僕の名を呼べ!叫べ!
晴は、気落ちしていた。
「こんな山奥で」
こんな所に、放り出されるなんて、思っていなかった。
「誰?」
記憶が、バラバラになっている。あちこちから、笑い声が聞こえてくる。
これは、絶対、僕を笑っている。
居た堪れなくなっていた。老婆を迎えに来たのは、小綺麗な車に乗った女性2人だった。
「双子だよ」
老婆は、言った。
「双子?」
どこかで、出会った気がする。だけど、思い出す事はできなかった。
「おかしい」
双子の片割れが笑っている。
「おかしいよね」
運転している双子の片割れも、笑っている。それは、そうだ。
「だって、石ころを枕に寝ているなんて、こんな恥ずかしい事ってある?」
笑いながら、言っている。
「しかも、高校の教師だって」
爆笑。身元を安心させる為、勤務している高校の名前を言った事を後悔した。
「ちくしょう」
晴は、小さく呟いた。車の中が、針の筵だった。
「だから・・・頼むよ」
晴は、借りた電話で、幼馴染のいる古本屋に電話をかけていた。部屋の中から、引き摺り込まれたから、携帯も持って来ていないし、ジャージの上下のままだった。おぼっちゃまのプライドがボロボロだった。
「明日、迎えにくるそうです」
晴は、老婆の家に泊まる事になっていた。明日、迎えに来てもらう。お金がないので、何もできない。惨め、この上ない。
「何もないが、ゆっくりしていきなさい」
老婆が、家に泊めてくれる。不気味な双子の孫が、そばで、薄笑いを浮かべていた。
「勇気あるね。イタコの家に泊まるなんて」
「ばあちゃんも、変な人拾ったね」
老婆は、何を言われても、ニコニコしている。
「大事なお客様だ。丁寧に、もてなすんだよ」
老婆は、失礼にないように、双子に言う。
「そんな、もてなすなんて」
晴は、謙遜した。更に、老婆は、言う。
「どちらかに、夜這いかけても、かまわないって」
晴は、思わず吹き出した。
「僕、そんな!一応、教育者ですし」
「そんな気にするなって」
双子の一人が、構うように、晴の腕にまとわりつく。
「そんな勇気、ないわよね」
「こ・・・こんな所で」
老婆は、笑う。
「縁があって来たのじゃ。ゆっくり、休んでいくがいい」
老婆の目が、蒼白く光っていた。
「今宵は、何が、起きるのか、楽しみじゃぞ。叫ぶでないぞ、若いの」
双子が、そっと、晴の首に手を回して、囁く。
「ここに来たのは、あなたが、初めてではないのよ。」




