表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/116

第114話 カミの言葉

「なんと」


「カミを倒す?」


「畏れ多いことを!」


 生贄にささげられるものとばかり思っていた王子の唐突な打倒カミの宣言に、居並ぶ王族や騎士はどよめきました。


「相手はカミだぞ」


「あんな巨大な怪物にどうやって?」


「いやそもそも……」


「黙らっしゃい!」


 教祖アレクサンダーの大喝が、ピラミッドの祭壇から草原に轟きます。


「カミに刃向かうとはなんたる不敬であるか! ブルック・フリーダム・ローズ、おとなしくその首差し出せい!」


「ん~……やだ」


 アッカンベーするブルックにアレクサンダーは激怒しました。


「おのれ! ならばその首わしが……お?」


 ブルックの前にクロが無言で立ちます。


「どけダークエルフ」


「……」


 手で払われてもクロは退く気配を見せません。


「そなた大陸一の魔法使いと評判のクロだな? よかろう。王子の細首刎ねる前に血祭りにしてやる。仮面(ペルソナ)!」


 アレクサンダーの眼前に、南洋のものらしい巨大な仮面が浮かびあがります。


「超攻撃魔法【仮面の告……】! うむ?」


 アレクサンダーは魔法名を告げるのを途中でやめ、いぶかしそうに頭上を振り仰ぎました。

 木のきしむ音が聞こえたのです。


「……おお!?」


 教祖は驚愕しました。

 アレクサンダーの禿頭の真上に、巨大な木の扉が口を開けています!


「な、なんだ!」


「転移魔法【夏への扉】ニャ」


「やめろ!」


 あっという間に巨大な仮面が扉に吸いこまれます。

 一緒に吸いこまれそうになったアレクサンダーは、そばにいた信者に必死にしがみつきました。


「わ、わたしを助けろ!」


「放せ!」


 しがみついていた手を振りほどかれ、教祖は扉に吸いこまれました。


「助けて~……」


 悲鳴を残してアレクサンダーは暗黒のかなたに消え、やがて扉は重い音を立てて閉じ、扉自体も消えました。


「アハハ! やったぞ……」


()()()


 ブルックが手を叩いて喜んでいると、空の上から声が振ってきました。

 草原に居並ぶ騎士たちの鎧を震わす重厚な声が。

 同時に明るかった空が、夜のように真っ暗になります。


「なにごとだ!?」


「カミだ」


 太陽王の問いに答えたのはローズ王です。


「カミがわれわれに直接語りかけている」





()()()()()()()()()


 ケルベロスの口を通じてカミは語りました。

 その語る内容は、草原にいるすべての人間が理解しました。

 しかしカミが語る言葉は人間の言葉ではありません。

 もちろん大陸の共通言語バベル語でもありません。

 まったく体感した覚えがないリズムで構成された、異界の信号のような言語です。

 それでも人々はカミの言葉をすんなり理解しました。

 空を覆おう闇を震わせ、カミは語りました。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()


 ケルベロスが三つの口を閉じ、神語を語り終えると今度は真っ暗な空がスクリーンになって、どこかの都市の風景が浮かびあがりました。


「おお、あれはバベル大帝国の王都にある太陽宮殿だ!」


 一人の騎士が空を指さし叫ぶと、ほかの騎士もそれに続きました。


「わがロージャ共和国の首都イリヤシティにある革命広場だ!」


「あれはわがシップランドの王都ロックシティの城だ」


「タイタンの王都ジークフリートのジークフリート城ではないか」


「おい!」


 そのときローズ王の間近にいた騎士が叫びました。


「あれはわがゼップランドの王都ローズシティだ。ローズ城が見えるぞ!」


 大陸を代表する五大都市の空も、暗黒に包まれています。

 その暗黒の空から降ってきました。

 光が。

 光を放ちながら降臨したのは、五人の人間です。





 五大都市に降臨した五人の人物は、全員真っ白なローブを着ていました。

 バルトシティの太陽宮殿に降臨したのは、東方系の顔立ちをした黒髪の美女です。

 ゆったりした服を着ていても体のラインがはっきりわかるほど、胸も腰回りもムチムチに熟しきっています。

 女は宮殿の象徴である尖塔、通称太陽の塔間近の空に浮かび、ニヤニヤ笑って大陸最大の都市とその市民を睥睨しました。

 ロージャ共和国の革命広場に舞い降りたのは真っ白な髪と髭を長く伸ばした長身の老人です。

 シップランドの王都に舞い降りたのは浅黒く日焼けした小柄な男で、タイタンの王都に舞い降りたのは中年の、ぞっとするほど美しい黒髪の男です。

 そしてゼップランドのローズ城上空に舞い降りたのは、こちらも妖しいほどの美貌をたたえた金髪の若者です。

 異変に気づいた五大都市の兵士たちがそれぞれ城前の広場に集結し、夜のように暗くなった空に向かって一斉に矢を放ちました。

 しかし


「矢が」


「体をすり抜けた」


 ショックを受けたブルックとイオリはそれきり絶句しました。


「つまらぬ真似を」


 太陽宮殿の上空に浮かんだ女はニヤニヤ笑いを顔から消し、柳眉を逆立てると真っ暗な空に向かってピン、と人差し指を伸ばしました。


「オーム」


 奇妙な呪文とともに女は白くしなやかな指を兵士たちに向けました。

 すると地響き立てて広場が真っ白に発光し、そこにいた数百人の兵士が一斉に、受け身も取らず棒のようにバタバタ倒れました。


「なにが起きたのです!?」


「落雷じゃ」


 暗黒の空を見あげて震えるアグネス妃に太陽王が語ります。


「わしが王都に残した精鋭が、あの女が指を一本振っただけで全滅した」


 そう語る太陽王の額に、信じがたいことに冷や汗が浮かびます。

 シップランドとゼップランドの連合軍との戦争で一時苦戦し、自分のまわりにたった四騎の近衛兵しかいなくなったときでさえ動じなかった王の額に。





 革命広場の老人は長く伸びた顎髭をしごくと、のんびり口を開けました。

 開いた口から白い霧がモヤモヤ放たれます。

 霧に触れた兵士たちはバタバタ倒れました。


「大丈夫か!?」


 霧を逃れた兵士は倒れた兵士の甲冑にとっさに触れました。

 素手で触れたのです。すると


「な、なんだこれは」


 兵士は悲鳴をあげました。

 てのひらが甲冑にぺったりくっついたのです。

 兵士が無理やり手を引っぱると、ベリベリおそろしい音立てててのひらの皮と肉が引きちぎれました。


「ギャアア!」


「死体に触れるな!」


 別の兵士が叫びます。


「みんな凍死してる! 触ったらこっちもダメージ食らうぞ!」





 ロックシティの小柄な男は顔色一つ変えず、手もとでビスケットを折るようなしぐさをしました。

 すると城前広場の地面に深い亀裂が、縦横に何本も走るのです。

 亀裂がすべての兵士を飲み込むと、小柄な男は敬虔な信徒のように合掌しました。

 男のしぐさに合わせて、亀裂がゆっくり閉じます。


「はやくあがれ!」


「た、助けて!」


 地底の壁にしがみついた兵士たちの悲鳴を飲み込み、亀裂はぴったり閉じました。





 ジークフリート城上空で美貌の中年男はパチンと指を鳴らしました。

 すると広場の兵士たちが一斉に兜を脱ぎ捨てます。

 素顔をさらした兵士たちは五十人で一組になり、大きな輪を作りました。

 大きな輪が十個完成すると、兵士たちは口を開きました。

 その口から炎が噴き出します!

 兵士たちは互いが吐いた炎にうしろから呑み込まれ、全員またたく間に焼死しました。





 ローズ城にあられた金髪の美男子は、ギターを弾くように軽く手を振りました。

 するとおそろしい突風が王都の地を祓います。

 広場に集結した兵士たちは風に掬われ、あっという間にお城の尖塔より高く宙を舞いました。


「あれ?」


「なんだこれ?」


 宙を舞う数百人の兵士たちは、成すすべなく王都の地面に叩きつけられました。

 甲冑が石畳にぶつかる音が雷鳴のようにとどろき、すぐ静かになりました。

 石畳にじわじわ血が広がります。

 動く兵士は一人もいません。


「五大都市の精鋭部隊が全滅……」


「一分かかってないぞ」


 メルヴィンとキャロルの兄弟が青ざめた顔でつぶやきます。


()()()()()()()()()


 再び草原をカミの声が圧しました。


()使()()()()()()()()()()

 ()()使()()()()()()()

 ()()使()()()()()

 使()()()()()()

 ()使()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()

 ()()()()()


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ