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第11話 美しき第三王子

「兄ちゃんいよいよ始まるね!」


 男たちのしわがれた声に満たされたグラウンドに、突然陽気にはしゃぐ子どもの声が響きました。

 殺し屋やお尋ね者が居並ぶこの場にふさわしくない無垢な声です。

 イオリがそちらに目を向けると、五人の少年がにぎやかに会話していました。


「見てろよ」


 一丁前に革甲冑を着た少年が、興奮気味に鼻の穴をふくらませます。


「おやじとおふくろの反対を押し切ってここまできたんだ。絶対護衛に選ばれてやるぜ!」


「ジョニー、護衛に選ばれて大金手に入ったらなんに使う?」


 眼鏡をかけた痩せっぽちの少年が尋ねます。


「そんなの決まってる。おれたちのアガルタを作る軍資金にする」


 イオリは思わずジョニーと呼ばれた少年の顔をまじまじと見つめました。


「エリックおまえはどうする?」


「おれは護衛になれっこないからおまえについていく」


「欲がねえな。クリフ、アリスター、おまえら金が手に入ったらどうする?」


「おれはうまいもん食いてえなあ」


「おれも」


「おまえらいつも食う話ばっかだな。アンドレスは?」


「ぼくはとーちゃんとかーちゃんの家を建てる!」


 ジョニーの実弟らしいアンドレス少年が目を輝かせて宣言します。すると


「まだ腰の剣が重そうなガキがなにいってやがる……おい!」


 弟をバカにする肥った冒険者の鼻先で、ジョニーはいきなり剣を振るいました。


「な、なにしやがる!」


「あんたの肩にこいつがとまってた」


 ジョニーが剣を差し出します。

 肥った冒険者は目を細めて差し出された剣先を見つめました。

 剣には切断されたハエの頭がちょこんと乗っていました。

 冒険者が悲鳴をあげて逃げ出します。


「ひええ」


「ざまあみろ! 兄ちゃんは村で一番強いんだぞ!」


「なんだよ?」


 自分を見つめるイオリを、ジョニーはきっと睨み返しました。


「なんか用でもあんの?」


「……」


 すぐ目を逸らし、イオリはそっと胸を押さえました。

 少年たちを見ているうちに、イオリはアランやエリを思い出しました。

 イオリにとって思い出は常に痛みです。





「やあ」


 所在なげにたたずむイオリに気さくに声をかけてきたのは革甲冑を着た、二十代後半ぐらいの青年です。


「ディーン・カッターだ。シップランドからきた冒険者だよ」


 島国シップランドはゼップランドの友邦国です。


「おれはイオリ。ファミリーネームはない」


 背は同じくらいですが体重は明らかにディーンが重そうです。

 二人は握手しました。

 ディーンは素手でイオリの右手を握りました。

 大きいけれどふわっと柔らかい手です。


「きみは剣士? まさか二千人も集まるとはね。でもどうやってテストするんだろう? 二千人のトーナメントじゃ時間がかかるし……」


 とそのときスタンドで銅鑼が打ち鳴らされました。

 ボ~ンと鈍い音がグラウンドを包みます。

 銅鑼を鳴らした上半身裸の筋肉男は大音声で告げました。


「ゼップランド国王、アダム・ローズ陛下御入場です!」


 スタンドの貴賓席にあらわれたのは金色の王冠をかぶり、王家の紋章である草の葉をあしらった白いマントを着た人物です。

 まだ五十代のはずですが皺が深く、顔は染みだらけで腰は曲がり、足取りも頼りなげです。


「あれがローズ王……」


 五十代とはとても思えない国王の老衰ぶりに、ディーンはショックを受けました。

 足どりがおぼつかない王は別の人物に手を取られていました。

 王の手を取るのは黄金のティアラに白いドレスを着た少女です。

 金色の髪はやや短めで、瞳は青く、薄い唇は果実のようなみずみずしさをたたえています。

 清楚にして妖艶

 そんな相反する言葉が、無学な男たちの脳裏に浮かびます。

 創世神話で女神を惑わせた、おそるべき傾神の美少女ルイーズを連想させる美貌です。

 二千人の候補者は圧倒され、グラウンドは不気味な静けさに支配されました。


「……すげえ美人だ」


「どこのお姫さまだ?」


「バベル大帝国のアグネス妃よりきれいだな」


「あんなおばはん目じゃねえよ!」


 と、そこでイオリはふと視線を感じました。

 王の手を取ったあの美少女が、貴賓席からじっとグラウンドの自分を見つめているのです。


(なんだ?)


「おいあの子こっち見てるぞ」


「バカおれを見てんだ!」


「黙れ!」


 男たちを怒鳴りつけたのはいつのまにか円形のグラウンドをズラッと囲んだ兵士です。

 兵士は全員金属製の甲冑を着ています。


「なんだかきな臭くなってきたぞ」


 冒険者のヤンセンが不安そうに肩をすくませます。


「第一王子メルヴィン・ローズ殿下、第二王子キャロル・ローズ殿下、ご入場です!」


 王に続いて二人の息子、巨漢の長男メルヴィンにスマートな美男子の次男キャロルが姿を見せました。

 王子はともに紺色の軍服を着ています。

 すでに着席した王のそばに、白い詰襟の制服を着た黄金騎士団の騎士が二人護衛についています。

 一人は十年前の防衛戦争で戦死した姉のモニカ・クーガーのあとを継いで団長に就任した国民的英雄ジェット・クーガー、もう一人は騎士団唯一の黒人で副団長のカイ・セディクです。


「おいニガーだ!」


「黄金騎士団に黒人とは世も末だぜ」


 男たちにやじられたカイは真っ白な歯を覗かせ、ニッコリ笑いました。


「第三王子で今回ぼくらが護衛するブルック殿下の姿がないね」


 とディーンがイオリに囁いたときです。


「これより選抜テストを行う」


 拡声器を手にした第一王子メルヴィンが宣言しました。

 拡声器は魔道具で、そんなに大きくないメルヴィンの声はグラウンド、およびスタンドにいる人すべての耳に着実にデリバリーされました。


「大陸全土から集まった候補者は二千人! みなわが国の危機を救うためよくきてくれた!」


「金が欲しいだけさ」


 だれかのつまらないまぜっかえしに男たちがゲラゲラ笑います。


「わたしの弟ブルック・ローズが今から一週間後八月一日王都を出発して西の【火の山】へ向かう。王都から火の山までの距離はおよそ五百キロ。これを歩く。諸君にこの旅の護衛をお願いしたい」


「よ~よ~、そのブルック坊やはどこにいんの?」


 再びグラウンドの候補者たちがゲラゲラ笑います。すると


「諸君らの目の前にいる」


「え?」


「彼こそわが弟」


 メルヴィンはさっき王の手を取った、白いドレス姿の美少女を指さしました。


「ブルック・フリーダム・ローズである」


 一陣の風のような戦慄がグラウンドを走ります。


「あ、あれ男か!」


「女よりきれいだぞ!」


「大陸一の美人だ!」


「ブルックは一か月後に死ぬ!」


 メルヴィンの唐突な発言に、男たちは静まり返りました。


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