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ドールズナイツ エクスレイド ~底辺エンジニア、隠しボスご令嬢にロックオンされる~  作者: 阿澄飛鳥
第3章

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第77話 そういうタイプな

 訳が分からない。

 ついさっきまで普通に接していたはずのリナとジェスティーヌがこちらに牙を剥いてくるなんてどうかしてる。


 俺は吐き気すら催すような頭痛と、理解不能なこの状況に苛立って歯を食いしばった。


 リナには殺されかけたし、逆に殺しかけた。

 ここで逃げるという選択はセレスにとってはあまり良い感情を持たないだろう。

 だが、それでも俺はここであの二人と決着をつけるべきじゃないと、どこか確信めいたものを感じていた。


 その理由はペルだ。


 なにも指示していないはずなのに、騎体ごと押しかけてきて、俺を止めた。

 そこにペルなりの意志を感じて、それに従うことにしたのだ。

 幸い、セレスは短く言った俺の言葉に従ってくれるようだ。


 俺はレバーを引いて前傾姿勢の【ペルラネラ】を起こそうとする。

 そこに――。

 

「ちょ、ちょ、ちょっとなにやってんのよ!? 街中でドールを動かして何する気!?」

「グレン、さすがにこれは大事になる! 今すぐ降りて説明をしてくれ!」


 ――リースとフェルディナンが血相を変えて屋敷から飛び出してきた。


 ちっ、と思わず舌打ちが出る。

 説明してほしいのはこっちのほうだ。それともお前らまで俺を殺そうとか考えてないよな?

 もう何も信用できなくなりそうだ、と思った矢先、さらに別の面倒が降ってきた。

 

『おぉっと……何かと思えば帝国のドールじゃあないか』


 粘り気のある声音に首を巡らせると、大通りに男性らしいの骨格の騎体が街中に着地する。

 ゴーレムともドールとも違う、独特のフォルム。

 あれがタヴァルカか……と感心すると同時に、俺は自分の顔が歪むのがわかった。


『市街地でのゴーレム、またはそれに類するものの使用は特別な許可がなければ罰せられる。そして、それを処罰するのは私の――守護騎士の任務だ。詰まるところどういう意味かわかるか? 異邦人』


 言うや否や、タヴァルカは腰の鞘から刀のような曲剣を抜き放つ。

 そして、構えを取ると、一気にこちらに突っ込んできた。

 

『ここで貴様たちを殺しても罪にはならないということだ!』


 俺はその刹那、様々なことを頭の中で天秤にかける。

 このままでは下にいるリースとフェルディナンが巻き込まれかねない。

 かといって何もしなければこちらがやられるだけだ。

 先に迎撃を……いや、それでもどう転ぶかわからない。


 だから俺は――。


「お前らちょっと来い!」


 ――リースとフェルディナンを素早く拾い上げて騎乗席内に放り込んだ。


「痛いっ!」

「ぐはっ!?」


 二人の体がやや乱暴に騎乗席内部に収まったと見るや、俺はすぐさま開放部を閉じる。

 もうその時にはタヴァルカは目の前までせまっていたが、セレスがレバーを操作して防御態勢を取った。

 

 ベラディノーテで相手の刀を受け止める。だが、魔法障壁を張る時間はなかった。


 装甲と刀の接点で激しい火花を散らしながら、相手の突進の威力に負けて押し込まれる。

 そのまま後ろにあった建物へと激突して、騎乗席が激しく揺れた。


 周囲では悲鳴と怒声が上がって、俺は歯を食いしばる。

 

「くそっ……! 街中だぞ!」

『フッ、先に法を破ったのは貴様たちだ。知ったことか』

「あーあー! そういうタイプな!」


 言いながら、俺とセレスは出力を最大に維持したまま、レバーを操作した。

 ベラディノーテで隠れていた左腕で相手の腹部にジャブを放ち、間髪入れずに顔面に向けてバイタルティテクターを起動させる。

 だが、相手の反応が予想よりも早かった。


 身をよじって回避された細剣の突出は、相手の背部にあった推進器へと刺さる。


 この反応速度、あの軍人の言っていた『合一』とやらのおかげか!


『この……女々しい異邦人がッ!』


 攻撃を受けて激高したのか、相手は刀を捨てて殴りかかってくる。

 避けられない。だが、殴られるとわかっていればその先を読んで動けばいい。


 相手の大振りなパンチを【ペルラネラ】は顔面に受けた。だが、首を振ってダメージを最小限にし、逆にフルパワーで相手の顔面にカウンターを入れる。


『ぐおっ……!』


 軍人の言っていた通り、騎体の受けた損傷が騎士にも伝わるようで、芯を捉えた【ペルラネラ】の拳に相手はよろめいて倒れた。


「今のうちに逃げっ……ゴホゴホッ!」

「貴方様! 無理をしないでくださいまし! それにどこへ?」

「ペル……! 前に言ってた魔力干渉の発信源の座標を出せ!」

『了解。マスター』


 無機質な声と共に視界の端に周囲の地形と一つの光点が浮かぶ。

 俺はタヴァルカが起きる前にフットペダルを踏み込んで、【ペルラネラ】の脚力とブースターにより空高く舞い上がった。


 揚力を少しでも得るために普段は収納されているブースターの翼を展開する。


 すると、左から電子音が鳴って警告表示が視界に映った。


『増援接近』

「次から次へと……!」

「飛んでいる!? 連邦のゴーレムは飛ぶのか!」

 

 フェルディナンの声に見てみれば、遠くの空から二騎、前世の飛行機を思わせる形状の騎体がこちらに接近している。

 以前フェルディナンの乗っていた【イルグリジオ】の滞空とも、今の【ペルラネラ】の跳躍とも違う。飛行をしているのだ。


 連邦性のゴーレムの軽さを生かした飛行型――あの軍人、そこまでの手は明かさなかったってわけか!


 俺は【ペルラネラ】の背中に懸架していたアンスウェラーを構えさせると、威嚇のつもりで射撃する。

 だが、連射した魔法弾は大きく逸れて遠くの山に着弾した。

 

「くそっ!」

「ちょっと! どこ撃ってんのよ!?」

「うるせぇ! 空中戦なんて想定してないんだよ!」

 

 空中という支えのない場での反動制御、気流の変化、なにより相手との相対速度の変化量が地上戦の比ではない。そのために照準が定まらない。

 俺はコンソールを自分の前に展開すると、ペルに叫んだ。


「ペル! 今の射撃のデータをよこせ! パターンに組み込む!」


 すぐさま送られてきたデータを元に、コンソールを高速で叩いて射撃補正を行っていると、後ろでリースが「はぁ!?」と声を上げる。


「アンタ、戦闘中にそんなことやってんの!? い、意味わかんない!」

「そりゃどーも! ふっ……!」


 俺は言いながら、高度低下を知らせるアラームに反応してフットペダルを再び踏んだ。

 そのときにはすでに敵は頭上にいて攻撃予兆の警告に、俺は素早くレバーを捻る。


 サイドブースターが火を噴き、ギリギリで避けた魔法弾が【ペルラネラ】を掠めた。

 そして、一般人の往来があっても不思議ではない市街地の真ん中で爆炎を咲かせる。


「空でもお構いなしかよ……!」

「相手が飛んでいては逃げるにも逃げられないですわ」

「だからって人死を出せば厄介だ!」


 俺はコンソールを乱暴に格納すると、上空を通り過ぎていった一騎に狙いを定めた。

 その際、レバーに付随するスティックを少しだけ動かして、トリガーを引き絞る。


 アンスウェラーから最小限の出力で放たれた魔法弾は二連射。

 その二つともが連邦のゴーレムの背部に直撃し、双発のブースターの片側が破裂した。


 推力を半分失ったゴーレムは高度を下げていくが、向かう先は市街地の外だ。

 それでいい。建物が多く並ぶ市街地に安定して不時着するのは困難だ。乗っている騎士も死にたくないだろう。


『⚠接近警報⚠』


 短い電子音がトーンとテンポを上げて敵の接近を知らせてくる。

 見ればもう一騎のゴーレムが刀を抜いて斬りかかってくるところだった。

 すれ違いざまに斬りつけようと肉薄する敵に、俺とセレスはレバーとフットペダルを繊細に、そして素早く操作した。


 腰部のブースターの瞬発に、【ペルラネラ】の騎体が空中で飛び跳ねるように動く。


『なにっ!?』

 

 くるりと前転した【ペルラネラ】に刀を避けられたゴーレムから驚嘆の声が上がった。俺はその勢いで背後からアンスウェラーを一閃させる。


 浅い。だが確実にゴーレムのブースターを損傷させた。


 奇妙な音を立てながら高度落とすゴーレムを尻目に、俺は素早くブースターを吹かす。


「ペル……! 座標まで移動する! 追跡されないルートを出せ!」

『到着に時間がかかるが構わないか? マスター』

「それまで持たせてみせる……! ゴホゴホッ!」


 俺の重い咳の音に心配そうにセレスが振り向くが、目で大丈夫だと返した。


 予想外……というかそもそも予想していなかったが、リースとフェルディナンまで連れてきてしまった。

 けれど、今はこの頭痛の正体を突き止める方が先決だ。


 俺は唇を噛んで少しでも苦痛を和らげながら、セレスに操縦系を任せて沈み込むように座席に身を預けるのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

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