希望による上書き
「おいおい、ウサギにキツネの次はアルマジロかよ。メンツがどんどんおかしな方向に…」
「シロップ。彼らも、あなたには言われたくないと思いますよ」
「どういうことだよ!?」
レイに連れられてきたアルマが最初にこの拠点で出くわしたのは、巨大なハンマーを持った冒険家、シロップだった。アルマを見ては大きなため息をついたが、レイから思わぬ反撃を喰らったことで怒り出す。だが、そんなことはどうでもいい。まず最初にアルマがこの冒険家を見て思ったことは…
「そのハンマー、めちゃくちゃかっけぇじゃないっすか!!!」
この冒険家が持っているハンマー、すごいカッコいい。アルマの第一声は、それだった。
「お、わかるかチビスケ!このハンマー、実は機械仕掛けでなぁ…」
「機械仕掛け!?そんなの、すんごいロマン溢れてんじゃないっすか!!」
「…もう打ち解けてますね」
一瞬でアルマとシロップは意気投合してしまい、レイは呆気に取られる。自分はもしかして、相当すごい逸材を拾ってきてしまったのではないか…と。だが、まだ彼女にはやることがあった。拠点の周りに不穏な者がいないかのパトロールである。彼女は一旦その場から離脱した。
「よーし気に入ったぜチビスケ、俺はキャプテン・シロップ!お前は?」
「僕の名前はアルマっす。これからよろしくっす!」
「おうよ、相棒!」
アルマとシロップは肩を組み合い、一瞬で一生の仲となってしまった。シロップは性格に難がありいつも空回りしてたりするのだが…まさか、あの彼をここまで虜にするとは。
そして、現れたのはシロップだけではない。
「どこかで聞いた覚えのある声だと思ったが…もしかして、アルマか!?」
「むむむ、その声は…エースさん!?お久しぶりっす!」
シロップと肩を組んで笑い合っていたアルマは突如自分の知り合いが現れて驚く。その斧を装備しているウサギの名前は、エース。騎士団長として普段は働いている。
「どうしたアルマ、そのイケメンウサギことエースとは知り合いか?」
「あぁ、俺はアルマとは前々からの知り合いでな…」
「俺はお前じゃなくてアルマに聞いてるんだ」
「…」
「二人とも、仲良くっすよ!!そうっす。僕は一回エースさんの世界に行ったことがあるんすよ」
あのときはほとんど事故でエースの世界に行ってしまったわけだが、なんだかんだあの世界もかなり楽しかった。またみんなで行ってみたいものである。そして…一つ、注意をしなければ。
「むぅ、シロップさん!あまり相手を挑発とかしちゃダメっすよ!」
「俺にはそんな気無かったんだが…すまない、エース」
「次から気を付けてくれれば俺は構わないさ」
「あの二人が手を取り合ってる…」
「アルマってのは何者にゃ…?」
「すごいねあのアルマって人」
喧嘩してばっかりだったエースとシロップだが、ついにお互い和解しその手を取り合う。それを成し遂げてみせたアルマに対しららとミーナはもはや畏敬の念を送り、アースは素直に感心する。
はっきり言おう、アルマのコミュニケーション能力は異常である。どれくらいすごいかといえばコミュ力だけでディノスが9年間苦しみ続けた差別を1か月くらいで完全に無くすことができるくらいにはバケモンである。
「これはまた、期待の新人が入ってきたわね…」
九尾の狐であるウズメは、アルマに対して関心を持つ。戦闘能力というのも大事ではあるが…こういうムードメーカーも、戦場では大必須なのである。
アルマが来てから、絶望感溢れていたこの基地は一気に希望で溢れかえる。
「実はミャアは人間じゃなくてネコなんにゃよ」
「え、そうだったのか?」
今までミーナのことを人間だと思い込んでいたエースだが、まさかのネコという事実に驚愕する。
「アーちゃんって大きいわよねー、ちょっと肩車してくれない?」
「わかった!」
「…少々、賑やかになりましたね?」
「あのアルマって子が来てからずっとこんな感じよ」
絶望が絶えなかったこの基地であったが、少しずつ、少しずつ明るくなっていったのだった。