廃寺の記憶
廃寺に着くまでの間、誰も口を聞かなかった。
何度か、音羽が、心配して、宙から出たり入ったりしていたが、
颯太も封雲も、言葉を発する事はしなかった。
もちろん、何度か、晴が自分の存在を知らせたが、
颯太の表情を見やるだけで、
口を開こうとは、しなかった。
「何を話せばいい?」
音羽が、封雲を小突いた。
「君の姉さん・・・」
砂羽の事だ。
「強いね」
姉妹で、この世を彷徨っているなんて。
音羽は、鼻で笑った。
「勝手に、私の事を心配している。迷惑なのよね」
「君は、どうして、この世にとどまっているの?」
「私?」
あいつに、復讐したいから。
そう言葉に出したかったけど、あえて飲み込んだ。
「なんだか、忘れちゃった」
「忘れる様な事でないでしょ?」
「それ位、長いって事よ。あなたは、どうして、寺に預けられたの?」
「僕?」
誰かが、自分に関心を持ってくれるのは、嬉しい。
「貧しかったから」
「今どき?」
「親が、離婚してね。母さんは、僕を捨てて、出て行った」
「ふ・・ん。だから、異常にやきもち焼くのか・・・」
「そんなに、焼いていないと思うけど」
「颯太に執着している」
「そうか?」
「ライバルというより、憎んでいる」
少し、言い過ぎかも。
音羽は、封雲の顔色を伺った。
「そう見える?」
「颯太に嫉妬している」
「そうか・・・」
「あのな?ごちゃごちゃ、聞こえてるんだよ」
運転していた邪神が声を上げる。
「そういう話は、別の所で、やってくれ」
「どう思う?邪神よ」
不意に、邪神に振ったので、車内は、異様な空気になった。
「こいつはさ・・・」
邪神の手が伸びて、封雲の頭を撫でる。
「飢えているから、敏感なんだよ」
「何が!」
封雲が、邪神の手を払う。
「颯太は、捨てられたんじゃない。託されたんだ」
「誰に?」
黙って、話を聞いていた颯太が声を上げた。
「お前の母親だよ。玉藻御前に・・・」
「託された?生きているのか?あの妖怪は」
言いかけて、封雲は、口を押さえた。
「真実は、わからない・・・ただ、俺の記憶では、そんな悪い女ではなかった・・・それは、間違いない」
「知ってるの?」
「ちょっとな・・・」
全員が、邪神の顔を見た時、車は、焼け落ちた寺門の前に、着いていた。




