暴走者を止める霊
「まだ、着かないのか?」
音羽は、あれほど、姿を出すなと言っていたのに、顔を出す。
「ダメだよ。」
颯太は、慌てて合図を送るが、見える人には、見えてしまうらしい。
「ヒェ・・・」
バスの中の何人かが、真っ青な顔をした。
「だから・・・タクシーにするとかできないのか」
「今月、ピンチなんだよ。新幹線代とか、ホテル代とか、かかるだろう?帰りの足をどうするんだよ」
「そんなの、晴に払わせればいい」
「部屋で寛いている所を拉致したんだろう?お金を持ってる訳ないだろう」
「人間は、つまらない」
颯太と音羽は、霊場行きのバスに何とか、乗り込んでいた。音羽自身なら移動も、問題ないが、颯太は、移動できない。晴の様には、行かないのだ。
「全くもって、不便な生き物よ」
「そんなに、不満なら、先に行けば?」
宙に逆さ吊りで、現れる音羽の姿に、霊力の強い何人かが、気づき始めた。
「面倒な事になりそうだよ。音羽」
音羽は、くるっと辺りを見回す。
「他言無用じゃよ」
音羽は、笑う。
「他人に言うと呪われるぞ」
そう言うと、音羽は、いつもの様に、宙のポケットに入り込む。
「なぁ・・・颯太よ」
「あまり、話しかけるなよ。周りの目を見ろよ」
颯太は、バスの中で、独り言の多い、危ない奴として、見られていた。
「ちょっと、やばい感じになっている」
「誰が?」
「いや・・・危険な目に遭っているのは、人間の方」
「晴も人間だろう?」
「後から、ゆっくり来い。先に行く」
「え?」
音羽は、宙のポケットに、頭から、飛び込むとすっかり見えなくなっていた。
「人間が、危ない?晴が危ないのか?」
一人、ぶつぶつ呟く颯太を残して、音羽は、その現場に急いだ。
僕は、何を言っているのだろう?僕は、両手を見た。生ぬるく、濡れた両手は、鮮血に染まっていた。
「お前・・・」
お婆さんは、地面に腰を抜かして倒れ込んでいた。
「腕を、怪我したの?」
僕の口からは、普通に言葉が出てくる。
「何て事だい?お前は、何者だい?」
振り上げた斧は、僕に払われ、お婆さんの腕を傷つけていた。
「大丈夫?」
僕は、お婆さんに、駆け寄ろうとしたが、這って逃げようとしている。
「どうして?」
「どうしてって・・・よく、自分の手を見てみるんだな」
突然、宙を切り裂くように、音羽が、現れたのだった。




