老婆様の道具は、邪神
音羽がいなくなって、僕の世界は、色褪せた。
いつも、一緒に居て、家族の様な存在だった事に気が付いた。
あの後、僕は、晴先生を自宅に送り帰した。
ぶつぶつ、訳のわからない事を呟いたり、真っ直ぐ歩けなくて、電信柱にぶつかったり、全く、頼りのない、空っぽの邪神だったけど、一緒にいる気もしなくて、すぐ、帰ってもらった。
僕は、どうしたらいい?
晴先生を送ると、玄関には、晴先生のお婆ちゃんが、待ち構えていた。
「どうやら、役に立たなかった様だね」
認知症と聞いていたが、時々、クリアになるらしい。
僕を、じろっと見ると。
「親しい人と別れた様だね。だが、また、すぐ逢えるさ」
それを聞いて、僕は、食いついた。
「逢える?本当に?」
「時期が来たらだね。お前さん、これからが苦行だよ」
「お婆さん。僕は、今までも、辛い事があったんだ。これ以上、大変なんて、耐えられない」
「最後の山だよ。整理整頓しないとだね・・・この子を使うといいよ」
ぼやっとしている晴先生の襟首を掴み上げる。
「飴とムチが必要な子でね。中から、引っ張り出すといい」
「中から?お婆さん、何か、知っているんですか?」
僕は、お婆さんに、食いついた。
「晴先生は、どこから来たんですか?一体どうして?」
「質問は、辞めておきな。すご帰るんだ。もう、今迄の世界とは、異なったからな」
おばあさんは、外の夕焼けに眉を顰めた。
「黄昏時は、気を付けな。今まで、通りには、行かない。簡単に、行かないだろう」
僕の右手の数珠に触れる。
「いいかい。何かあったら、晴を呼ぶんだよ」
「だって、晴先生は・・」
邪神じゃないか。僕は、思った。僕を助ける事なんて、ある訳がない。
「この子は、道具だよ」
お婆さんは、そう言い終わると、玄関に座り込む晴先生の襟首を掴むと、奥の部屋へとスタスタ歩き出してしまった。
「あの・・」
言い掛けて、僕は、外の景色が、全く変わっているのに、気が付いた。
先程、綺麗な夕焼けだったのに、真っ暗な闇が落ちていた。
「嘘だろ・・・音羽・・」
言い掛けて、ハッとした。
音羽は、もう、いない。
「そうだった・・」
僕は、空しい気持ちで、暗闇の下界に出ていった。
周りは、いつもと、変わらない?
そんな事はなかった。
息を潜め、すれ違う人の殆どが、この世の人ではなかった。
みんな空な目で、僕とすれ違っていく。
何処を見ている訳でもない、目線。
目を合わせては、いけない。
僕が、生きている人間だと、気付かれてはいけない。
僕は、何も気が付かないふりをして、真っ直ぐ、前を向くことにした。




