理解できないし、したくもない
この時の事を、後から、思い返す事もある。
闇の降りた倉の中で、一本の蝋燭だけで、邪神は、酒を酌み交わす。
「まさか・・・あんたと、酒を酌み交わすとはな」
「ふうん」
真向かいに座る老婆は、鼻を鳴らす。
「とんでもない策士だよ」
「お互い様だよ」
「あんたは、俺より、人間離れしているんだよ。てか、人間ではない」
「ただの老婆さ」
「ただの?人間てのは、こんなに悪どいのか?罪もない一人の子供を巻き添い・・・いや・・多くの人間を巻き添いにし、犠牲にした」
「そういうのも、いるって事だ」
「あんたは、違うのか?」
「長くな・・・」
老婆は、ポツリと言った。
「自分が、どのくらい、生きていたかなんて、忘れてしまったよ。そんな事も忘れるんだ。悪行も善業も忘れるさ」
「忘れる?便利なもんだ」
邪神は、ため息をついた。
「俺の方が、後味悪くなっちまう」
「そんなに、柔な肝を持っていたのかい」
「全く、呆れて、何も言えないよ」
「ふふふ・・・」
「よく笑うんだな。笑い方が、あれだ・・・似ているよな」
老婆の顔色が変わった。
「よしなよ。誰に似ているって言うんだい?」
「ずっと、考えていたんだ。颯太の側に、ずっといる。心配してね。俺を颯太に会うように、仕組んだのは。婆さん。あんただったんだよな」
「・・・」
「あんたは、いつも、颯太の側に居た。もう、白状してもいいのでは?」
邪神は、盃を空けると、そっと手渡しした。
「颯太を心配する奴なんて、一人しかいない」
邪神は、真っ直ぐ、その目を見つめた。
そうだった。
もっと、早く、気がつけば良かった。
そうすれば、人間同士の争いに巻き込まれずに済んだのだ。
颯太の故郷は、焼け落ちていた。
行き場のない子供達を引き取り、除霊師と育て上げた霊山で修行する人々。
それは、とんでもない仮の姿だった。
妖を山に封印し、守り続けたのは、嘘だったのか。
山寺に住む人達を、狩ったのは、同じ人間達だったのだ。
「いや・・・同じ、人間じゃない」
山寺に巣食っていたのは、誰なんだ。
人が人を狩る訳ない。
あの時、颯太達と辿り着いた、消失した山寺の跡地で、立ち塞がったのは、一人の少年だった。
「妖どもめ・・・」
怯える訳でもなく、立ち塞がると忌々しく呟いた。
「根絶やしにしろ。それが、僕らの役目だから」
少年は、掌に何枚かの札を握りしめていた。




