第87話 メイン、始動!
「リース! 早くしろ! まだか!?」
『も、もう少しぃぃ!』
「何秒かかる!?」
『うるさいうるさい! 今頑張ってやってんのよ!?』
逆ギレかよ!?
俺たちは【ペルラネラ】でゴーレムにエルボーをかましながら、そんなやりとりをする。
肝心のリブートがかからなければ、俺が爆砕シャフトのコンソールに取りついても意味がない。
その間、俺は殺到する連邦のゴーレムたちに対して大立ち回りを演じていた。
一応、連邦と王国は友好国なので、直接的に死者を出すのはマズい。
この状況になっても、俺はある一定のラインまでは不殺を貫く。そのため、もはやアンスウェラーは肩部に懸架し直して、格闘のみで応戦していた。
【サンセリテス】に取りついている連邦のゴーレムたち現状、飛行型だけだ。
少しでも騎体を軽くするためだろう。自重を支えられる限界まで装甲を削っているせいか、打撃だけでもその外骨格を破壊することができる。
【ペルラネラ】の手で受け止めた敵の刀を引っ張り上げ、その膝を体重を乗せて蹴ると、関節は簡単に逆側に折れ曲がった。
『マスター。観測より増援接近。 CICでの作業進捗、七十パーセント。約一〇〇秒で完了すると予測される』
「くそっ! こいつら蹴散らしても続きがあるんじゃ取りつけねぇ!」
「貴方様、では今こそアレをやるときでは?」
セレスの言葉に、俺は顔を歪める。
「……マジ?」
「今、敵の注意はこの【ペルラネラ】に向いていますわ。貴方様が可能ならば一番安全に作業ができます」
婚約者に真面目に言われて、俺は一人で悶絶しながらも敵のゴーレムにストレートをかました。
アレは本当なら俺より身体能力の高いセレスが適任だが、作業ができるのは俺しかいない。
敵にまとわりつかれている状況で、俺一人をコンソールに移動させるのなら、方法は一つだ。
「んぐぐぐ! 仕方ない! ペル! 『ピッチング』だ!」
『非推奨』
「代案があるならよこせ! ないならやるぞ!」
『……致し方ない』
俺は背後から斬りかかってきた敵の刀をベラディノーテで直に受け止め、【ペルラネラ】を胸部の前に手を翳すように操作する。
そして、素早く操縦系統をペルの自動操縦に切り替えて、胸部のハッチを開いた。
「よっと!」
体を横に倒したセレスの頭上を飛び越え、俺は【ペルラネラ】の手に飛び移る。
ハッチが閉じられる間際、セレスのニッコニコな笑顔にげんなりするが、巨大な手が俺を包み込んだ。
俺はそのときが来るのを体を丸めて待つ。
そして――。
「やれ!」
『目標修正……生きろ。マスター』
――【ペルラネラ】が俺をアンダースロー気味にブン投げた。
丸まった俺の体がぐるぐると回転しながらブッ飛んでいく。それでも混乱しない三半規管に感謝だ。
【サンセリテス】の甲板は平滑なので、余計な突起は目的のコンソールまでないに等しい。
俺は着地する寸前で姿勢を変えて、その滑らかな甲板を滑った。
「うおおぉぉぉ!?」
わかってはいたが、物凄い速度だ。
これでコンソールに取り付けなかったら、そのまま船体という巨大なジャンプ台からフライアウトするハメになる。
俺は矢のような速度で切り替わる風景の中で、コンソールの場所らしき窪みを見つけた。
だが、船体が傾斜しているせいか、今の進行方向では取りつくのは無理だ。
「マジかよ!?」
ペルのやつ、ここまで計算に入れてなかったな!?
俺は歯を食いしばりつつ、意を決して、全力で右腕を地面に叩きつけた。
途端に俺の体がふわっと浮いて、窪みに向かって飛んでいく。
掴める場所はそう多くない。俺は突起に向かって必死に腕を伸ばした。
「うおぉぉぉ!」
掴んだ! 瞬間、ぐんと俺の全体重と速度の力が肩にかかり、あやうく関節が外れそうになる。
だが、セレスから共有された【天武】の祝福が、ギリギリで俺の体を繋ぎ止めた。
俺は素早く甲板に埋め込まれたレバーを引くと、プシュっと音がして足元の金属板がスライドする。
出てきたのは大きめのハンドルだ。今は赤くランプがついていて、それを引くと円柱状の物体がせり出てくる。
これを九十度回して、押し込めば点火できるはずだ。
そこにリースから通信が入る。
『全自閉モード解除完了! あとは!?』
『リース様! 残りは保護ガラスにカバーされたそのスイッチを押すだけです!』
『ちょ、これ、どうやって押すの!? 斧とかないの!?』
「なんでもいい! 叩き割れッ!」
俺が怒鳴ると、通信の奥でリースが息を呑む気配がした。
頭上では【ペルラネラ】が飛行して敵から回避行動を取っている。今やらなければ【ペルラネラ】も損傷する可能性がある。
俺はインカムに向かって言った。
「クラリスの騎士になるんだろ!?」
『ああ~~~ッ! わかったわよ! いくわッ!』
『スターティングオペレーションマニュアル!』
サンの掛け声と共に、リースが叫ぶ。
『ドラァァァァイヴッ!』
バキン、という音がインカムから聞こえた。
ハンドルのランプの色が緑に変わり、甲板の各部のライトが光る。
「よっしゃぁぁぁッ!」
同時に、俺はこの危機的状況を楽しんでいることを自覚して、その心情と共にハンドルを回して勢いよく押し込んだ。
瞬間、猛烈な音がして、船体の先端から後ろに向かって連続した爆発が生じる。
『バリュート・アブソーバー、ディバイデッドクリア』
『手ぇ痛ぁぁぁっい!』
「メイン、始動準備! 補機一番、二番出力最大!」
ペルの報告とリースの叫びを聞きながら、俺はインカムに叫んだ。
ここからは俺の腕の見せ所だ。
事前に準備した手順など頭の中から破棄して、アドリブで再飛行手順を構築する。
「グラビティキャパシタ緊急ブロー!」
『ぶ、ブロー!』
衝撃があって、船体がわずかに浮いた。
ついでに【ペルラネラ】が撃墜したらしいゴーレムが近くに落ちてきて、俺は身を屈めながらリースに問いかける。
「くっ、メインは!?」
『えっ、あっ! ジェネレータエネルギー流入率……三八九パーセントぉ!? いいのこれ!?』
「構うな! 余剰エネルギーは全部吐き出させろ!」
わかっていたことだ。メインジェネレータに寄生している神樹はその魔力を溜めこんでいる。だからこそ、現状でも即始動できるエネルギーがあると踏んだ。
ただ、それだけの余剰エネルギーにこの船が耐えられるかはやってみなければわからない。
それはリースの手腕にもかかっているのだ。
「え、えっと……。エネルギー供給回路接続……コンタクト! 艦各部に分散……! いける、いけるわ! 完璧に! やれる! あたしなら!」
リースの声から興奮が伝わってくる。
俺は同じく頭に沸き上がる高揚の中で、矢継ぎ早に指示を下した。
「やってみせろ! マインドスラスター、および排出ブラスター全口開放!」
『とっくにッ!』
ならばいい。俺は突起を掴みながら、あらん限りの声量で決定的な命令を叫ぶ。
「メイン始動!」
『始動ぉぉぉッ!』
リースの叫びと共に、俺は見た。
艦全体をメインジェネレータから突き出たような光が奔り、大きな柱となる。
そして、それが収束した途端、周囲に衝撃波が広がり、艦を覆っていた地面が吹き飛ばされた。
俺は窪みで衝撃波を避けつつ、ペルとサンの報告を聞く。
『堆積物、クリア』
『ジェネレータ安定稼働領域に達しております!』
あとは飛び立つだけだ。俺はなおも暴風に晒されながら、指示を出した。
「フェルディナン! スラスター全開! 緊急浮上!」
『どこへ行くのだ!?』
「どこへでもだよ! とにかく上がれぇぇぇぇ!」
言うや否や、艦全体がぐんと高度を上げ、俺は急激なGに襲われる。
『マスター。敵の増援接近』
「ちっ、エーテリアルセイル展開! 同時に、|VCAC《ビジュアルコンバッティングアクティブカモフラージュ》を起動しろ!」
『ちょっ、待ってよ! 聞いてないわよそこまで!』
思っていたよりも増援が来るのが早い。恐らく飛行型だろうが、相手をしている暇も余裕もなかった。
俺は窪みから顔を出して、【ペルラネラ】の位置を確認しようとする。
「どうにかし――おわぁっ!?」
だがその時、突風が吹いて、俺の体は宙に舞った。
『気流が不安定だ! グレン! 気をつけるんだ!』
「ちくしょう! もう少し早く言え! 死にかけてる! く、くそっ……!」
俺はコンソールの突起を掴みつつも、平滑な甲板で強風にあおられている。同時に強烈なGがかかっていて、指出しグローブで掴んだ手が――離れた。
俺の体はなんの制動もかからずに甲板を滑って、ついには空へと放り出される。
「ペルゥゥゥッ!」
叫びと共に、俺の直下から黒い少女が羽を広げて舞い上がった。
少女は各部のブースターを小刻みに吹かすと、空中で姿勢を安定させ、手を伸ばす。
その手で、俺の体は見事にキャッチされた。
衝撃に「おふっ!」と声を出しつつも、開いた騎乗席に這いずるようにして体を放り込む。
「楽しそうでしたわね?」
楽しくないよ! 俺の体はピンポン玉じゃないっつーの!
俺はニコニコなセレスに手を振って相槌を打つと、後部座席に座って自動操縦を解除した。
「サン、マニュアルオペレーション解除。自動航行に移行しろ!」
『了解しました!』
「ペル! 制御系はお前が握れ!」
『了解した。エーテリアルセイル展開、|VCAC《ビジュアルコンバッティングアクティブカモフラージュ》起動』
俺がフットペダルを踏み込むと、【ペルラネラ】が高度を上げる。
そして、開いたままのカタパルトハッチに飛び込んだ。
『メインカタパルト、閉鎖』
ペルの音声が響くと一緒に、ハッチが閉じてゆく。
その隙間からは夜明けの光が差しこんでいて、徐々に光量を落としていった。
『|VCAC《ビジュアルコンバッティングアクティブカモフラージュ》起動完了』
ペルの報告通りなら、もうすでにこの艦は見えない。
|VCAC《ビジュアルコンバッティングアクティブカモフラージュ》は艦全体を不可視にする迷彩だ。
スラスターからの魔力反応は消せないが、見た目には完全に透明になる。
ペルが出してきた船外のカメラの映像を見るに、敵も【サンセリテス】を見失ったように右往左往していた。
「作戦終了~……。すっげぇ疲れた~」
「私は見ているだけで退屈でしたわ~」
俺が語尾を伸ばすと、セレスは口を尖らせて真似をしてくる。
「そのうち暴れられるさ。どうせそうなる。楽しみにしてろ」
「それは待ち遠しいですわ」
俺が後ろ頭を掻きながらそう言うと、セレスは手を合わせて心底嬉しそうに笑顔を向けてくるのだった。
諸事情でタイトルを変更いたしました。
もうすぐ重大な発表ができると思いますので、お付き合い頂ければと思います。




