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【電子書籍化!】 ドールズナイツ エクスレイド ~底辺エンジニア、隠しボスご令嬢にロックオンされる~  作者: 阿澄飛鳥
第3章

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第82話 飛翔計画

「じゃあ【サンセリテス】の計画について、今一度おさらいするぞ」

 

 俺は艦内の休憩スペースにホログラム式のホワイトボードを設置して、皆を集めた。

 セレスは静かに座っており、フェルディナンは膝に手を当てて背筋を伸ばして聞いている。


 唯一、これまたどこから持ってきたのか、スナック菓子的な何かをもしゃもしゃやりながらリースがふんぞり返っているが。


「お前、マジでツラの皮厚いよな……」

「ちゃんと聞いてあげるから気にしないでいいわよ」


 気になるんだよ……!


 俺はどこまでもある意味でブレないリースに、拳を握りながら怒りを鎮める。


 まぁ、聞いているだけマシかもしれない。


「まず第一段階はこの船のシステムの再起動だ。サンの話じゃここに不時着したのは突然、主機が停止して動力を失ったかららしい。だから全部のシステムを再起動した場合、不時着時の非常状態が継続してて警報が鳴る可能性がある。つまりはいきなりデカい音が鳴ってもそれが正常だってことだ」

「再起動って、今でも色々動いてるじゃない。それとは違うの?」

「違う。今は貯蔵されてるエネルギーを最低限取り出して、個々に動いてるだけだ。全システムを再起動すればサンが自動でやってくれる」

『仰る通りです! 今の私は中枢システムから切り離された、補助機能しかアクセスできません! そのため、再起動自体は皆さまで行って頂く必要があります!』


 ポリっとリースがスナックを齧る音を相槌と受け取って、俺は話を続けた。


「次に第二段階。この船を飛ばすための前準備だ。問題は三つある」


 俺は手元のタブレットを弄って、ホワイトボードに先日見せた【サンセリテス】の全貌のホログラムを映す。

 その中心部に、球状の青い物体と、赤く強調された神樹の根が光った。

 

「一つ、主機に神樹が取りついてるおかげで始動後にどうなるかわからない点。これはやってみないことには始まらないから始動後に調整する。といってもサンがどうにかしてくれると思う」

「その際に連邦に気づかれる可能性はないのか?」


 さっと手を上げたフェルディナンの問いに、俺は感心して頷く。


「多少の魔力反応は出ると思うが、連邦の技術的には大丈夫だと考えてる。帝国みたいに遺跡を再利用した施設があれば感知できるだろうけど、タヴァルカみたいな生体兵器に頼ってる辺り、技術レベルは低い……といいな」

「言い切りなさいよ! そこは!」

「わからんもんはわからん。だからここからは時間との勝負だ」


 文句を言うリースを軽くいなして、俺はタブレットを操作した。

 すると、【サンセリテス】のホログラムがズームアウトして、艦全体の底部とその下の地面の間が点滅表示される。

 

「二つ、飛び立つために物理的に排除する必要があるものの話だ。それがこの船の下側にあるバリュート・アブソーバーってやつ。高度が低下したときに減速する役割と、不時着時の衝撃を和らげるためのクッションみたいなものに艦底が覆われてる。これのおかげでブースターの穴が塞がれてるわけだ。引き剥がさないとそもそも飛び立てない」

「どうやって引き剥がすんですの? まさか手で?」

「そんなまさか。爆砕シャフトに点火すればいいだけだ。ただ、さっきフェルディナンが懸念した通り、これをやると絶対に気づかれる。全長七八〇メートルの船を覆うだけの被せ物を吹っ飛ばすんだからな。だから――」


 俺はタブレットをパンと軽く叩いて、皆の注目を集めた。


「三つ目だ。これらを円滑かつ迅速に進めて、一秒でも早く高高度に逃げる。連邦の横やりも視野に入れて、【ペルラネラ】は迎撃に回せるようにする」


 俺は話しきってから、一呼吸置いて口を開く。


「だからこその役割分担だ。ここからの第三段階は【サンセリテス】が飛び立てる準備が整った状態での話になる。もう一度確認するぞ」


 ここからは事前に通達してある話だが、各々の役割の重要さを知ってもらうために俺は点呼を取るように言う。


「まずは俺、全体指揮。百パーセント上手くいくとは限らないから、その都度、技術的な判断が必要になる。【ペルラネラ】にも乗るけど、そこは……」

「私の出番ですわね」


 ふふっ、とセレスが笑いながら立ち上がった。

 俺は愉快そうな婚約者に深く頷く。


「セレスは俺と一緒に【ペルラネラ】で待機。出ないで終わるのが一番だけど不測の事態に備えて、外部で作業できる状態も整えておきたい。次、フェルディナン」

「うむ」


 呼ばれたフェルディナンは膝に力を入れて椅子から腰を上げた。

 パートナーとは違ってそのやる気に満ちた雰囲気に俺は感心する。


「操舵系担当だ。サンがやってくれるなら任せていいけど、それも絶対じゃない。シミュレーションの調子はどうだ?」

「悪くない。最初は勝手がわからず墜落させていたが、コツは掴めてきたように思う」

「頼むぞ。次、そこで菓子食ってるやつ!」


 俺が声を荒げて指差すと、リースは目を丸くしてスナックを飲み込んだ。


「な、名前で呼びなさいよ!」

「お前は艦内の管制担当だ。サンとペルが翻訳したマニュアルは読んだか?」

「まだ半分くらい!」

「全部読んで、全部シミュレーションしやがれ! ここもサンか、ペルがやってもいいけど、何かあったら完璧にやってもらわなくちゃ困る。いいな? 完璧にしろよ? 自称完璧主義者! あと絶対に訓練環境でやれ! 絶対だぞ!? 絶対やらかすなよ!?」


 俺が圧をかけると、リースは小さく「わ、わかってるわよ」とスナックを齧る。


 ……それ食べるのやめられないの? 止まらないの?


 俺は何が何でもスナックを食べ続けるリースに呆れつつも、会議を終わらせようとした。


『艦長。他に誰かを忘れておりませんか!』


 そのとき、部屋に軽快な声が響く。

 そうだった、と俺はタブレットを閉じながら頬を弛めた。


「ああ。サンは計画全体の補助をしてくれ。ペルもサンから受け取った情報を整理して都度、俺に伝えてくれると嬉しい」

『了解しました!』

『了解した』


 ハキハキとした男性の声と、無機質な女性の声が重なる。


 その響きに、俺は自分の頭に高揚感が広がるのがわかった。

 こんな壮大な計画を立案できたという達成感と、それをこれからおっぱじめるという興奮だ。


 この四人プラス二つのAIで、果たして事が成せるのか。


 不安げなリース、覚悟を決めたようなフェルディナン、そして獰猛な笑みを浮かべたセレスを見て、再び頷くのだった。



 ◇   ◇   ◇



「る~♪ るる~♪」


 シーヴェルトは聞こえてきた歌声に足を止める。

 その声が響いてくる場所は客間だ。


 透き通った声が奏でているのはただの音色である。言葉ではない。


 だが、シーヴェルトはその歌声に惹かれるように、客間の扉のノブに手をかけていた。


「るるる~♪」


 扉を薄く開くと、歌声が明瞭になる。

 隙間から覗くその光景に、シーヴェルトは思わず息を呑んだ。


 ――窓際に座って、外を眺めて歌っているマリンの姿。


 眩しい日差しの中、どこか遠い目で、誰かを思うように歌うその光景に、シーヴェルトはそのまま見入る。

 光を照り返す黒い瞳に、部屋に響く決して大きくはない歌声に、そして慈愛のようなものに満ちたその横顔に、心が高鳴った。


 なんて神秘的な光景だろうか。


 連邦では聞くことのないメロディは、なぜか胸の奥底に響くようで、即興のものとは思えないものだ。


「る~――あ……、ヴェル? どうしたの?」

「……っ! す、すまない! 歌声が聞こえたものだから、つい……」


 シーヴェルトは婦女子の部屋の扉を勝手に開けたことを恥じた。

 だが、マリンは気にした様子もなく、「大丈夫だよ」と微笑む。


 その表情に、シーヴェルトはゆっくりと部屋に入った。

 だが、まだ高鳴りが収まらない鼓動を感じながらしどろもどろになる。


「その……なんだ。歌が好きなのか?」

「うん? ん~……好きだけど、歌ったことはあんまりなかったなぁ」

「今の歌は?」


 シーヴェルトが問うと、マリンは右手の甲を反対の手で包みながら、胸にやった。

 そして、窓の外に視線を移しながら、独り言のように呟く。


「なんかね。頭の中に流れてくるの。音楽なんかしたことないのに。でも、こうして歌ってあげると、落ち着いてくれるような気がするんだ」

「落ち着く……? 誰がだ?」

「……うん? 誰、なんだろう? 寂しいって、ずっと私に言ってくれるんだ。まだ生まれたての赤ちゃんみたいな……」


 そう言うマリンの目は外の風景を映しているようには見えなかった。

 何かもっと遠い、別のものを見ているような瞳に、シーヴェルトは閉口する。


「あ……。あはは。何言ってんだろ私。気にしないで、ヴェル」

「あ、ああ……。だが、いい歌声だったと……思う」

「そう? 歌詞とかつけたら歌人になれるかな?」


 冗談めかして言うマリンに、シーヴェルトは控えめに笑って頷いた。


「やってみたらいい。きっといい歌になる」

「えっ! じゃあ、ヴェルも手伝ってよ」

「俺が!?」


 シーヴェルトは突拍子もないマリンの提案に思わず声を大にする。

 だが、目をときめかせて言う彼女の表情は楽しそうだ。


 だから、その顔を見た時点で、シーヴェルトに拒否するという選択肢はなかった。


「お、俺は芸術は得意じゃないと思うが、君が言うのなら……」

「ほんと!? やったー!」


 マリンはシーヴェルトの答えに、両手を大きく上げて大袈裟に喜ぶ。

 彼女は時折、こうして自分の感情を全身を使って表現してみせるのだ。


 淑やかな女性が求められる連邦で育ったシーヴェルトにとって、そんなマリンが眩しく見えた。

 

 しかし――。


「――っ!?」


 丈が合っていないせいか、今まで着物の袖で隠れていたマリンの右手の甲。それが、腕を上げた瞬間に露わになる。


 シーヴェルトは見た。

 

 そこに、白く輝く紋章があることに。


「ヴェル? どしたの?」

「……いや、なんでもない」


 間違いない。あれは【巫女】の紋章だ。

 シーヴェルトは今になって、なぜマリンがここに連れて来られたのかの理由を察した。


 【巫女】は神樹が危機を抱いたときに、その素質がある女性に発現する後天的な祝福だ。

 それがマリンであるならば、そしてそれを理由に兄であるジェラルドが彼女を連れてきたのならば、シーヴェルトは確かめねばならない。ジェラルドの真意を。

 

 シーヴェルトは息を呑んだことを隠しつつ、マリンとの会話を続けるのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

いかがでしたでしょうか?


「面白い!」「続きが読みたい!」


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いつも皆さまに応援頂いているおかげで、

作者は執筆活動を続けることができています!


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