君臨する五の脅威
雰囲気が和気藹々となったのはもちろん嬉しいことではあるが、いつまでもそんな雰囲気ではいられない。
何せ、こちらは圧倒的劣勢で状況は最悪なのだ。まるで、今にも消えてしまいそうな蝋燭の灯火のように。
「さて…アルマも加わったことだし、ちょうどいいですね。まずは我々がしなければならないことをまとめましょう」
レイはそう言いながら皆を集め、机に地図を広げる。そこにはエリアごとの情報も記されていた。
「…私が調べた範囲だと、これだけしか情報を手に入れられませんでした。申し訳ない」
「いや、仕方ないさ。それよりも、こうして危ない任務を自分から担ってくれただけでありがたいところだ」
想像以上に情報を集めることができず謝るレイを、エースは慰める。それに、彼女はこうして卑下こそしているが…これだけ情報を集めれていれば十分である。
「…まず順番にエリア1から話します。私が観測した限りだとエリア1は大自然溢れる二つの林から構成されるエリア。名前をつけるならそうですね…『みく林』『たけ林』とでもつけておきましょうか」
レイはそう言いながら懐から撮ってきた『たけ林』の写真を取り出し、皆に見せる。どうやらこの『たけ林』の竹一つ一つに自我がある、らしい。
「なんか…ものすごい僕とシンパシーを感じる」
「案外お前の創造主がこの『たけ林』を作ったりしてな!ナッハッハァ!」
「そんなことはないと思うんだけど…」
『たけ林』の写真を見て何かに共鳴する古代のロボット、アースとそれを揶揄うシロップ。ただ…案外シロップの言ってることはある意味では的を得ているかもしれない。まあ、それは置いておこう。
「もしかしたら洗脳者かもしれませんが…誰か、生存者がいた痕跡があったということだけは伝えておきます。強大な獣の気配がして身の危険を感じ、即刻離脱してきましたが」
そう伝えエリア1の報告を終わろうとするレイに、ウズメはある補足をする。
「一つ、補足よ。どうやらエリア1にはこの世界を侵略するガンダーラ軍の『幹部』が拠点を構えてるみたい。——おそらく、他のエリアにも全て幹部が拠点を構えてると思うわ」
「ただでさえどこもかしこも敵が勢揃いだってのにそこに幹部がいるとなるとかなり厳しいにゃね〜…」
ウズメはそう調べてきたことを報告し、ミーナはそれに対して大きなため息をつく。明らかに、こちらが不利すぎる。
「なるほど、だから戦力集めが当面の課題ってわけね」
「その通りです。まずは仲間を集めなければお話にもなりません」
ららがそう話し、レイはそれに肯定する。ここのメンツも猛者揃いではあるが…これでは流石に多勢に無勢。これだけの人数でガンダーラ軍と正面衝突ははっきり言って無謀だ。
「次のエリア2は灰色の街、『グレイ・シティ』で主に構成されています。このエリア2は後述するエリア5と並んで危険地帯です。向かわせるなら、戦闘力の高い者を」
エリア2は幹部による統率がうまく行われているのか、敵も手強く非常に危険度が高い。レイはそう調べてきたことを告げる。実際、このエリア2を調べる上でレイは何度も危ない目に遭い、予定より早く切り上げたのだ。
「なんとか命からがら撮れた写真はこの1枚だけです。力不足で申し訳ない」
「なーに言ってんすか!ここまで情報を持ってきておまけに写真も撮れたとなればもはや偉業っすよ!」
落ち込むレイに対し、アルマはそう励ます。もっとも、励ましというより事実を陳列してるだけなのだが。
エリア2『グレイ・シティ』は、灰色に色褪せたビル群がエリア2の中心部に一つ、周辺部に何箇所かに点在しており、その他の地域はビルやマンションが疎らに点在する荒野となっている。このエリアは大気汚染がひどく、スモッグがかかることが多い。
地形は東側に近づくほど山がちになっていき、その他の地区は比較的平坦な台地となっている。また、この地区の中心部には幹部の本拠地、『黒い高塔』がある。霧で覆われることが多く、夜になると度々魔物が空を飛ぶ姿が目撃されている。
「夜になるとさらに一際危険となります。できれば、夜中の行動は控え日中のみの行動に抑えるべきかと」
「なるほど…これは中々厳しい戦いになりそうだな」
エリア2の調査報告を終えたレイに対し、エースはそう感想を言う。騎士団長として数々の試練を乗り越えてきたエースだが、流石のこの状況には頭を悩ます。
「エリア2はここまで。次はエリア3『The future of the メキシコ』…通称、未来の海」
このエリア3、『未来の海』は全て海で一面構成されている。しかし、そこである問題が出てくる。
「申し訳ありません…海は無理です、泳げないので情報収集はほとんどできませんでした」
つまりエリア3は未知数なまま攻略を進めなければならない、というわけだが…
「そうだろうと思ってミャアの使い魔をエリア3に向かわせておいたにゃ。まあそれでも、多少しか情報は得られなかったんにゃけど」
ミーナの使い魔の黒猫は空を飛ぶことはできる。流石に海の中までの探索は不可能であるが…それでも、情報がないよりは断然マシである。
エリア3は基本海しかないが、ところどころに孤島が存在する。そこに洗脳された者や集落が存在する…らしい。あまり正確なことはわからないが。
「あと時々よくわからない魚が海面を飛び跳ねてるらしいにゃね」
「なにそれ、トビウオの類っすか?」
また、このエリアの特性上おそらくは幹部のいるであろう前哨基地は海中にある。
「となると、船を確保しなくちゃダメだね」
「船だけじゃないな、潜水艦も欲しい」
エリア3は他のどのエリアよりも環境的な問題がデバフとなる。これを見越してディオさんに船でも作ってきて貰えばよかったとアルマは後悔した。しかし、時すでに遅しである。さて、次のエリアの話に移ろうではないか。
「次はエリア4、『オリ砂漠』。この砂漠は強い砂嵐が吹き荒れていて、また私が見かけた限りだとこのエリアだけは洗脳者が一人もいませんでした。そして…」
一呼吸おいて、レイはこう告げる。
「オリ砂漠は私の出身地のはずなのですが…この世界の砂漠は、自分が知っているものと少々違いました。これは私の推測に過ぎませんが、その他ほとんどのエリアも、何かしらここに移動した時点で謎の力の影響が加わってるのかもしれません」
ただの偶然かそれとも…エリア4には洗脳者が一人もいなかったことと、オリ砂漠が変貌しているということはここに記しておく。そして最後は…
「…最後はエリア5、『死の街』ですが…ここはあまりにも危険すぎて調査を断念しました。申し訳ないです」
エリア5はこの数連なるエリアの中でも最も危険なエリアである。何せ、量産機兵の数も他のエリアより圧倒的に多く…とてもじゃないが、ここでの活動は命に関わると判断して断念。
「一応、これがエリア5の写真です。1枚だけ撮ることには成功しました」
レイはエリア5で撮ってきた写真を皆に見せる。そこにはまるで大地震でも起きたかのように崩落している街と、地面にこびりついている謎の赤い物体、赤く悍ましい空が映っていた。
「このエリアだけガチすぎねーか?」
「エリア5の幹部は想像以上に働き者っぽいわね」
基本暴走気味であるシロップですらエリア5の写真を見て困惑し、ウズメはエリア5についてそう推測をした。
以上、これらが全てのエリアである。
「さて…人員の振り分けと行きたいところですがひとまず一旦それは置いておきましょう」
あまり暗い話をするのも良くはない。ここは一つ、楽しい話でもしようではないか。
「我々は今世界を侵略する『ガンダーラ軍』に対抗しているわけですが…呼び名がない、というのは不便です。ここは一度呼び名を決めておきましょうか」
レイはそう彼らに提案した。