邪神と晴の顔
邪神は、悩んでいた。
自分を捕らえた妖とも幽霊とも言えない女性の言う事を聞くべきか。
今まで培ったプライドがズタズタだ。
どうして、あんな中途半端な霊に、自分を捕える事ができたのか。
「だいたい・・・なんで、あんなちっちゃい存在に捕まらなきゃ、いけないんだ」
納得がいかない。
自分は、永い時間、自由だった。
晴の家の土蔵で、過去と現在を自由に行き来していた。
誰も、阻む者は、いない。
代々、晴の家を守って来たのは、邪神だった。
崇め奉って来た、子孫代々まで。
漸く、ぴったりの器を見つけたのに、すぐ、自由を奪われた。
「これは・・・」
そう、チャンスだ。
逃げればいい。
元々、颯太には、なんの義理もない。
この機会に逃げて仕舞えばいい。
「・・・が、待てよ」
首から下がった金鎖が、キリキリ言っている。
「なんだよ・・」
確かに、音羽は、助けてって言った。
自分は、助けたくない。
闇に生きる王が、なんで、あんな世俗を行き来するゴミみたいな奴の言う事を聞かなきゃならないんだ。
「逃げよう」
この金鎖は、後から、考えればいい。
邪神は、笑った。
また、あの土蔵に戻れば、別の世界に行ける。
しばらく、砂の海に浮かんで、腹ごしらえを考えればいい。
邪神は、飛び立とうとした。
・・・・が。
足が動かないのである。
「おいおいおい・・・どうした俺」
どうも、この体は、思うように、動いてくれない時がある。
「逃げるのか?」
邪神の顔を半分が、突然、意思を持ち始めた。
「生徒が困っているのに」
「生徒?違うだろう?最早、妖となった霊と、化け物?俺が言うか・・になった、元、人間だろう?厄介な事には、巻き込まれたくない」
「厄介な事?」
晴は言った。
「何か、知っているのか?」
「俺は、平和主義なの。しがらみのある歴史物には、触れない事にしているの」
側から見たら、一人で、ぶつぶつ、呟いて蹲っている変な邪神にしか見えない。
「まぁ・・・・いい。俺は、逃げる」
無理に体を動かそうとしても、足が動かない。
「どういう事だ・・・よ」
「僕の体が、よく合う器って言ったでしょう」
晴は、笑った。
「僕だって、このまま、自由には、させないって事だよ」
邪神の体の中で、晴の意識が根強くなっていた。




