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ドールズナイツ エクスレイド ~底辺エンジニア、隠しボスご令嬢にロックオンされる~  作者: 阿澄飛鳥
第3章

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第85話 笑っちゃった

「ええと……これがこれで? そしたらタッチパネルで動かして……? それで何かあったらこのスイッチを……――あ~! イライラする! なんで色んな言語が混じってんのよこのマニュアル! わけわかんない!」


 リースは【サンセリテス】の艦橋で、内部システムのマニュアルと多数のボタンを睨めっこしながら発狂していた。

 分厚い紙の束を放り投げて、いったんシミュレーションモードを終了する。

 

 グレンがペルとサンに翻訳させたマニュアルは一応全部読んだ。

 この世界の古代語で書かれたマニュアルを現在の言葉に翻訳してあるのはいい。


 だが、その訳し方は完全に機械翻訳のそれだ。

 主語と述語が前後していたり、たまに翻訳できていない古代語が混じっていて、ただでさえ複雑な手順をさらに難解なものにしていたのだ。


 だからこそ、繰り返しシミュレーションモードで手順を確認しておかなければならない。


 リースは今日何個目かもわからないジュースのパックを手に取って一気に飲み干す。


 もう眠い。続きは明日にしようか。


 そんな考えが頭にちらつくが、ふとクラリスの顔が思い浮かんだ。

 ついでにあのボサっとしたグレンの顔も思い浮かぶが、スパっと脳内から排除する。


 たしかにあいつはムカつく。ムカつくが、クラリスを助けて、自分も助けてくれたのはあの男だ。

 ついでに言えば、こんな状況でも自分を除け者にせず、仕事を与えてくれるのもリースにとっては嬉しくはあった。……悔しいから、ほんの少しだけだ。


 そうだ。この仕事を完璧にこなして、それでドールをもらう。ついでにこの船は自分がいなければ動かないというくらいになって、英雄として王国に帰るのだ。


 そうすれば、クラリスの近くにいられるかもしれない。


 リースはしばらく金属製の天井を見上げてから、放り投げたマニュアルを取って、ふぅと息を吐いた。


「……仕方ないわね。私は完璧主義者! こんなところでうだうだしてられないわ!」


 マニュアルを続きから開いて、リースは訓練を再開する。

 まだ頭は働く。あのゲームだって寝落ちするまでやっていたのだから、それよりもこんな船のシステムを動かせるようになる方がスゴい。

 完璧にこなし、見事にこの船を王国に持ち替えればいい。たったそれだけだ。


 自分を鼓舞しながら、リースはコンソールのボタンに指を伸ばした。


 そのとき、思い至る。


 ――あれ? あたし、シミュレーションモードに設定したっけ?


 と、考えた時には、すでにリースの指はボタンを押下していた。

 

 瞬間、暗かった艦橋に赤い照明が灯り、警報が鳴り響く。

 それと同時に大きな駆動音と振動がして、リースは椅子から転げ落ちた。

 

『緊急事態発生、緊急事態発生。本艦はこれより緊急着陸を行う。乗員は脱出ポッドにて緊急退避。繰り返す。乗員は脱出ポッドにて緊急退避。これは訓練ではない』

「アァァァァァァ――ッ!?」


 リースは驚きと焦りに、マニュアルを天井に届くほど高く放り投げる。


 やってしまった。絶対にやるなと言われていたことをやってしまった。


 書類が舞い落ちて頭に被さる中、リースは大きく口を開けて頭を抱えるのだった。



 ◇   ◇   ◇



「いや、もうなんか驚かないわ。すげぇ落ち着いてる。このまま寝られそう」

「うふふ。では朝まで放置しておきますか?」

「そうもいかないのが困ったところなんだよなぁ」


 俺は鳴り響く警報と振動に目を覚まして、酷く冷静な頭で天井を見上げていた。

 隣ではセレスが俺の腕枕でくつろいて、面白そうに笑っている。


 フラグ回収が早すぎる。絶対になんか起きると思っていたが、寝入って二時間でこれである。


 しかし、俺の人生、そんなもんなんだろうと順応してきた自分が逆に怖い。


 ひとまずは何があったか確認しなければならず、俺は枕元に置いておいたインカムを耳に着けた。


「サン。報告しろ。何があった?」

『艦長! どうやらリース様が緊急用ブースターの点火手順の内、第三項を訓練環境ではなく実際に行ってしまったようです! そのため、ブースターの内、一機が点火。バリュート・アブソーバーの一部が焼失。艦の先端が露出し、現在警報が外部にまで鳴り響いております!』

『ごごご、ごめん! ごめんなさぁぁぁぁいっ! なにごれぇぇぇ!? どうずればい゛い゛のお゛ぉぉぉっ!?』


 サンの報告と共に、ひでぇ声で泣き叫ぶリースの声が聞こえる。

 

 謝るだけマシか、と思ってしまう辺り、こいつのアホっぷりに慣れてきたなと俺は思う。

 

 そのときにはもう俺は部屋に用意しておいたパイロットスーツに手をかけていて、淡々と指示を出した。

 

「はぁ……とりあえず警報停止のボタンを押せ」

『こ、これ!?』


 リースがボタンを押したらしいタイミングで、警報が止まる。

 

 これでとりあえず収拾はついたか? と思いきや――。


『自動制御が停止されました。以後の操作は全てマニュアルに切り替わります。コードレッド。ROEデルタ発令』

「なんか違くない? ねぇ? なんか変なの押しただろ? ねぇ!?」

『え? この赤いボタンじゃないの!?』

「ンフフッ」


 あ、もうなんか、つい笑っちゃった。

 

 俺はパイロットスーツの首元を閉めながら、こみ上げる変な笑いを抑えきれない。

 そして、一呼吸おいてから。


「バカヤロォォォォッ! ドアホォォォ! もういっぺん死んでこいゴルアァァァァッ!」


 インカムに向かってあらんかぎりの罵倒を叫ぶのだった。



 ◇   ◇   ◇



『マスター。観測より、所属不明機、二機接近中』

「気づかれたな……。もうこのまま飛ばすしかない。いいな!? フェルディナン! ペル! サン! ドアホ!」

『しょ、承知した!』

『あだじあぼじゃないも゛ん゛んーっ!』

「この騒動の元凶がなんか言ってんな……」


 俺はセレスと早歩きで格納庫に向かいながら、タブレット端末で状況を確認する。


 現在、【サンセリテス】の船体は変にブースターを起動したせいで若干傾いていた。

 それでも廊下が傾いていないのは【サンセリテス】が宇宙でも歩けるよう、重力制御をしているおかげらしい。


 だが、問題はブースターの点火のせいで轟音と閃光が外部に漏れたこと。そして、傾いたせいで船体の一部――正確にいえば甲板の先端が露出していることだ。


 これでは今まで隠し通せてきた【サンセリテス】は丸見えだ。ペルの教えてくれた連邦のゴーレムが上空を跳べば、すぐに見つかる。


 ならば、もうこのまま飛び立つしかない。


「リース。バリュート・アブソーバーの爆砕シャフトに点火しろ。今やれ。すぐやれ。絶対間違えんな」

『わ、わかったわ!』


 格納庫に入って、着物にスカート姿のセレスの背中を追いながら俺は言う。

 が、しばらくしても音沙汰がない。


「おい。どうした?」

『で、できない! マニュアル操作してるんだけど、点火しない!』

「なんでだ!?」

『艦長! どうやら艦橋は破棄されたとみなされ、制御を受け付けていないようです! 一度、CIC(戦闘指揮所)側からリブートをかける手順が必要になります!』

「はぁ!?」

『それと同時に、バリュート・アブソーバーの排除後でないと主機が起動しません! 全てのシステムが自閉モードに切り替わっているようです!』

「んぅ~っ! やったねぇ!? どんだけ最悪な状況にしてくれてやがりましたな! アハハハ!」

「貴方様? おかしくなっておりますわよ?」


 俺は予想の斜め上の大気圏外くらいの状況に、後ろ頭をガシガシ掻きながら笑うしかない。

 ひとまずは【ペルラネラ】の騎乗席に飛び乗って、サンに問いかける。


「バリュート・アブソーバーはどうすればいい?」

『外部、艦橋の先端に手動起爆の端末があります!』

「それもリブートをかけないと起爆しないな? リース! 梯子を使ってCIC(戦闘指揮所)に移動しろ! どっかに緊急時用のボタンがある!」

『梯子!? エレベーターは動かないの!?』

「お前のせいでたぶん動かん。いいから行け!」


 俺が叫ぶと、「あ~! もう!」とヤケクソ気味な音声が聞こえてきた。

 原因なんだからそれくらいはやってもらわないと困る。


 俺は【ペルラネラ】をすぐに戦闘状態に移行できるように起動させた。


『マスター。現状では固定器具が外れない。どうする?』

「メンテナンスリグは引き千切る。メインカタパルトまでも自力で行くしかないな。そこでハッチにアクセスして無理矢理開けさせろ」

『了解』


 言うや否や、セレスがレバーを操作して、【ペルラネラ】を固定していた器具を騎体から引き剥がす。


「さて、面白くなってきましたわ」

「身内が一番の敵だと思わなかったけどな!」

「あら、あの子も身内ですの?」


 その問いかけに、俺は己の中でいつの間にかリースが身内であるという認識だと悟った。

 しばし考えて、あいつを生かしたのは俺のエゴだから、という理由を見つける。


「俺たちに関わったやつには腹をくくってもらわなくちゃ困るからな」

「ふふっ、貴方様らしいですわ」


 バキバキと周囲で金属が折れる音を聞きながら、俺たちは【ペルラネラ】でカタパルトを目指すのだった。

 

ここまで読んで頂きありがとうございます!

いかがでしたでしょうか?


「面白い!」「続きが読みたい!」


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いつも皆さまに応援頂いているおかげで、

作者は執筆活動を続けることができています!


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