけえのやノミみたいに小せえの。一番斬るのが難しいものはなんだと思う? それは柔らかいものだ。そこに柳の木がある。枝を斬ってみろ……斬れねえだろ? 練習しろ」


 グラウンドに風が吹いて、イオリの耳もとの赤いピアスがかすかに揺れました。

 このピアスは師匠がプレゼントしてくれたものです。


(よし)


 イオリは初めて柳の枝を斬るのに成功したときの感覚を思い出し、ゆっくり不知火丸を振るいました。

 すると柔軟な蜘蛛の糸が一瞬棒のようにピン、と硬直し、それからプツン、と斬れました。

 

「バカな!」


 すかさずイオリは蜘蛛女に飛びかかりました。


「くるなビッチ!」


 蜘蛛女の指先が鋭い鉤爪に変化します。


「醜くなあれ!」


「制覇剣【喪神】!」


 蜘蛛女の鉤爪とイオリの不知火丸が空中で交差します。

 鉤爪はイオリの黒髪を際どくかすめました。

 蜘蛛女の肩から入った神速の袈裟斬りは、女の心臓をななめに斬り裂きました。


「ギャッ!」


 不滅のティグレを真っ二つに斬られ、蜘蛛女は白い灰になって散りました。


「やった!」


「お兄ちゃん!」


 ディーンの歓声とアンドレスの悲鳴が同時に聞こえます。

 イオリとジョニーは慌てて声がしたほうに目を向けました。

 身長七メートルはある巨大な骸骨男は、その体格にふさわしい長大な剣を手にしていました。

 その長剣の一振りで、十数人の人々の首が宙を舞います。


「やばい!」


「逃げろ!」


 逃げ惑う群れの中に弟がいるのをジョニーは見ました。


「アンドレス!」


 とジョニーが叫んだときです。

 骸骨男が第二撃を振りおろしました。

 またしても十数人の男たちの首が飛びます。

 飛び散る鮮血が、夕立のようにジョニーの全身をザッ! と濡らしました。


「……」


 血まみれのジョニーはしゃがんで地面に転がる生首を一つ拾いました。


「アンドレス」


「お兄ちゃん。一緒に帰ろう」


 生首のアンドレスはそういって目を閉じました。

 かすかに笑っています。

 ジョニーは黙って生首の弟を抱きしめました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ