邪神と音羽
音羽と別れた颯太が、目にしたのは、金色と銀色の双眸を持つ、異形の邪神だった。
「これは・・・?」
身の丈は、2メートル以上は、あるだろうか。いかつい体をしており、頭部の片側にだけ、長い角を持つ。もう、片方はどうしたのか?
根元から、切り落とされた痕が見える。
両手の爪は、長く、猛禽類の爪を思わせる。
顔は・・・。
颯太は、顔を見て、生唾を飲み込んだ。
颯太を振り返った顔は、よく見た事のある顔だった。
「え?」
そう、半分は、邪神の顔なのだろう。だが、その半分は、よく見た事のある人の顔が埋もれていた。
半分は、邪神の顔で、銀色の瞳を持つ、その顔は、晴の顔だった。
「何が、起きたんだ?音羽」
音羽は、邪神の首に掛かった長く金色に光る鎖を、掴んでいた。
「見ての通りよ」
「見ての通りって?」
地面には、血まみれの老婆が、頭を抑え、うずくまり、よく似た双子の女性が、抱き合って座り込んでいた。
「全く、自分の主の顔も忘れたのかね」
音羽が、ぐいっと、力を入れると金の鎖が、締まる。
「おっと・・・いい加減にしてくれないか?」
邪神が、ようやく、口を開いた。
「手荒に扱わないで、欲しい。音羽。まだ、成仏、できていなかったのかね」
邪神は、気にるのか、鎖に触れようとすると、一瞬、煙が上がる。
「あちっ!」
「熱いのは、まだ、わかるのね」
「残念ながら。また、こうして、君に逢えるなんて」
「喜んでもらえて、嬉しいわ」
この邪神と音羽は、過去に何かあったらしい。
だが、どうして、晴の顔を持っているのか。
「音羽。どういう事なんだ?」
颯太は、声を上げた。
「馬鹿な鬼どもが、自分の主を忘れて、取って食おうとしたのよ。忌々しい」
音羽の髪が逆立ち、老婆と2人の少女を締め上げた。
「私が、止めなければ、山ごと、吹き飛んでいたわ」
「私達も、邪神様が、まさか、あんな弱い人間の中に居るとは、思いませんでしたから」
老婆が、血だらけの両手で、懇願する。
「どうか、娘2人は、助けてください」
2人の娘は、慌てて、地面に頭を擦り付ける。
「砂漠に、現れたあの青年が、邪神様だったなんて、思いませんでした」
「何の為に、送り込んだのか、わかりゃしない」
音羽は、激怒していた。
「音羽。それで、晴先生は、何処に行っているんだい?」
「この中よ。」
音羽は、金の鎖を引く。
「危険な目に遭ったから、真の姿が出てきたの。何とか、この手綱で、落ち着いているけど、暴れ出したら、私でも、太刀打ちできない」
「手綱?」
颯太が、音羽の手にしている金の鎖に触れようとすると
「危ない!」
音羽が、避けようとするが、颯太には、何事も起きず、手にする事ができた。
「え?」
颯太が、手にした金の鎖は、煙を上げながら、その姿を変え、邪神の首に、細い輪を作っていった。
「颯太?」
音羽が、声を上げると。颯太は、笑った。
邪神の首に、金色の輪が収まっていた。
「孫悟空と同じだな」
「颯太。知っていたの?」
「君の指輪が何故かって、思っていたから」
「あ・・」
音羽は、邪神の顔を見た。
「それは、今度、ゆっくり話すわ」
見ると、金の輪が収まった邪神は、次第に、その体を縮めていき、一人の気弱な青年が、横たわっているのみだった。
「先生・・・だったのか」
颯太は、そっと、晴の体に手を添えていた。




