第36話 アップグレード
「申し訳ございません。驚かせてしまって……」
「こっちこそカップ割っちゃってすみません……」
王宮から帰る馬車の中、エリィは頭を垂れて謝ってきたが、俺は追及できない。
というか、衝撃が強すぎてまだ現実を受け止めきれていない。
「エリィは子爵家の寄子じゃなかったのか?」
「シュタインの名は子爵家を寄親とするための仮の姓です。【導き】の祝福を持つ私に目を留めて頂き、養子として引き取って頂きました」
「そういうこと!? そんな設定あったの? 全然知らなかった!」
「せ、設定?」
「アッ、なんでもない!」
俺は慌てて顔の前で手を振る。
「まさか女王陛下に謁見できるとは思いませんでしたわ。お父様にいったらどんなに驚くか」
「せ、セレスティア様。できれば私のことも含めてこのことは内密に……」
「あら、残念ですわ」
そうだろうな!
にしても女王様があんなフランクな感じとは思わなかった。王国の女王がエルフの女性だとは知っていたけれど。
「ん? ってことはエリィは王女様ってことになるのか?」
「そう言えるかもしれませんが、私に王位継承権はございません。他にも同じように育ててくださった子もおりますし、なにより陛下ご自身がご長命ですから……」
「そ、そうか」
人間の治める帝国とは、そこらへんはやっぱり違うらしい。もし何かあったら別のエルフの偉い人が王様になるのかもしれない。
元平民の俺には疎い話だ。
俺はわからないことはわからないと割り切って、話題を変えた。
「で、問題の本物の聖母はどこにいるんだ?」
「それは当日になってご案内します。もちろん私と、そしてルクレツィア様にも同行して頂きます。まだお話はできていませんが……」
「まぁ、どうせ来るだろうよ。アイツ、結構暇だからな」
俺の言いようにエリィが口元を押さえて笑う。
少々、予定は早まることになるが、どうせ主人公は聖母と会う予定なのだ。
ルーシーにもそれなりに働いてもらわなくちゃ困る。なんてったって主人公はアイツなのだから。
◇ ◇ ◇
次の日、聖母がいるという村に行く前に、俺は【ペルラネラ】の整備を見ていた。
というのも、女王様がくれたパーツを【ペルラネラ】に装備するのための作業をしている。
もらった装備は両肩と両足首につける小さなブースターを一つずつ。
そして、一番、目を引くのは両腰に剣の鞘のように装備する大きなブースターだろうか。
これだけの推力があれば空中戦――といっても大きくジャンプして多少滞空するだけだが、それが可能になるだろう。
重量としては重くなったが機動性は段違いに上がるはずだ。
ついでに手首に小型のマシンガンも装備して、対応できる状況の幅が広がっている。
「【ペルラネラ】第三形態ってとこか」
『もっと格好の良い名称を要求』
「十分カッコいいだろ!?」
『センスの問題……』
「悪かったな!?」
そんな風にペルと話していると、【オリフラム】を見ていたルーシーが寄ってきた。
「なんで急に王宮から武装がもらえたんですか? しかも【オリフラム】まで……」
見れば、【オリフラム】にも同様の武装が追加されている。
【ペルラネラ】と違うのは、【オリフラム】は肩装甲も追加されているところだろうか。
「お前の素の状態に近い【オリフラム】じゃ心許ないからな」
「む。今の状態でも【オリフラム】は十分強いですもん」
俺の言葉が引っかかったのか、ルーシーは片眉を上げて口を尖らせた。
「もっと強くなれる伸びしろがあるって言ってんだよ」
「まぁそう言われれば……そうですけど?」
「調子に乗るな。それよかブースターつけた状態でどんな機動になるか、シミュレーションはやったか?」
「なんですそれ?」
ずるっと俺はコケそうになる。
ドールはゴーレムとは違い、色んな機能があった。
その一つが現状の状態で騎体を動かさずにスペックを試せるシミュレーション機能だ。
さすがに騎体にかかるGまでは再現できないが、仮想敵を表示させて模擬戦闘も試すことができる。
てっきりエリィが教えていたものと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
「……あとでエリィ呼んでこい。教えてやるから」
「はぁ……。ところで、大事な用事ってなんです? なにと戦うんですか?」
よくわからないのか、ルーシーは頬を搔きながら聞いてくる。
「大事な用事は大事な用事だ。戦うかどうかは俺も知らん」
「大事大事って、そんなに偉い子なんですか? その会う予定の――あいてっ!」
俺は言いかけたルーシーの頭にチョップをかました。
「バカタレ。エリィから内密にって言われただろうが、誰かに聞かれたらどうすんだ」
「うー……すみません」
頭を押さえてルーシーは自分の非を認めた。
どこに耳があるかわからないのだ。本物の聖母がいると情報が漏れれば大変なことになる。
行く場所は当日まで俺たちも知らされていないし、当日は適当な場所に冒険へ行くと学校に届け出ているくらいだ。
「でもこれで何が来ても大丈夫な気がします! やる気出てきたー!」
主人公と聖母、そして俺たちの邂逅が、どんな結果をもたらすのか。
俺は【オリフラム】がアップグレードされてウキウキになっているルーシーを横目に、そんなこと考えるのだった。
◇ ◇ ◇
「【ペルラネラ】。出るぞ」
俺が拡声器を通じて外に呼びかけると、アラームが鳴って整備員が安全な場所に退避していく。
俺は足元に気をつけながら、ドールやゴーレムの通れるほどの大きな鉄門をくぐって外に出た。
学校や王都を守る近衛兵団の基地からは、外の城門に続く専用の道が作られている。
当然ながら巨大な兵器が街中を歩くと危険だし、舗装されている道を歩けばデコボコになってしまうからだ。
『【オリフラム】、出ます!』
あとに続いてルーシーの声が響く。
そうしてゆっくりと踏みしめるように学校から出て、城門まで歩いている間、俺はセレスと話していた。
「その【聖母】である子に会って、果たして私たちはどうすればいいのでしょうか?」
「いざってときにすぐに保護できるように顔を覚えとけってことなんじゃないか?」
「良いように使われそうですわね」
「女王陛下サマ直々のお願いだ。仕方ないだろ」
そうして城門から出ると、鬱蒼とした森が遠くに広がる。
城門を守るゴーレムに【ペルラネラ】の手を挙げて挨拶しながら、俺は【オリフラム】に向けて通信を開いた。
「ルーシー。調子はどうだ?」
『やっぱりちょっと重いですね。前と比べると動きづらいっていうか』
「戦闘のときは下半身のブースターを使って跳ねるように移動しろ。練習したろ?」
『アタシ、そもそも着込むのがあんまり好きじゃないんですよ』
「お前、冬でも半袖半ズボンで過ごすタイプだろ……」
言いながらも、いざというときはルーシーはちゃんとやるとわかっている。
事前にシミュレーションしたときも、しっかりとブースターを使っての高速移動に慣れていた。
根本的にルーシーは器用なのだ。
そういうところはさすがは主人公と言える。
逆に何かに特化した敵に対しては苦戦するかもしれないが、そこは俺たちがカバーすればいい。
『お兄様、ここからは私が先導いたします』
「頼む」
そんなこと考えていたら、エリィから申し出があった。
そりゃ、行き先はエリィしか知らない。
俺たちは【ペルラネラ】を止めて、【オリフラム】に先を譲る。
さて、先は長そうだ。
俺は操作系をオートで歩くよう設定して、騎乗席の中で体を伸ばすのだった。
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