幼い日のトラウマ
封雲。
僕と同じく山寺に放り込まれた子
僕とは、違い母親に捨てられた子だった。
山寺のある山々を駆け回る僕とは違って、よく泣いている子だった。
「あの子は、影がある」
使用人が、後ろ指を指して笑っていた。
影のある子。
僕は、自分が遊び回るのに、夢中で、封雲が泣いている理由がわからなかった。
「一人にならない」
鼻を垂らして泣いていた。
「何が、怖いの?」
皆、勘違いで泣いていると思っていた。
暗闇は、怖くない。
気のせい。
本当だろうか?
本当に、そこには、何もないのか?
大人の都合で、そう言っていないか?
闇の中には、人知れない者がいる。
皆、闇を恐れなくなり、いつしか、人の心に闇が巣食う様になった。
「本当に、どこにも、行かないで」
その日、皆、近所の檀家さんの家に出かけていて、そこには、僕と封雲の2人だけが残っていた。
「怖いから」
真っ赤な顔で、懇願している。
「わかったよ」
僕は、そう言って、本堂に2人で、居た。
嵐が来ていた。
山間の風音は、想像力を掻き立てる。
見た事もない、四つ足の獣が、山間を飛び交ってた。
「本当に、どこにも行かないで」
風雲は、僕の腕にしがみついた。
たくさんの物音がしている。
雨戸を固く閉めても、獣の声が聞こえる。
「・・・・て」
雨戸の向こうから、細い女性の声が聞こえてきた。
「・・・て」
「え?」
僕らは、顔を合わせた。
明らかに、雨戸の向こうには、女性がいる。
「誰?」
女性の子に、いち早く、封雲が反応した。
「母さん?」
「違う。開けては駄目だ」
嵐の夜に、雨戸を開けては、いけない。
僧侶に固く言われて来た。
「ダメだよ。開けては」
「でもでも・・・」
封雲は捨てていった母親を恋しがった。
「母さんかも」
「まさか。こんな夜に?」
「歩いてきたから、遅くなったのかも」
「こんな夜に?」
「心配になって、急に来たのかも」
「今頃?」
封雲は、雨戸を開けたそうだった。
「雨が降ったら、母さん、濡れちゃう」
外の声は、次第に大きくなっていった。
「早く、開けて」
「ダメだよ。封雲」
そう、止める間もなく、僕の体をすり抜け、雨戸を開け放った。
「・・・・いたか・・・・」
雨戸を開け放った封雲が見たのは、その空間いっぱいに立ち塞がる、音羽の恐ろしい姿だった。
「!」
耳まで、避けた口を持ち、宙に逆さに浮く音羽の姿は、そら、恐ろしいものだったろう。
「ぎゃー!!」
封雲は、その場で、失神し、僕は、大石に封じられた霊物。音羽を連れ帰った事がバレてしまった瞬間だった。




