つき
めを あけたら、まっくらだった。
つきのひかりが、やさしくて しろくて、まっくらの おへやに そっと ふとんを かけてる みたいだった。
あ、そうだ。ぼく、ままと かくれんぼしてたんだった。
「けんちゃん、ままと かくれんぼ しましょ」って、ままにいわれた。
あのこえ、すこしだけ こわくて、でも たのしいひびきだった。
ままは にげるほう。
ぼくは さがすほう。
それが おきまり。
でも、ままは すごく じょうずなんだ。
おふろばも、トイレも、おしいれも、なんにも はいってない れいぞうこも、ぜんぶ みたけど、ままはいなかった。
ほんとうに すごいなあ、ままって。
でも ぼく、いつのまにか ねちゃってたみたい。
ふとんにもぐって、つきのひかりを みながら ねちゃったのかな。
まま、ずっと かくれてたんだ。ぼくが ねてる あいだも。
かわいそうなまま。
まま、いま どこに いるのかな。
たんすの なか? てんじょう?
ままは、なんでもできるから、すごい ばしょに かくれてるのかもしれない。
でも、ぼくは おとこのこだから、ちゃんと みつけるんだ。
だから いまから さがしにいくよ、まま。
ままが でてくるまで、ぼく、ずっと さがしてるからね。
ままが「みつかっちゃった」って いってくれるまで、ぼく、がんばるからね。
雲一つない夜だった。
私は、あの人に会い行った。
マンションの駐車場、いつもより少し手前の区画で、彼は車の横に立っていた。
左手には鍵、右手には缶コーヒー。
私は、ゆっくりと近づく。
月明かりが、まるで舞台の照明みたいに私たちを囲んでいた。
彼は、私に気づくと、目を少し細めて言った。
「一緒に来てくれるとは、思わなかったよ」
その言い方が、少しおかしくて、私は小さく笑った。
「一緒に行くわよ。貴方となら。」
彼は運転席に回り、私は助手席のドアを静かに閉じた。
マンションの駐輪場を抜け、車は静かに動き出した。
フロントガラス越しの月が、まるで後を追ってくるように車を照らしていた。
信号待ちのとき、彼がふと、何の前触れもなく言った。
「あれ、お前んとこに居るガキってどうしたんだ?」
私は、また少し笑った。
「私に子供なんて居ないわ。」