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ドールズナイツ エクスレイド ~底辺エンジニア、隠しボスご令嬢にロックオンされる~  作者: 阿澄飛鳥
第3章

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第74話 二度目なんでな

「で、何も出来ずにマリンを攫われたと」

「すまねぇ兄貴。俺はなにもできなかった……」


 無惨な姿でベッドに横たわるエドガーを俺は冷ややかに見下ろす。

 エドガーは街で騒ぎを聞きつけたリオネルによって屋敷に運び込まれ、使用人たちに応急手当をされていた。


 腫れあがり、拭いきれていない土汚れを残した顔のままエドガーは目で謝ってくる。


 これが五体満足だったらブン殴っていたところだ。

 だが、この惨状はエドガーが出来る限りの抵抗した結果なのだろうと俺は察する。


「なんでジェラルドがマリンを……。あいつは何か言ってなかったか?」


 満身創痍のエドガーを休ませてはやりたかったが、最低限の情報がなければ動きようがない。

 俺が聞くと、切れた唇を引き攣らせながらエドガーが答える。


「そ、そうだ……。【巫女】がどうとかって言ってたぜ……」

「【巫女】!?」


 俺はその言葉に驚き、頭の中で点と点が繋がったような感覚を感じた。


 そうだ。マリンが気にしていたあの手の甲の痣。あれはジェラルドが見せた守護騎士の紋章に似ていた。なんで早く気づけなかった!? いや、でもあのときは化粧品でほとんどを隠していたし、俺も頭が回ら――。


 と、考えていたら、ふらっと眩暈が来て、俺はエドガーのベッドにもたれかかる。


「貴方様! 無理をしないでくださいまし!」

「マリンが【巫女】――ヒロインなんて……。だからジェラルドはマリンを自分のものにしようってか」


 だとすれば、一刻も早くマリンを奪還しなければならない。

 エドガーをボコボコにして無理矢理誘拐する輩に、マリンを奪われるわけにはいかない。


 だが、高熱のせいで体に力が入らず、俺は荒い息を上げた。


「はぁ……はぁ……。くそっ! こんなときに……!」

「貴方様、今すぐにでもマリンを助け出したい気持ちはわかりますわ。けれど、恐らくすぐにはマリンに手荒な真似はしないはず。あの主人公とやらも言っていたでしょう? まだもう一つの神樹の場所もわからないと。それに愛の力が必要とも言っていました。ならばなおさらですわ」

「それを強要させられたらどうする!? 血を分けたたった一人の妹なんだぞ!?」

「であれば、確実に助け出さなければなりません。人質にされる可能性もありますわ。ここは体調を万全にして、策を講じてから動き始めたほうがよいと私は思います」


 ふらふらとする俺の顔を両手で優しく包み込みながら、セレスは言う。

 そのまなざしは真剣なものだった。


 俺は焦る気持ちを落ち着けて、セレスの言葉を反芻する。


 ここで下手に動くのも悪手になる……か。けれど、マリンを暴力を使って奪ったやつの手に落ちているという状況が、俺は不安で仕方がない。仕方がないが、セレスの言う通りだ。


「……わかった。今は体を休める」

「いい子、ですわ。貴方様」


 俺が苦しく言うと、ぎゅっとセレスは俺を抱きしめてきた。

 嗅ぎなれた香りが鼻孔に入ってきて、俺は強張った体を弛緩させる。


「それと兄貴……。ジェラルドのやつ、わけわかんねぇ力を使いやがった。気をつけろ」

「お前が食らった重力魔法か?」

「あぁ……。なんつってたけな……。『神樹に願う』つって両手をこう……痛てて」

「無理するな」


 日本人で言う、合掌のポーズをしたエドガーはしてみせた。

 

 その仕草と言葉で、魔法のような力を発動したのだとすれば、【巫女】の力がなくとも【守護騎士】はある程度、神樹の力を使うことができるのかもしれない。手の甲に紋章を刻まれているのならあり得る話だ。


「はぁ……。とにかく、わかった。エドガー、あとは休んどけ」

「本当にすまねぇな、兄貴。役に立てなくて不甲斐ねぇ……」


 そう言葉をかけると、エドガーは目を瞑り、大きく息を吐いて休息に入る。


 俺もセレスに支えられながら部屋を出ようとすると、扉が開いて和服の美女が現れた。

 ジェスティーヌだ。


「貴公、リオネルから話は聞いた」

「ああ。マリンが攫われた」

「……先を越されたか」

「なに?」


 ぼそっと呟いたジェスティーヌに聞き返すと、彼女は首を振って話を続ける。


「学校は全寮制だ。連れていかれたのならば実家だろう」

「ジェラルドの実家か。すぐにでも【ペルラネラ】でカチコミたいところだけど、俺もこのザマだ。体調を整えてからマリンを助けにいく」

「そうか。……セレス」

「なんですの?」


 腕組みして苦い顔をしていたジェスティーヌは、セレスの方に顔を向けた。


「あとで話がある。談話室に来てくれ」

「……? わかりましたわ」


 不思議そうに小首を傾げたセレスだったが、すぐに了承して頷く。

 俺はそんな二人のやり取りに若干の違和感を感じつつも、セレスの助けを借りて自室に戻るのだった。

 

 

 ◇   ◇   ◇



「あ~……くそっ! なんでこうも不運が重なるかなぁ?」


 俺は自室のベッドに転がりながら独り言ちた。

 横になっていれば多少気分はマシになるが、返ってそれによりマリンの心配する考えが浮かんでしまう。


 まさかマリンが【巫女】でヒロインになるとは。


 ジェラルドの言い方ではてっきりヒロインとして選んだ女性が【巫女】になるものだと思っていたが、実際は違った。

 マリンを攫ったことからして、【巫女】になった女性を選ぶからヒロインになるのだろう。


 とはいえ、無理矢理攫ったマリンがジェラルドと恋仲になるとは考えにくい。

 それをジェラルドはどう認識しているのか。


 情報が少なすぎる……。そもそも何がわからんのかわからん。


 俺が熱を持った額に手を当てて思案していると、そこにコンコンという音が聞こえた。

 誰かが扉をノックしたのだ。


「開いてるよ……」


 セレスだろうか、と思っていると、扉を開けたのは少し予想外の相手だった。


「ハワード様、失礼いたします」

「リナさん?」


 現れたのはメイド服をシワ一つなく着こなしたジェスティーヌの侍女――リナだった。

 俺は不思議に思いつつ、寝たまま目だけを彼女に向ける。


「何か用ですか?」

「マリンがいないのでお世話を、と」

「いやいや、セレスがやってくれるから大丈夫ですよ」


 というより、赤の他人に世話をしてもらうというのが俺は落ち着かない。

 しかし、リナさんは俺のベッドの横まで来て、一礼する。


「セレスティア様はお嬢様とお話をしていますので。ハワード様……?」

「はい?」

「このリナがお世話をさせて頂きます……」


 そう言うリナさんの雰囲気に俺は異変を感じ取った。


 これは……なんだ?


 俺が困惑していると、リナさんはロングスカートの裾を持って、それをゆっくり持ち上げる。


 え? え? なに?


 スカートはそのまま持ち上げられ、白いソックスを履いた美脚が現れた。

 そして、ガーターまでもが露わになって……最後にフリルのついた下着までもが俺の視界に映る。


 突然の誘惑――俺はその下着と白い肌に目が釘付けになってしまう中で、さらなる違和感を感じた。


 なに? なんだコレ? なにかがおかしい。リナさんが下着を見せてくる時点でおかしいけど、そうじゃない。これは、これは……――!

 

「ふッ!」

「おわぁ!?」

 

 ――殺気ッ!


 高々と上げられた足の踵が俺の首があった場所に深々と刺さる。

 間一髪で踵落としを避けた俺に、リナが目を丸くした。


「驚きました。大抵の殿方はこれで落ちるのですが」

「寝込みを襲われるのは二回目なんでな……!」


 ベッドの反対側へ降りた俺は、無意識に構えを取りながら言う。


 状況はわからない。なんでリナさんが俺を襲うのか。リナさんの一撃はベッドの中身が露出するほどの威力で、確実に命を狙ってきたのは間違いない。


「不意を狙ったこと、失礼いたしました。それではここで……死んで頂きます!」

「ご丁寧にどうも!」


 ベッドを飛び越えたリナさんの蹴りが俺の頭上を掠める中、俺は発熱による眩暈を感じつつも身を捻って反撃するのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

いかがでしたでしょうか?


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