廃寺に眠る者
どこまで、関わるか。
颯太を見ながら、自問自答する。
「この辺で、手を引いておけ」
「そう思うよ」
邪神は、もう一人の自分に答える。
「関わりすぎる」
「らしくない」
晴の体の中で、邪神の心は、乱れていた。
「帰ろよ」
砂の世界に。
「逃げてしまえ」
俺が?
邪神は、笑った。
「長く生きていて、人間に近くなったか」
誰かが、話す。
「そうなのか」
晴の家の奥深い蔵に住んでいた。
いつから、居たのか、覚えていない。
時間のない砂の世界を行ったり来たり、
鬼娘達と戯れ合いながら、気楽に過ごしていた。
時折、除く人間界で、不思議な少女を見た。
おそらく、
あれが、玉藻御前。
颯太が、息子だったのか。
この寺が、颯太を匿っていた。
颯太だけでなく、匿った妖達は、数知れず
それが、人間達によって、滅ぼされてしまった。
寺の門が、目の前に立ちはだかる。
門は、黒く焼け落ち、屋根の瓦が、今にも、落ちてきそうだった。
「ずいぶん、酷い焼け方だな」
「酷いもんだ」
封雲は、低く呟いたが、颯太は、言葉を発する事なく、無我夢中で、駆け出していた。
「颯太?」
「一体、どうして?」
何かを目指して、駆け出す。
「待て!何がある」
「何があるか、わからない。止まれ!」
颯太は、止める声も耳に入らないのか、やみくもに、駆け出す。
「いい加減にしろ!」
邪神が手を伸ばし、ようやく、颯太の足が止まった。
「危ないだろう?何があるのか、わからない」
「そうじゃないんだ」
颯太は、眉を顰め、右手を差し出した。
「なんだ?」
邪神が、右手首に目を落とすと
「何だ?」
数珠だ。
蛇や龍と姿を変える数珠が、細い糸の様な形になって、颯太の体を引いていた。
「一体、これは!」
邪神が引き離そうとすると、封雲は、止めた。
「ダメです」
未だ、形が定まらない。
寺門の奥を指して、糸になったり、蛇の形になったり、龍になったり、颯太の右手首で、揺れている。
「この場所は、そうなんです」
封雲は言った。
「昔から、この地は、人と妖の境目の地と言って、人でも、妖でもないから、寺で預かれると言っていたんです」
「誰が?」
「師匠が・・・」
封雲も、寺の師匠に愛情を求めていた。
絶対的な存在だったのだろう。
「寺が問題ではなく、この地なんだろうな」
地面から、湧き上がる得体の知れない力。
自分とは、決して、無縁ではない力が、足底から、湧き上がってくる。
「なぁ、颯太。お前達の師匠は、何か、隠していたんじゃないか?」
ふと、山頂から降りてくる気配に、邪神は、気付いていた。




