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第12話 試験という名の虐殺

「先日カミの使いが城にやってきた」


 メルヴィンの話は続きます。


「使いの妖精はブルックがカミの生贄に指名されたといった。生贄に指名された者は王都から歩いて一か月以内に火の山に着かねばならない。馬や船は使えない。それがカミとの契約だ。火の山に着いた生贄は当地にあるピラミッドの祭壇で斬首されカミに捧げられる。これでカミの怒りは解け、天罰は免れ、世界の平和は保たれる。しかしもし生贄を祭壇で捧げることができなければ、カミの天罰が下る。

 それが十年前のあの大地震だ。

 あのときはわが従妹ゾフィー姫が生贄に指名されたが、旅の途中で何者かに殺され生贄の儀式を全うできず、天罰が下った。あの地震で大陸全土で数百万の人間が死んだ。今回それだけは絶対避けねばならぬ」


 グラウンドがますます静まり返ります。


「カミは生贄に試練を与える。旅の途中で神の眷属が生贄を襲う。そなたたちはカミの眷属であるカルマや魔法使い、それに金目当ての盗賊から生贄を守り、火の山に辿り着かねばならん。成功報酬は二十億ベル」


「おお!」


「噂は本当だ!」


 想像を絶する高額報酬に男たちはどよめきました。


「仕事の内容はわかったな? さっきもいったが旅ではおそるべきカルマが諸君を襲う。きみらがそれに勝てるかテストする。あけろ」


 メルヴィンの合図でグラウンドの東西南北を囲む塀が左右にスライドしました。


「……おい?」


 一人の男が寝とぼけた声をあげました。

 塀の向こうからあらわれたのは、四体の巨大カルマです。

 四体とも彫像のようにピクリともしません。


「い、生きてるのか?」


「カルマとの戦いで生き残った者でトーナメントを行う。優勝者を護衛とする。護衛の報酬とは別に、優勝者に賞金一億ベルを払う。では、始めよ!」


 ボ~ンと銅鑼が鳴ると四体のカルマはおそろしい奇声をあげてグラウンドに侵入しました。


「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」


「うわあ!」


「きやがったぞ!」


 こうしてテストという名の虐殺(ジェノサイド)が始まりました。





「助けてくれえ!」


 悲鳴をあげて逃げまどう候補者を、四体のカルマは殺しまくりました。

 どのカルマも背丈や全長が七~八メートルある巨大な怪物です。

 まず一体は上半身裸で赤い髪の女のカルマでした。

 女の下半身は蛸の足です。

 その足を振ると黄色い液体が飛び散るのです。


「ギャア!」


 黄色い液体を浴びた者は、無惨にも溶けて死にました。


「オホホ」


 満足そうに笑うと女は蛸の足で死体を引き寄せ、下腹部にある巨大な口で死体をバリバリ貪り食いました。

 もう一体も女のカルマです。

 上半身裸で黒髪の女の下半身は蜘蛛でした。

 女が指揮者のタクトのように長い指を振ると、指先から白い糸がほとばしります。


「きゅっ」


 糸にからめとられた者は即死しました。

 死んだ男はやはり女の下腹部にある巨大な口で食われました。


「野郎!」


 数人の勇者が蜘蛛女に刃を向けます。


「ほう?」


 ニヤリと笑った女の下腹部から、ザーッと無数の小さいなにかが飛び出しました。


「蜘蛛の子だ!」


「ちくしょう!」


 相手が小さすぎて勇者の剣は逆に歯が立ちません。


「は、這いあがってきた!」


「きしょっ!」


 蜘蛛の子に全身を噛まれ、勇者チームはほんの数秒で全滅しました。

 カルマのもう一体は黒いマントを羽織った巨大な骸骨男です。

 長大な剣の一薙ぎで、十数人の男が即死しました。

 そして最後の一体は巨大なワニのカルマです。

 ワニの尻尾が蛇で、その蛇が毒を吐きます。


「ギャアア!」


 毒を浴びて半分溶けた男を、ワニはおいしそうに食べました。





「ギャッ!」


「グエ」


 参加者はみるみる死に、それを見た富裕層の観客は大喜びで手を叩きました。

 蛸女やワニが撒き散らす毒液はスタンドに届きません。

 虚空に張り巡らされた「見えないなにか」にさえぎられるのです。

 塀にもたれてイオリは空を見あげました。


(グラウンド全体を結界が覆っている。観客を守り、おれたちを閉じ込める結界が)


 貴賓席にうずくまるように座る黒い影をイオリは見ました。


(宮廷魔法使いだ。あいつと弟子たちが結界を張ったんだ)


「助けて!」


 塀を乗り越えようとする参加者を、兵士が左右から槍で突き殺しました。

 それを見た貴賓席のメルヴィンが冷酷に告げます。


「途中で逃げるのは許さぬ」


「このままじゃ皆殺しだ!」


 青ざめた顔のディーンがとうとう悲鳴をあげました。


「落ち着けよ。もうちょっとカルマを観察しよう」


 イオリは相変わらずクールです。


「観察?」


「ああ。ぼんやり見ててもわかんねえからおれはまず敵に名前をつける。あいつは蛸女。あっちは蜘蛛女。こっちは骸骨男であれはワニヘビ」


「シンプルだね?」


「わかればいいんだ。蛸女の武器は足から分泌される毒液と足の締めつけ。蜘蛛女は糸の毒で獲物を殺す。骸骨男は剣で、ワニヘビはヘビの毒で動きを封じて鰐が引き裂く。四匹のうち三匹が飛び道具を持ってる。厄介だ」


「で、どうする?」


「まあ見てろって」


 すらり、と鞘を払い、イオリは抜き身の刀を見つめました。

 刃の放つ光で黒い瞳が青く染まります。

 イオリは青く染まった瞳を骸骨男に向けました。すると


(あれだ)


 骸骨男の心臓部分にポツンと小さな紅白の玉が見えました。


(あれが不滅のティグレだ)


 蛸女と蜘蛛女も、上半身の人間体型の心臓部分にティグレを確認しました。

 しかし最後のワニヘビだけティグレが見当たりません。


(へんだな?)


「おいおまえらも戦え!」


 兵士はイオリとディーンに槍を突きつけました。


「はいはい」


 面倒くさそうに返事をするイオリに、錯乱した一人の参加者が斬りかかりました。


「ひゃああ!」


「危ない!」


 イオリは剣をよけると相手の首筋に峰打ちを叩き込みました。


「ディーンおまえはさがってろ……」


「ジョニー助けて!」


 突然子どもの悲鳴が聞こえました。

 村から意気揚々と出奔したジョニー少年の二人の友が、蛸女の足にとらえられています。


「クリフ! アリスター!」


 ジョニーの振るう剣は蛸の足に軽く払われました。


「まずい!」


 イオリは慌てて駆け出しました。しかし


「ジョニー! ジョ……」


 断ち切るように悲鳴が消えます。

 親友の目の前で、二人の少年は蛸の足に絞め殺されました。


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