第102話 第七官界の死闘
地上に落ちてくるジェットを、ルークは魔法のクッションで受け止めました。
「大丈夫!?」
急いで駆けつけようとするルークを、今度は黄金の光が襲います。
「盾!」
ルークが虚空に魔法の盾を浮かべると、黄金の光は跳ね返されました。
光を飛ばしたのは黄金の甲羅を持つ、巨大なカブトムシです。
カブトムシは長いツノの先端から妖精目がけて、次々翼状の光を放ちました。
「こいつぅ、アレス!」
ルークは顔をしかめて盾の強度をあげました。すると
「ルーク!」
ジェットの悲鳴が妖精を振り向かせます。
金色のトサカを持った巨大なトカゲが、体を沈め背後からルークをうかがっているのです。
「やばっ」
小さい体にトカゲの長い舌が巻きつくと、ルークはたちまちがっくりうなだれました。
「どうしたルーク!!」
「体が……しびれる……唾液に、毒が」
そこでルークは意識を失いました。
慌てて駆けつけようとするジェットの目の前で、トカゲは動かなくなった妖精を飲み込もうとしました。
「させぬ!」
ジャックは肥った体に見合わない軽快なジャンプを披露し、トカゲの舌を剣で斬りました。
「ケケッ」
トカゲは小さくうめき、体を震わせました。
すると切断された舌が再びニョキニョキ生えてくるのです!
「エヴァン、ルークを!」
妖精を少年騎士に手渡した直後、ジャックはトカゲの舌に絡め取られました。
「なんの! これしきの毒で……」
トカゲは舌を振りあげ、ジャックを地面に叩きつけました。
人間が台所に出たゴキブリをスリッパで叩き潰すように、何度も何度も。
「ケケッ」
トカゲが眼前に持ちあげたジャックの姿は、ひどいものでした。
首をかしげてジャックを見つめ、トカゲは一息に獲物を飲み込もうとしました。
そのときジャックが叫びました。
「今だエヴァン!」
いつの間にか、トカゲの顎の真下にエヴァンが立っていました。
彼の目にトカゲの顎の裏側が見えます。
その顎に、青い小さい玉がぽつりと宿っています。
「見えた!」
エヴァンはジャンプしました。
顎といっても巨大なトカゲのそれは平屋の屋根より高い位置にあります。
しかしエヴァンはトカゲの顎に楽々手が届きました。
エヴァンの背中に小さい羽根が二枚くっついています。
ルークの羽根です。
「食らえ!」
エヴァンが突きあげた剣は青い玉を下からまっすぐ貫きました。
「グエッ」
トカゲは悲鳴をあげると一瞬で全身が白い灰になりました。
「やったなエヴァン!」
自分を受け止めようと手を差し出すエヴァンに、ジャックは笑顔を向けました。
「ジャック!」
エヴァンが広げた手に、ジャックの笑顔が落ちてきました。
落ちてきたのは首だけです。
巨大なカブトムシはジャックの首を斬り落とした翼状の光を矢継ぎ早に飛ばしました。
エヴァンは空を飛び、生首を抱えて逃げ回りましたが、光は容赦なく少年騎士のお腹や足を斬り裂きます。
「イオリ助けて!」
エヴァンは赤い空に向かって叫びました。
すると赤い空から黒い竜が飛来するのです。
ドラゴンの翼を生やしたイオリは、カブトムシの死角から急接近しました。
長いツノの真ん中が、ポツンと青く光っています。
(あそこだ)
不滅のティグレを見つけたイオリが空中で剣を構えたそのときです。
突然イオリの目の前が明るくなりました。
翼状の光がイオリの真正面から飛んできます!
(光がブーメランみたいに戻ってきた)
イオリは慌てて刀を振るいました。
その一閃で黄金の光が四散したのは、神刀不知火丸だからこそでしょう。
カブトムシは振り返ると、空中のイオリ目がけて突進しました。
長いツノが槍となってイオリの心臓を狙います。
イオリは刀を背中へ回しました。
居合斬りの構えです。
イオリは虚空の一点に、目に見えないマークをつけました。
(ツノがマークに届いたら斬る)
と思ったときです。
再びイオリの目の前が明るくなりました。
またカブトムシが光を放ちました。
「うおっ」
間一髪光の光をよけたとき、脇腹にズキン! と痛みが走ります。
(やばい!)
痛みで一瞬動けなくなったイオリをカブトムシのツノが襲います。
これはよけられない! とイオリが覚悟したときカブトムシの脇腹に火花があがりました。
「こっちだカルマ!」
失神から目覚めたルークが矢を連射します。
矢はカルマの甲羅に命中すると爆発しました。
線香花火のような小さい炎しかあがりませんが、うるさく思ったのかカブトムシの足が止まります。
「こんちくしょう!」
再度ルークが放った矢は的を外れ、地面に当たって火花をあげました。
カブトムシはツノをルークに向けるとまた光の翼を放ちました。
「スクゥ……」
ルークは盾の呪文を途中でやめ、慌てて逃げました。
光の翼は蛇行して飛ぶルークを正確に追尾します。
「うわわ!」
(光自体に追尾機能がある)
とイオリが察したときです。
光の翼が突然追跡をやめました。
さっきルークが放った、地面でくすぶっている火矢の残り火に向かって飛んで行ったのです。
光の翼は地面に突き刺さり、そこで消滅しました。
「ルーク!」
すかさずイオリが叫びます。
「カブトムシのティグレが見えるだろう! そこに矢を放て!」
「ぼくの矢じゃ射抜けないよ!」
「いいからやれ!」
二人がやりとりしている間に、カブトムシは再び光の翼を放ちました。
ルークに向かって放ったのです。
「うわ、また」
ルークが必死に逃げます。
「ちくしょう振り切れない!」
「ルーク矢を放て!」
「やるんだルーク!」
イオリとジェットに励まされ、妖精は逃げ回りながら矢を構えると、健気に放ちました。
狙い通り、矢はカブトムシのツノに命中し火花をあげました。
「急降下だ!」
イオリにいわれるままルークが急降下すると、追っかけてきた光がそのまま妖精の頭上を通過しました。
「あれ?」
光はとまどうルークの頭上を滑空すると、カブトムシのツノ目がけてまっすぐ向かいました。
向かった先にルークの矢で生じた、小さいくすぶりがあります。
(あの光は熱に反応する)
イオリの判断通り、光はくすぶりに達するとスパッとツノを切断しました。
不滅のティグレごと切ったのです。
カブトムシはたちまち全身が真っ白な灰になって崩れ落ちました。
「よし!」
歓喜するイオリの首筋を熱風が叩きます。
振り向くと巨大な黒いピューマが、イオリの首を噛み砕こうと口をあけていました。




