どちらが、悪か。雪色の少女。
「おいおい・・・」
慌てて、邪神が気配を消した。
車の前に飛び込んできたのは、紛れもない少女。
人間だった。
だが、妙な匂いがする。
「誰だよ。いい匂いするなんて、言って」
晴が毒気ずく。
すっかり、邪神に感化されている。
本当は、美しい言葉を並べる古典の教師なのに。
ご先祖のせいで、変な体になってしまった。
まぁ。
颯太よりは、いいか。
少しずつ、意識を取り戻す中で、颯太は、現実を受け入れてきた。
長い幾つもの尻尾は、相変わらずだが、顔は、ようやく、颯太らしさを取り戻しつつあった。
「人間だと思っていたのにな」
少し、前。
邪神が呟く。
「人間でない奴が、除霊師だったなんてさ」
「お前が言うな」
晴が、間髪入れずに言う。
「俺だから、言えるんだよ」
もはや、どちらが、邪神で、晴なのか、わからない存在だしな。
この思いは、どちらの、思いなのか、わからない。
どこをどう、間違えて、人間で亡くなったのか。
「きっと・・・」
悩み抜いて、颯太が出した答えがあった。
「何かが、取り憑いたのかもしれない」
自分は、まだ、人間で、きっと、この取り憑いた奴を払えば、元に、戻れる!
という希望。
「きっと、山寺に行けば、手がかりがある」
颯太の胸に、希望の光が灯った。
「そう・・・思う訳だ」
音羽が、颯太の胸の内を読んだように、反応する。
「そもそも、人間でいなくては、ならない理由がわからん」
宙に逆さに浮かぶ、音羽の髪が、渦を巻く。
「自分の思う通りに、存在しているのに、人間でいなくては、ならない理由は、何だ?」
時折、音羽は、難しい事を言う。
「普通って事だよ」
珍しく晴が、真面目に答えた。
「人と、おんなじ・・・。それが、楽だし、心地いいんだ」
「ほう。そう思った事があるのか」
音羽は、笑う。
「お気楽なぼっちゃまかと思ったが」
「お気楽になるしか、なかったの」
颯太が、呟く。
「僕は、人と違うなんて、嫌だからさ」
長いため息と共に言う。
「周りに子達に、親がいて、兄弟がいて・・・それが、どんなに、羨ましかったか。だから・・・除霊しながら、される方の気持ちを考えたりした」
もはや、あの颯太ではないのか。
晴は、眉を顰めた。
「俺もさ。婆さんと長い間、二人だったけど、そんな事、考えた事、なかったな」
「そりゃぁ、邪神だからさ」
「それを言うか。」
互いに気まずい空気になった。
その時に、いい匂いなのか、気分悪い匂いなのか、漂って来たのだ。
「待て!」
音羽が叫ぶ。
車の前に、飛び込んで来たのは、一人の少女だった。
「あの・・・すみません」
少女は、慌てるように、手を振った。
「助けてください」
「助けてって・・」
音羽が、渋い顔をした。
「タイミングが良くないか?」
「そうだ。この匂い」
晴の陰で、邪神が囁く。
「気をつけろ。一番、危ないのは、人間だ」




