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 翌日、ノートを取りに店に向かった。休みだったけれど、忘れ物がある振りをした。

 店長に挨拶して、服部さんに世間話されそうになるのをかわして、更衣室に入った。…考えてみれば、男子の更衣室に入った事はない。鍵はかかってないけれど、人に見られたら、変な疑いをかけられるかもしれない。廊下を覗いて人がいないのを確認してから男子更衣室に入った。

 斎藤君のロッカーを見つけるのは簡単だった。ネームプレートが貼ってあったから。鍵もかかっていなかった。扉を開けて、中のノート二冊を取り出して、鞄に入れた。ロッカーには他にも折りたたみ傘や本、漫画なんかが見えたけど、放っておいた。

 忘れ物を取った振りをして店を出た。帰り際に店長に「このまま働いていってもいいよ」と冗談を言われた。私は微笑してやり過ごした。

 ノートの中身を見たかったけれど、やめておこうと歩きながら思った。斎藤君はきっと元気に店に帰ってくる。店に帰ってきたら、ノートを返して、笑ってやろう。何を深刻ぶってるんだ、どうしてそんなに切ない思いをしていたんだって、笑ってやろう。それで、斎藤君の作家になる夢を励ましてやろう。小説を書いているというのはきっと、そういう事だから。ノートを燃やすなんて言わず、どこかに投稿した方がいいよ。まだ、人生は続くし、いい事も待ってるかもしれないよって。

 

 私はそんな風に考えた。その時は本気でそう思った。私は真面目だった。でも、真面目というのは時に滑稽なものになる。…まあ、神様から見たら人間なんてのはみんな滑稽なのかもしれないけど。

 

 ※

 

 ノートを持って帰った翌日、斎藤君のお母さんがロッカーの荷物を取りに来た。私が店にいない時間だったから、会う事はなかった。斎藤君のお母さんは大人しい、礼儀正しい人だったらしい。店に高級なお菓子を置いていった。その代わりに斎藤君のロッカーが空になった。

 その後も、斎藤君とのメッセージのやり取りは続けていた。手術は成功した、と書いてあった。私が「おめでとう、良かったね」と返したら「でも、まだどうなるかはわかっていません。全然安心できないらしいです」と返ってきた。斎藤君の照れ隠しだろう、と私は考えた。

 手術成功のメッセージが来た一週間後だった。私が新人の子と打ち解けた頃だった。テレビ番組のすごくくだらない話で盛り上がったのを覚えている。『女子の胸キュン特集』をやっていて、新人は男の子だったけど、「あれはなしっすよ~」とか「イケメンならあれは許せるよね」とかそれぞれが適当な事を言っていた。とてつもなくくだらない雑談だった。

 それは斎藤君のアカウントからメッセージという形でやってきた。談笑中、スマートフォンが鳴った。私は笑いながら、スマートフォンをポケットから取り出した。メッセージが来ていると通知の欄に出ていた。機械的にそのあたりを押すと、次のような言葉の羅列が現れた。

 

 「光二の母です。光二が登録しているアドレスに一斉送信させていただいております。光二は昨日の夜、あの世に旅立ちました。これまで仲良くしていただいたみなさま、本当にありがとうございました。」

 

 私はそれを見ると、凍りついてしまった。そこから一歩も動けなくなった。新人が「なんすか? なんかあったんすか?」と言ったけど、何も答えられなかった。私はメッセージを信じたくなかった。

 

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