第1話 カミの顕現
カミと人類の死闘を描く剣豪ファンタジーです。
毎朝5時に投稿します。
【カクヨム投稿済み作品】
ある日この世界に、カミが顕現しました。
地震や雷や竜巻や津波が人々を襲いました。
いずれもカミが起こした天災です。
わずか一か月で世界の人口は半分に減り、国家やインフラはすべて跡形もなく消滅しました。
さらにカミの使いである怪物があらわれました。
怪物が出現してたった半年で、世界の人口は以前の二十分の一まで減少しました。
怪物に襲われた人々は、みんな安物のティッシュのように引き裂かれたのです。
ここは崩壊した都市です。
昼間ですが空は暗く、空気に硝煙と血が混じった、きな臭い匂いが立ち込めています。
瓦礫の山と化した町に、二人の兵士がいました。
二人とも迷彩柄の戦闘服を着て、手に小銃を持っています。
一人は中年で、一人はまだ子どものような少年です。
ともに黒髪で肌は黄色。
二人の前に怪物がいました。
巨大な鳥や獣や魚のような怪物が数百体。
さらに怪物の群れの前に十数人、二本足で立つ悪魔がいました。
ツノや牙、鋭い鉤爪を持つ赤い肌の悪魔は身長が優に三メートルを超えています。
中年兵士は怪物の群れに小銃を向け、引き金を引きました。
しかし弾は出ず、空砲を告げるノイズがむなしく聞こえるだけです。
中年の兵士は自分のとなりにいる少年兵士に笑顔で告げました。
「エイジ先に行くぞ」
「隊長」
隊長は小銃を捨てると腰からナイフを引き抜き、群れの先頭に立つひときわ大きい悪魔に斬りかかりました。
「チェスト……」
隊長の気合いは途中で消えました。
悪魔が背負った大剣を引き抜き軽く振るうと、隊長の体は尻に爆薬を詰められたカエルのように、パン! と無惨に四散したのです。
「神剣【裸のランチ】の切れ味今日もよし。きみがこの世界最後の兵士だ」
悪魔は血に濡れた大剣で、エイジと呼ばれた兵士をさしました。
「われわれはきみたち人類が最終兵器として赤い鞘の刀をこしらえたことを知っている。その刀をどこへやった? 教えてくれたらきみは見逃す」
「……いつかきっと人類は復活する。あの刀を手にした者が、おまえたちを滅ぼす」
「そうか。残念だ」
「ソニー殿、刀はわれわれがさがしに参ります」
「頼む。では少年よ、さらば」
ソニーと呼ばれた怪物はまっすぐ大剣【裸のランチ】を振りおろしました。
刃が放つ鈍い光にまぶたを打たれながら、エイジは最期につぶやきました。
「アガルタ」
そのころ。
一人の少女が瓦礫の町を歩いていました。
頭に包帯を巻き、白地に赤い水玉をあしらったパジャマを着た、浅黒い肌の少女です。
おそらく白人と黒人のハーフでしょう。
白いスニーカーをはいた少女は、両手で赤い鞘の刀を抱えていました。
さっき目覚めたばかりの病院から、わけもわからずフラフラと外に出たら、そこへ通りかかった子どもみたいな兵士にこれを渡されたのです。
「この刀をきみにたくす。邪魔になったら人目につかないところへ置いて行って構わない。とにかくどこか遠いところまで刀を持って行ってほしい。頼む」
「……刀の名前は?」
「不知火丸。かっこいいだろう?」
人類は奇跡的に絶滅を逃れました。
カミが古代文明を滅ぼしたカタストロフィの直後、今度は女神が顕現したのです。
女神は神秘的な力でカミと怪物の侵攻を止め、人類を救いました。
今なおカミは世界を支配していますが、人々がひそかに崇拝しているのは女神です。
人々は女神の再来を熱望しましたが、破壊された多くの町の復興に手を貸したあと、女神はどこかに隠れその姿を千年近く見せていません。
女神を信仰する人々は、こう囁いています。
「女神さまはアガルタにいらっしゃる」
アガルタは東方の伝説で、地上のどこかにある幻の楽園の名前です。
だから女神信仰は別名アガルタ教と呼ばれています。
カミが顕現して九百八十三年後。
人類は少しずつその数を増やし、世界も徐々に復興しました。
かつて華やかに栄えた古代文明の記憶やテクノロジーは人類の中からほとんど失われました。
カミの支配は続いています。
カミは言葉を発しません。
気に入らないことがあると地震や洪水を起こして人々を脅すだけです。
その結果法や道徳が大幅に力を失い、忖度と暴力がものをいう退廃した社会が誕生しました。
またカミが顕現した影響なのか、竜やリヴァイアサンといった巨大な怪物が各地に出現し、エルフやドワーフといった亜人種も多く出現するようになりました。
カミの天罰で海に沈んだ国も数多くあります。
逆に新しい国もいくつか誕生しました。
現在大陸には五つの国家が存在します。
まず北に「女神生誕の地」といわれる大国タイタンがあります。
西に孤高の島国シップランド、東に五十年前革命で誕生した新興国家ロージャ共和国があり、大陸の中原を支配するのが超大国バベル大帝国です。
さらに南端に東西へ細長く伸びた小国があります。
名をゼップランドといいます。
ゼップランドは小国ながら大陸で唯一言論の自由が許された国で、さらに移動の自由やおおっぴらではないけれど信仰の自由もありました。
庶民だけでなく、王族もタブーである女神をひそかに信仰しているという噂です。
ゼップランドを大陸の楽園と呼ぶ人もいます。
この物語はゼップランドの王都ローズシティの下町から始まります。
絶対的な力を持つカミに対する、人類の反撃の物語です。
なぜ戦うのか?
水や空気と同じように、人間は自由と尊厳と成長が必要だからです。
このあと5時10分に第2話を投稿します。




