第79話 新しい艦長
『マスター、ずぶ濡れのところ良いか?』
「笑ってんじゃねー! なんだ?」
俺が濡れた服を絞っていると、ペルが話しかけてきた。
すると、腕輪から光が投影され、何かのホログラムのようなものが浮かび上がる。
『この地点の直下に巨大な建造物を発見した。また、そこに通ずると思われるハッチ状のものも発見、当機が入れるほどの大きさである』
「遺跡か?」
『それに準拠するものと推測する』
遺跡――今は冒険を楽しんでいる場合ではないけれど……。
俺は遠くの空にこだます推進器の音を聞いて、空を見上げた。
伏せているとはいえ、直上から見られれば【ペルラネラ】の図体では発見される。
今は隠れるのが先決かもしれない。
俺は意を決してペルに命令する。
「そのハッチを開けられるか? できるならそこに身を隠す」
『おそらく。試行する』
「よし。おい、フェルディナン、リース。水遊びは終わりだ! 遺跡に入る」
「遺跡!? なんでよ!?」
「お尋ね者になっちまったんだから仕方ないだろ!」
俺が歩きながら言うと、「アンタのせいでね!」と返ってきた。
まぁ、それは否定しない。けれどあの場でかばわなければどうなっていたかわからないんだろうか?
そんな風に若干イラついていると、文句を言いながらもリースたちはトコトコと走って俺の後ろについてきた。
うーん、若干の自覚はあるのかもしれない。
こいつも少しは周りが見えているようになったと思う。
「ねぇ、遺跡の中にドールがあったらちょうだい!」
「そっち目当てか!」
「いいでしょ!? どうせアンタにはペルちゃんがいるんだから!」
そんな言い合いをしていると、膝立ちになった【ペルラネラ】が俺たちを待っていた。
そして、俺たちを一瞥するや何もない地面に手を突っ込む。
するとガチン! と音が鳴って、【ペルラネラ】の前の地面が少し浮いた。
そのまま【ペルラネラ】が腕を引くと、周囲の木をバキバキと横倒しにしながら地面がめくれ上がる。
やがて現れたのはドール一騎分は潜り込めそうな穴だ。
『内部精査中……。危険はないと思われる』
ペルにそう言われて、俺はその穴を覗き込む。
薄暗くてよく見えないが、魔獣の類はいないとペルが判断したなら大丈夫だろう。
俺はその穴の端っこに人間用の梯子を見つけて、さっそく下ることにした。
「ペル、俺たちが降りたらお前も降りてこい。最後にこのハッチは閉めろ。見つかると厄介だ」
『了解』
そうして、俺たちは列をなして遺跡の中へと潜る。
最後に【ペルラネラ】がハッチを閉めると、日の光は完全に遮断され、完全な闇へと変わるのだった。
◇ ◇ ◇
「随分降りましたわね。相当広いのではないでしょうか?」
「ああ、明かりが必要だな」
「では」
俺が言うと、セレスは剣を抜いてマジックサインを描く。
すると、剣先に小さな炎がともって、辺りを照らした。
しかし、見えたのは俺たちの周りの床くらいだ。
荒らされた形跡はなく、他の遺跡のようにガラクタが落ちている気配はない。
というより、綺麗なほどに凹凸のない平坦な床だ。
『マスター。前方にコンソールと思しきものを発見』
「あの小さな光か? おい、離れるなよ。バカップル」
「誰がバカよ!」
リースは言い返しつつ、周囲を不安半分、興味半分といった顔で見回している。
俺はセレスの明かりを頼りに慎重に光へとたどり着いた。
暗いホログラムが浮かび上がったその下にキーボードのようなものが配置された簡素なコンソールだ。
俺は【情報解析】でわかる範囲で、手探りにそれを弄ってみる。
「ええと……システムは生きてる。休眠モード、解除?」
俺は一つ一つ、ゆっくりとキーを叩く。
すると、最後に手のような形のマークが出て、俺はなにも考えずに右手をかざした。
その瞬間、上方から音がして眩い光を放つ。
そして、それが連続し、俺の後ろ側へと順々に光を灯していくと、この場所の全貌が露わになった。
「う、うおぉ……」
「まぁ」
俺とセレスは思わず声をもらす。
そこには、何騎かのドールと、その部品や武装。そして他にもドールとは違う、兵器のようなものがずらりと並べてあったのだ。
『ようこそ! 【サンセリテス】へ!』
そこに、男性の声が響く。それはコンソールから発せられていた。
「【サンセリテス】? それがここの名前か?」
『はい。それが本艦の名前となります!』
俺が呟くと、なんとコンソールは返事をしてきた。
人工知能……! こいつはペルと同じ文明の遺跡に違いない。
「……本艦だって?」
俺は戸惑いながら、人工知能の言った言葉を反復する。
『その通り。本艦は【ミラジオール】型巡洋母艦、四番艦【サンセリテス】。ここで約二六万三千三百九十二時間の間、休眠状態にありました!』
俺はその途方もない数字に唖然として周囲を見回した。
これが船? こんなにもデカい船がそんな時間、ここに埋まっていたのか……!
『すでに前任の艦長の権限は人間の寿命を鑑みて削除されています。貴官を新しい艦長と認識します!』
「は? いや、俺は……」
貴官、と呼ばれて俺はこいつの所属していた軍の人間じゃないと言いかけた。
そのとき、左腕の腕輪が光る。
『マスター。この人工知能は第二世代型の艦内管制システムと思われる。侵入者とみなされれば排除行動に移る可能性がある』
言われて、俺はぐっと言葉を飲み込み、落ち着いた声でコンソールに答えた。
「……そうだ。俺がお前の新しい艦長――グレン・ハワードだ」
『グレン・ハワード様。認識しました! よろしくお願いします!』
ペルとは違い、ハキハキとした快活そうな声だ。
「まぁ、【守護騎士】の次は遺跡の主だなんて、どんどん属性が増えていきますわね?」
「少しくらい分けてやってもいいぞ」
「いいえ、私は貴方様の伴侶というだけで十分ですわ」
うーん、なんでこう俺は全部押し付けられる感じなのかな!?
俺はちょっと頭痛を感じ――……ない。そういえば湖に投げ込まれてからか、体の調子が戻ってきた気がする。というか、いつの間にかに折れたはずの肋骨の痛みもない。
「……とりあえず今のこの船の状態を教えてくれないか? なんでこんなとこに埋まってるとか、色々聞きたい。それに休む場所もほしい」
『了解です! 艦内は清潔に保たれており、休息なされる場所もご用意できます! ですが、今、本艦は重大な問題を抱えています!』
ああ、もう慣れっこです。転がり込んだ場所で全部が全部良い事づくめなわけがない。
俺は小さく息を吐くと、人工知能に言葉を促した。
「……なんだ?」
『本艦の主機に魔法生物が取りついています! そのため、本艦は主機を停止しています! これに対し、なんらかの処置を行わない限り、本艦は飛行すら困難です!』
「魔法生物……? 飛行って、飛ぶの? この船」
「はい! 本艦は海中、空中、宇宙、と全領域に対応しています!」
あっ……そういう感じ。ファンタジー世界で宇宙船出てきちゃったよ!
俺は改めて自分のいる世界のカオス加減に辟易しながらも、引っかかった単語について聞いてみる。
「……その魔法生物ってひょっとして、木みたいだったりするか?」
「そのようです! 主機のコアに根を張り、甲板を突き抜けて地上に露出していると見られます!」
あはは。そうかそうか。木みたいな魔法生物で、遺跡に取りついてる。なんか聞いたことある話だな? それって――。
「――もう一つの神樹じゃねぇか!」
俺は誰ともなくそう叫ぶので精一杯だった。
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