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塩とメープルシロップ

 塩それは保存食を作るのに欠かせない調味料である。

 また、塩は人間が生きるために必要不可欠なものでもある。

 しかしながら塩の入手はこの領地では中々難しい。 なぜならこの領地は内陸の北の山脈側に位置し、海は近くにないため、塩は他領から輸入しなければならないからだ。


 坊っちゃまが湯たんぽを皆に配った後、本格的な冬になる直前に作る領内でいつも作成する冬籠用の保存食作りが始まった。

 主な領内で作成する保存食は干し野菜やジャーキー、川魚の干物、チーズ、バター作りだった。

 保存食を作るためには塩を大量に使う。

 塩は金貨と同じ重さで取引されるため、いつもギリギリの量を領主が見極めて購入し領民に分配をしていた。

 飢え死にはしないが冬の終わりには皆お腹を空かせて、小競り合いが発生する。

 しかしながら今年は坊っちゃまのおかげでいつもより塩を多く購入できた。

 そのため、領民は安心して冬支度をすることができていた。


 冬支度の準備をしていると、坊っちゃまが冬支度はどんなことをするのか興味を持ったようで、マリアに聞いてきた。


 「ねぇ、マリアみんな忙しそうだけど、冬支度って何をしているの?」


 「木を切って乾燥させて薪を作ったり、長期間保存できる食べ物を作っております。他にも狩った動物の毛や皮を使って、コートを作ったりしておりますね」


 「そうなんだ。大変そうだね。マリアは何をするの?」


 「私は坊っちゃまの冬支度をしております」


 「僕の冬支度?」


 坊っちゃまは自分に必要な冬支度に心当たりがないようで、不思議そうな顔をして聞いた。


 「ええ、坊っちゃまも夏の間に成長されたので、今年の冬のため新しいにコートをあつらえる手配をしたりしないといけませんから」


 「そっか!僕成長したもんね」


 身長が伸びた自覚があったため、誇らしげに坊っちゃまは胸を張った。


 「そういえばマリア、冬のご飯ってあまり美味しくないよね?僕のスキルで美味しくできないかな?」


 坊っちゃまは、前世の記憶を思い出してから食にうるさくなった。

 冬支度をしている使用人を見て、保存食が美味しくないことを思い出したようだ。

 かくいう私も保存食は美味しくないと思っている。 普段の料理もあまり美味しくはないが、自然の味なのでまだ我慢できる。

 しかし保存食は塩をたっぷり使って作るため、しょっぱい。

 坊っちゃまも冬支度をしているのを見ていて、冬に美味しく食べる方法を考えたいようだった。


 「例えば、美味しいご飯を買うとかどうかな?」


 「食べ慣れない物ですとお腹を壊してしまうかもしれませんよ」


 「でも、美味しいお菓子とかご飯とか食べたいよ」


 お坊ちゃまはご飯よりお菓子を購入したかったらしい。

 旦那様からはこの世界に存在しない物やこの世界で作ることができそうな物以外の購入を禁止している。

 以前に坊っちゃまがおねだりをした時に、お菓子は甘味料が高価なため、そもそも購入を禁止されている。

 それでも諦められず、時々聞いてくるのだった。


 「残念ですが、お菓子は旦那様に禁止されております。お食事も珍しい物や、この国で高価な物は買えませんよ」


 「それだと醤油と味噌は買っちゃダメだよね。買いたかったな。ダメなら他に何かあるかな?」

 

 醤油と味噌!凄く欲しいですが、この国では似たような物が残念ながら作られていないんですよ坊っちゃま!


 「そうですね...すぐに思いつくのは塩ぐらいですね」


 「塩か...塩といえば胡椒だよね!マリア胡椒はどうかな?」


 本来なら胡椒があれば、腸の肉詰め(ソーセージ)が美味しく作れるが、この国で胡椒が栽培できないため、輸入に頼っており凄く高価だ。

 残念ながら旦那様が禁止しているこの国では凄く高価な物だ。


 「胡椒ですか?胡椒は凄く高価で中々手に入りませんから購入はおやめください」


 「えー。でもこの国にもあるんでしょ?」


 「坊っちゃま、王都では胡椒は塩より高くて、金貨の重さでは半分しか購入できないほど高価なのですよ。下手したらそれ以上かかります。そんな高価な物がこの貧乏田舎領地にあったらおかしいですよ」


 この領内で栽培できない胡椒をお願いですから坊っちゃま、持ち込まないでください!


 「凄く高価だね!僕のスキルだとそんなに高価じゃないよ!だからお金儲けできるのに...」


 坊っちゃまは目を丸くして胡椒の値段の高さに驚いていた。

 坊っちゃまのスキルで購入すると、かなり安く質の良いものが手に入りそうですが、争いの元なので、購入はやめてください、坊っちゃま。


 「そうなんですね。この領地でも育てられれば良かったのですが、残念ながら、胡椒は南の国で育つ植物からできているそうです。だからどうやってやすく入手できたか言い訳ができないのです」


 領地は北の方にある寒冷な土地にある。そして、胡椒は寒冷地で育たない。そんな胡椒をたくさん購入して使っていることが知られたら、入手方法を聞かれてしまう。

 しかし、坊っちゃまのスキルは秘密にしているため、入手方法を答えられない。そうすると犯罪を疑われかねない。


 「そっか」


 この国では作っていないから購入してはいけない。その理由に坊っちゃまは納得したようだ。


 「坊っちゃま、坊っちゃまのスキルはお金儲けするにはとてつもなく良いスキルです。ですが、あまり考え無しにスキルを使って購入すると、悪い人を呼び寄せてしまいます。マリアは心配なのです。坊っちゃまの平穏な生活が脅かされることを。どうかわかってください」


 「うん、わかったよマリア」


 坊っちゃまはしょんぼりしながらも、他に購入できるものはないか、考え込んでいるようだった。


 「これから言うもので買っても問題無さそうな調味料あったら教えて!」


 坊っちゃまはスキルで購入できる調味料を簡単な説明と共にあげ出した。


 「砂糖、甘い白い粉。塩、しょっぱい白い粉かピンク色の石。お酢、酸っぱい黄色液体。醤油、豆からできたしょっぱい黒い液体。味噌、豆からできたしょっぱくて茶色のドロみたいな個体。はちみつ、虫が花の蜜を集めて作った甘くて黄色のとろっとした液体。メープルシロップ、木の汁からできた甘くて茶色とろっとした液体。」


  マリアは前世の記憶を思い出しながらメープルシロップについて考え込んだ。砂糖、高価で旦那様に禁止されています。

 塩、既にあるが追加購入は良いかもしれないですね。

 お酢、既にお酢はありますが、坊ちゃまの言うお酢の種類がおそらくこの国と異なるので、購入はやめた方が良いかもしれません。

 醤油、もちろんこの国にありませんよ、坊っちゃま!

 味噌、醤油と同様にこの国にありませんよ!

 はちみつ、この国にありますが、砂糖と同様に高価で旦那様に禁止されていますよ!

 メープルシロップ...この国で見たことはありませんね?

 ですが、メープルシロップは領内で手作りできるのでは?


 「メープルシロップ、なら作れるかもしれません!」


  坊っちゃまは、調味料を説明するのをやめて、メープルシロップを作れるかもしれない、と言ったマリアを目を輝かせて見つめた。


 マリアは前世の記憶を思い出しながらメープルシロップについて考え込んだ。

 サトウカエデの木は確か前世では寒い国で育っていたはず。

 メープルシロップは確か冬の終わりに樹液を採取して煮詰めて作っていたはず。

 もし、似たような木を見つけて樹液を採取して作ってみたら、甘味料が手に入るかもしれない。

 坊っちゃまが購入するにはまだ早いが、冬の終わりに試して見て、領内で作れるようであれば、経済的に豊かになれる。


 先の長い話になるが、試さない理由は無い。

今から領内にある木の種類を調べて、木に穴を開ける金物の発注と、バケツの準備をしなければ。


 「残念ながら、すぐに食事の改善はできないかもしれませんが、上手くいけば春には甘いお菓子が食べれるかもしれません」


 「ほんと!!僕は何を買えば良いの?」


 役に立てる!と嬉しそうに何を購入良いのか坊っちゃまは質問した。


 「いえ、坊っちゃまにはまだ購入していただく必要はありません」


 「どういうこと?」


 出番がないと言われた坊っちゃまは不思議そうにした。


 「メープルシロップは木の汁と言いましたとね坊っちゃま?」


 「うん、そうだよ」


 「領内の木を調べたことがないので、もしかしたら、甘い汁を出す木が領内にあるかもしれないのです」


 「メープルシロップを出す木が領内にあるかもしれないの?」


 「はい。寒い地方で育つ木の中に、甘い汁を持つものがあると聞いたことがあります。なので、まず探してみましょう!」


 興奮のあまり、マリアはさらりと坊っちゃまが言及していなかった、寒い地方で育つ木という前世の知識を言ってしまった。


 「僕のスキルは使わなくて良いの?」


 「もし、その木が見つかれば、坊っちゃまのスキルを使って購入していただき、最上級品として売り出すこともできますが、領内で見つけられていないので、まだ使わないでいただきたいです」


 「わかった!」


 甘いものが食べれるかもしれないとわかった坊っちゃまはご機嫌になって、良いお返事をした。

 しかし坊っちゃまは役に立ちたいようで、まだスキルを有効活用できないか考えていた。


 「他に冬の間に美味しくできるものないかな?」


 「美味しくはできないかもしれませんが、塩を購入してはどうですか?」


 「塩?どうして?」


 「保存食作りますためには塩が必要ですが、海に面していないため、領内で塩が不足しているみたいなので少しでもあれば保存食がたくさん作れるので、保存食の種類が増やせるかもしれません」


 「そっか、塩がたくさんあるといつも塩が足りなくて作るのを断念していた物が作れるんだね!」


 「はい。塩は輸入に頼っていますので、高価なのです。なので、いつも塩が足りなくてジャーキーを優先しておりました。塩がたくさんあればチーズやバター作りもいつもより多くできます」


 「塩ってそんなに高価であまり輸入できてないんだね。なら僕のスキルで買ってあげるね!」


 当初の美味しいものを食べたいという目的は忘れ、役に立てると坊っちゃまはご機嫌になった。


 「坊っちゃま、購入される際は岩塩でお願いします」

 

 「岩塩?どうして?」


 「領地は海に面していないので、たくさんの白い塩は不思議がられてしまいます。岩塩ならば内陸の領でも見つかったことがありますので、新しい岩塩鉱山を見つけたと言えばおかしくないはずです」


 「そっか!塩はだいたい海から作られているもんね。よーし岩塩をたくさん買うね!」


 ピンク色の岩塩を購入してマリアに渡して、


 今年の冬はあまり美味しい料理は食べれないけれど、坊っちゃまはみんなの役に立てて嬉しいようで、鼻歌を歌いながら新しい冬服を仕立ててもらう準備を始めた。


 坊っちゃまが岩塩を購入したことで、いつもはあまり量の作れなかったチーズ作りやバター作りなどをして冬に備えた。特にバターは多めに作った。

 坊っちゃまはメープルシロップと共にパンケーキが食べたいと思っているようだ。

 パンケーキはバターが必要なため、坊っちゃまはメープルシロップが作れた時に備えて、バターを多めに作って欲しいと要望したからだ。

 坊っちゃまのおかげで安く塩を入手できたので、旦那様も坊っちゃまの要望を聞くように口添えしてくれた。

 坊っちゃまは春に向けてうきうきとどんなお菓子を食べたいか考えているようだ。





 領内の様々な木を検証した結果、サトウカエデに似た甘い樹液を持つ木を見つけることができた。

 樹液を煮詰め、濾過したところ、メープルシロップのような甘い汁ができた。

 検証のため、できたの量は多くないが、次の冬にはたくさん作ることができるだろう。


 坊っちゃまは検証の結果できた甘い汁を前世の記憶の調味料どおり、メープルシロップと呼ぶことに決めた。

 メープルシロップができたことで、坊っちゃまは凄く嬉しくなったようで、食卓で家族にお菓子を作ると宣言をした。この世界ではおそらく誰も食べたことがない新しいお菓子を作るつもりのようだ。

 食卓にはもちろん給仕をする使用人がいた。

 宣言を聞いた使用人達は湯たんぽ事件を思い出し、城の外に漏らせば、食べられる量が減ってしまうと、城の外に漏らさないように厳戒態勢を敷いて、相互監視をはじめたようだ。

 使用人達が、春先に種を植えた植物達が育ち、食材が多くなる頃まで果たして隠し切ることができるのか。

 また、坊っちゃまが前世の記憶を頼りに無事にお菓子が作れるのか。

 それはまだ誰も知らない。




お読みいただきありがとうございます。

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