ポンニチ怪談 その29 ヒトガタ流し
とある集落に伝わる奇妙な雛祭りの話をネットでみつけ、やってきたH吉。彼には実は別の目的が…
「本当にこれ、流すんですか」
H吉は稲わらで編まれた巨大な円形の筏のようなものを見ながら尋ねた。地元の初老の男性が作業をしながら答えた。
「ああ、そうだ。これに、このヒトガタをのせてな、川に流すんだよ、祭りのときにな。アンタ、祭りを見に来たのかい?」
「え、まあ」
H吉は曖昧に答えた。ネットで、この山奥の集落の特殊な雛祭りの話を見つけて、やってきたのは、確かだ。だが
「えっと、雛祭りの一種だって聞いたんですけど。その、ひな人形とか吊るし雛とか、ひな人形の恰好をした子供とか」
最後の子供をできるだけさりげなくいったつもりだが、
「子供か。まあ、近所の子たちが着物着てくるんだが、そういう派手な飾りはあんまりないな。祭りに来た子供たちに甘酒や菓子を振舞ったりするから、隣の村やふもとの町からも子供が来たりもするがな。ここら辺は昔からモノがあんまり手に入らんのよ。だから、流し雛も大きくなったんだよ、飾りが少ないから、その分大きくしようっちゅうことらしい。昔は稲わらも手に入らんかったから、木の枝を組み合わせてたんだけどな」
筏にのせるというヒトガタを設置し終わって男性は、そばに置いてあった折り畳み椅子に座った。
河原のそばの広場のような場所で巨大な筏が置いてある様は確かに祭りの準備のようにみえたが、作業している人間は少なかった。H吉と話していた男性のほかに、もう一体のヒトガタの表面を磨いている男性と、なにやら看板のようなものを作っている男性ぐらいしかいない。観光客もH吉だけのようだ。
「あの、棺桶みたいですね」
今度はヒトガタを磨いている男性にH吉は話しかけた。
「ああ、そうだなあ。確かに中が開けられるようになっとるな。この中に穢れとか、いろいろ悪いモンをいれて流そうってことだから」
「悪いモノ、ですか」
「ああ、子供に害をなすものっていろいろあるじゃろ、病気とか、怪我とか、悪い奴とか」
その言葉にH吉は一瞬ギクっとしたが、なんでもないように
「あ、明日が祭りなんですよね。今日、その何か詰めるんですか、その中に」
「そうさなあ。子供や親が流してほしいものを詰めるとか、まあ色々だな。あまり軽いとうまく沈まんから、木とかを詰めることもあるんよ」
と、男性が言うそばから、7-8歳の女の子が近づいてきて、封筒と渡した。
「おじちゃん、これ入れて」
「ああ、いいよ」
男性はヒトガタを開けて封筒を放り込む。
「中は見ないんですか?」
「ああ、見ないな。流したい悪いものなんぞ、見るもんじゃないだろ」
「でも、流しちゃいけないものとか」
「ねえよ。ヒトガタが沈む滝つぼ様は何でも悪いものを呑み込んでくださるからな。ま、心配すんな。ところで兄ちゃん、宿とかとったのかい?今は村には宿がねえし、隣の村までいくなら、もう出ないと着くまでに日が暮れるぞ」
「は、はあ。ありがとうございます」
足がつくから宿はとってません、車中泊です、などといったら、怪しまれる。H吉は会釈をすると河原から離れた。
「さっきの女の子、可愛かったな」
車を置いた山中の道路わきまでの道のりをH吉は懐中電灯を手に歩いていた。
「悪い人が出るっていうけど、ま、俺も悪い人だからな」
H吉はニヤニヤしながら
「ああ、あの子を手に入れたら、何をしよう。この間はさんざ騒がれたし、もう少しで逮捕だったからな、気をつけないと。オヤジたちのおかげで何とかなったけど、流石に今度は慎重にやらないとだけど」
スマートフォンをいじりながら
「こんな祭りがあるなんて、ホント、あのサイトには感謝だなあ。子供が行方不明になっても気が付かれないかもって。確かにこの辺は山道が多いせいか行方不明者続出だって。もちっと街灯とかつけりゃいいのに」
と懐中電灯で足元を照らしながら、未舗装のでこぼこ道をゆっくりと進んでいく。
「明日の祭りが楽しみだ。一人でくる子が狙い目だけど、ちょっと親や周りが目を離したすきに車に連れ込んじまえば。やっぱり祭りでヒトガタを流す時が狙い目かな。車をどこにとめとくか…」
といいながら、歩みをすすめていると
ドン!
頭にいきなり衝撃が走った
“やっぱり、悪い奴だったよ”
薄れていく意識の中で昼間の男性の声が聞こえてきた。
トントントン
息苦しさと音でH吉は目が覚めた。目の前にあるのは荒削りの木、手足が動かせないほど狭い場所に寝かされている、しかも口も猿轡のようなものをかまされて、叫ぶことどころかうめき声すらあげられない。必死になって体をゆすると
「起きたみてえだな。ま、口は塞いであるから、大丈夫だろう。とっととヒトガタに釘うっちまえ」
聞き覚えのある声が恐ろしいことをいっていた。
「んだな。こいつはあのブログとやら見て祭りに来た奴だからな。悪い奴にちげえねえ。あの子を見る眼付きだっておかしかったし」
「そうさな。ま、ネットちゅうもんは便利だな。こんな簡単にひっかかるとはな。あの学者さんのいうとおりだ。いい人が騙されるんなら悪い奴を騙して懲らしめるのにつかったっていいってな」
「ま、子供がさらいやすい場所なんちゅうものを調べる奴はロクなもんじゃねえからな。それにコイツ調べてみたら、子供に悪戯して捕まりそうなったけど親が役人でなんとかしてもらったちゅう極悪人だったよ、嫁がいってた」
「そういう奴なら流してかまわんだろ。どうせ、ここに来ることは誰にも言っとらんじゃろうし。いったところで、探せんだろ。車は壊しちまったんだろうな」
「ああ、中のカメラとか、なんか映像見たオヤジが胸糞悪いって機械を壊しちまったけどな。子供が泣きわめいて襲われてんだと」
「なんちゅうものを持ってるんだ!さてはコイツあの子を襲うつもりだったんか。流して当然の野郎だ」
「こっちの女もひでえよ。男をつなぎとめるために娘を差し出したんだからな。そのせいで娘はおかしくなっちまった。恋人ができても、義理のオヤジにされたことを思い出してうまくいかないらしい。ま、オヤジは母親が結局殺っちまったらしいけどな」
「娘も、旦那ももてあそぶとはな。それで娘の彼氏が連れてきたのか。ま、この祭りならバレることはねえ。昔から滝つぼ様が悪い奴を呑み込んでくださる。最近はなかなか流していい奴が来んかったが、今年は男女のヒトガタが揃ってよかったよ。これで滝つぼ様もご満足だろう」
「SNSちゅうのを教えてくれた学者先生に感謝だなあ。まあ、あの先生も子供を酷い目にあわせる悪い奴は許せないっちゅうことで、いろいろおしえてくれたんだろうが」
「そういう奴を懲らしめたい人はまだいっぱいいるらしいからな。また、悪い奴を誘い込むやり方を教えてくれるだろうよ。さあ、コイツのヒトガタを筏にのせて流す準備をしとくか。暴れないよう例の薬をヒトガタに流しとけよ」
「もちろんだ、祭りの最中にガタガタしたら、子供らがおびえるからな。滝つぼ様のお口に入るまで大人しくさせとくよ」
煙のようなものが中に入ってきた。恐怖におびえながらもH吉の目は閉じていく。瞼に水底にある大きな黒い口が浮かんできた。
どこぞの国では児童に対し性的虐待など性犯罪を犯した教員が再び教職に就くとか、痴漢野放しとか、トンデモナイことが続いているようですがいいんでしょうかねえ。せめて更生プログラムを受けさせるとかいろいろ対策ありそうなものですが。出生率が下がるとか喚く御仁もいるようですが、こんな現状じゃ子供が心配すぎて安心して産めませんよねえ、他にも災害だの忖度汚職政治だの、心配事ありすぎで、神様でも対処が難しそうですし。