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ドールズナイツ エクスレイド ~底辺エンジニア、隠しボスご令嬢にロックオンされる~  作者: 阿澄飛鳥
第2章

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第58話 光の中に消えて

『あれを落とさなきゃいけないんですよね!? 早くやりましょう!』


 ルーシーの声に、俺は【ペルラネラ】の首筋に刺さった斧を抜いた。

 損傷箇所から魔力の光が散って、暁の空に消えていく。


「……無理だ。魔力もない。アンスウェラーもない。もうできることがない」


 俺はぐったりとシートにもたれかかりながら言った。

 赤い空に青い軌跡が見えるが、それは遠い。


 あの距離の物体を撃ち抜くには相当の射程と威力がなければ難しいだろう。

 それを可能にする武装も、魔力も、そして俺たち自身の体力がなかった。


 俺はゆっくりと目を閉じる。


 親父とお袋を倒してここまで来たが、一歩及ばずか。

 送り出してくれたリリーナには悪いが、俺は世界を救う主人公じゃない。ただのモブだ。モブにしてはよくやったほうだと思う。


 この後のことなど考える余裕なんてない。


 けれど、どんな世界になったとしても主人公であるルーシーがなんとかするだろう。


 そんな風に考えていると――。


『なに寝ぼけたこと言ってるんですか!』


 ――ガツン! と【オリフラム】に【ペルラネラ】は(はた)かれた。


「い、いてぇな!?」


 俺は自分が叩かれたかのような錯覚を感じて、後ろ頭を手で押さえる。

 

『情けなくへたりこんでるんだったらできることを探してくださいよ! いつもそうだったでしょ! しっかりしてください!』

「じゃあお前がなんとかしろよ! 主人公だろ!?」

『はぁ!? ワケわかんないこと言わないでください! 主人公だか一般人だか知りませんけど、いつもなんとかしてくれたのはグレンさんでしょ! 大事なときだけヘコまれてもこっちは困るんですよ!』


 ルーシーの怒鳴り声と共に、【オリフラム】がぶんぶんと腕を振った。

 

 こ、こいつ、俺がどうにかすることを前提で話を進めてやがる……!


「お、俺だってなぁ! 今まさに親父とお袋ぶっ殺して、ヘコむときはヘコむんだよ!」

『じゃあなおさらどうにかしないと駄目でしょうが! 親父さんとお袋さんが今のグレンさんを見たら情けなさ過ぎて泣きますよ!』

「情けない情けないうるせぇぇ!」


 そんな風に怒鳴り合っていると、前部座席に座ったセレスの肩が震えている。

 なんだ? と思って首を伸ばすと、セレスが笑っていた。


「ふふ……。あははは! 今まさに人が大勢死ぬかどうかの間際に、なんて会話をしていらっしゃるの? あははははは!」


 大爆笑である。


 俺は笑われて、額を手にやった。


 なにをやってるんだろう俺は。世界が一変してしまうような場面で、主人公と漫才みたいな会話をして、隠しボスに大笑いされている。

 どうしてこうなった。ついこないだまで一介のモブ技師だった俺が、どうして世界の命運を背負うようになった?


「主人公に頼られては、どうにかしなくてはなりませんわね? 貴方様?」


 そうか。俺はこいつに手を引っ張られたから……。こいつの手を取ったから始まったことだ。


『なんです? その主人公って。とりあえず魔力なら【オリフラム】にありますよ』


 そうだ。こいつの背中を押したから、物語は進んでしまったんだ。


『お兄様! その長距離砲を使ってはいかがですか?』


 そして、その他にも色んな人の手を取った。殺したヤツがいる。救ったヤツもいる。その結果が今だ。だからこそ、今俺はここにいる。


 なら、それを背負っていくのは当然なのかもしれない。引き摺ってでもいい。背中を叩いたルーシーがいる手前、俺は立ち止まってはいけないのかもしれない。


「……わかったよ! なんとかすりゃいいんだろ! なんとか!」

『やっとわかりやがりましたか! もっかい気合入れましょうか?』

「フザけんな! さっさと魔力をこっちに転送しろ!」


 俺は右手を振り上げる【オリフラム】に怒鳴りながらも、手に持った斧――長銃を【情報解析(アナライザー)】で見る。

 アンスウェラーとは違い、一点を狙うことに特化した銃だ。射程の限界はやってみなければわからない。動く標的を長距離で撃ち抜くには普通の射撃では不可能だ。


「ペル。精霊弾を精製できるな?」

『可能。だが、終端誘導には精霊との精神同調が必要となる。それには相当な脳負荷がかかると予想する』

「やってやるさ。やらないといつまでもドヤされるからな!」


 俺は言いながら、コンソールの横に格納してあるヘッドセットを取り出す。

 

 それは目を覆うバイザーとヘッドフォンが一体になったようなフォルムだ。

 被ると俺自身の聴覚と視覚を遮断し、脳に直接情報を流し込む役目をする。


『魔力を【ペルラネラ】へ送ります! お兄様!』


 【ペルラネラ】は長銃をコッキングし、魔力を溜めるための充填管を交換した。

 そして、長銃を構えた【ペルラネラ】を【オリフラム】が抱きしめるように後ろから手を添える。


『武装へ主機直結。エネルギー回路全面開放、供給開始。チャンバー内、疑似精霊精製術式を展開。魔素圧縮中。アンカー固定』


 【ペルラネラ】の足からアンカーが飛び出し、その場に騎体を固定させた。

 左首筋をやられているため、長銃が安定しない。


 それを察したのか、【オリフラム】が長銃のハンドガードを支えてくれた。


『精霊弾との同調の準備はいいか。マスター』

「ああ! ――ぐっ!」


 言った瞬間、自分の体が浮遊するような感覚に襲われる。

 そして、自分自身が熱く燃え上がり、そして大きく膨らむのを無理矢理圧迫されているように感じた。


「貴方様!?」

「構うな!」


 鼻から温かいものが垂れる。

 それを腕で拭いながら俺は歯噛みして、襲ってくる感覚に耐えた。

 

『照準誤差を限界まで修正することを推奨する』

「任せてくださいまし! ルーシー!」

「はい! 姐さん!」

『【オリフラム】との照準システム同期。圧縮率上昇中、発射までテンセコンド』


 圧縮率が上がる度に、俺の視界がはっきりしてくる。

 真っ暗な空間の一点に、光が見えた。


 あそこから飛び出して、青い軌跡を追えばいい。


 だが、それ以前に俺は全身が爆ぜてしまいそうな感覚に脳を焼かれそうだった。


『耐えて! グレンさん!』

『頑張ってください! お兄様!』


 いつのまにか妹分のように思うようになっていた二人の声に、俺は笑みを浮かべる。

 同時に、セレスが細心に照準を調整する緊張が伝わってきた。


 まだだ。まだ耐えろ……! これくらいじゃアレには届かない! もっと! もっと熱く……! もっと力を溜めろ……!

 

『照準固定』


 ピン、と音がして、真っ直ぐに青い軌跡を描くものが映る。

 

『圧縮率限界点を突破、マスター』

「セレス――ッ!」

「貴方様――ッ!」


 声を同じくしたと同時に、セレスがトリガーを引いた。


「ぐぁッ!?」


 瞬間、急激な加速が脳に伝わってきて、俺の体が跳ねる。

 しかし、視界が大きく晴れた。

 

 広い世界に自分というちっぽけな存在が解き放たれた感覚に、俺は一瞬だけ迷子になったときのような寂しさを覚える。


 だが、行く場所は決まっている。

 雲を一気に突き抜け、飛行する物体を追った。


 いや、追うだけではダメだ……! 相手は高速で飛翔している! 【情報解析】で予測しろ! 相手の飛ぶ方向を!


「ぶぐっ!?」


 鼻から一気に血が吹き出て、俺は目を回しそうになる。


 だが、決して目を離さない! あそこにたどり着くまでは! 追い続けろ! 俺自身をあれにぶつけるんだ!


 目標が接近するにつれ、ズレが大きくなっていく。

 少し方向を修正しただけで、視界は大きくブレるのだ。


 最後まで、ぶつかるまで……!


 俺は遠ざかっていきそうになる意識を手放さないよう、必死にかじりつく。瞬きする時間すら惜しい。その一瞬で方向は大きく外れる。


 ――当たれ!


 そのとき、セレスの、ルーシーの、エリィの思いが伝わってきた。

 それと一緒に、俺は別の何かを感じる。


 ゴツゴツとした逞しい手と、白く透き通った細い手が、俺に差し伸べられていた。


 俺は迷わず自分の手を伸ばす。


「うおおぉぉぉぉ――ッ!」


 伸ばした腕が二人に掴まれた。

 そして、行くべき場所に連れていってくれる。俺を導いてくれる。温かい手が、頼もしい手が、俺の手を引っ張ってくれる……!


 その先に、光が見えた。


 輝く光の壁に向かって、俺は体を放り込む。

 瞬間、俺の体が何かを穿ち、突き抜ける感覚がした。


 後方で、彼方で、それが爆散する。


 やっと繋ぎ止めていた意識が遠のくと一緒に、俺の腕を取ってくれていた温かさがゆっくりと離れていった。

 名残惜しいその熱に、俺は一筋の涙を流す。


 ――父さん、母さん……。


 俺が心の中で呼ぶと、思い出の中に残っていた二人の背中が蘇った。

 それから、二人はゆっくりと振り返って、俺に笑顔を見せる。


 最後に、手を振る二人が光の中に消えて、俺自身の意識も白く塗りつぶされるのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

いかがでしたでしょうか?


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作者は執筆活動を続けることができています!


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