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ラスボス会議~人類の楽しい滅ぼし方~

作者: マッスル公太郎

頭を空っぽにしてお読み下さい。

 昔々、世界を支配していた生物たち―――『旧支配者』と呼ばれる知的生命体達が、神によって異世界に追放されてから約300年後。

 その異世界―――即ち『魔界』の中央の城付近にて、4つの影が蠢いていた。


 一つは、人の頭蓋骨から山羊のような角が下向きに生え、奇妙な構造の背中からは巨大な翼の骨格が生えている影。その体躯は天に届きそうな程高く、事実魔界の紅い空に頭が接している。



 一つは、鱗が虹色に輝く高貴なドラゴン。翼を広げ飛来するその姿は蝶の翅のような美しさを感じさせる。ほっそりとした顔のラインと明らかに戦闘用でない手足から、そのドラゴンが雌であることが分かる。



 一つは、体躯が数十メートルはあろうかという程の巨大な蜘蛛。全身が黒に染まったそれは、さながら闇がそのまま形を取った様な風貌であった。されど頭部には爛々と光る巨大で紅い瞳が8つ。

 もし人間が真正面に立ってしまい、不運にも8つの目に睨まれる事態になったならば―――生きようとする意思すら失ってしまうだろう。



 一つは、周りの異形に見合わぬただの人間。紅い長髪をゆらりと揺らし、パジャマのような緩い服、そしてそれを押し上げる暴力的なバスト。百人が百人美人と答えるであろう彼女は、正に傾国の美女と言って差し支え無かった。

 


 最後の1つを除いた3つの影はヒトガタに姿を変えると、城に入って一つの部屋を目指す。4人が無言で扉を開けると、その部屋には長方形のテーブルがどっかりと置いてあった。


 そして姿がそのまま人間だった女が上座に座ると、人型に変形した残りの3体はその脇を固める。上座の女が手をパチンと鳴らすとテーブルの上に飲み物が出現し、皆が一息ついた所で…



「―――それじゃあ皆さん、そろそろ人類滅ぼしましょうか。」


 上座の女がそう口走った。影で隠れた瞳は爛々と紅く輝き、全身から発する胡散臭さを加速させる。彼女の名はワルプルギス=ワルプルガ。神代の頃に魔法を極めた、伝説の大魔女である。


『異論はない。』


 続いて、ワルプルギスから見て右手に座る人物が発言を行う。というか、手に持ったフリップで筆談を行う。


 彼は先程の巨大な骸骨、通称『不死王』。死んだモノ全てを支配下に置く、まさに死の支配者である。


 彼は人型に姿を変えても尚骸骨のまま…即ち、そのまんまスケルトンの風貌を為していた。

 何故彼が筆談を行っているかというと、『骸骨に声帯は無いから』とは彼の談だ。一分の隙も無い完璧な理論だ。反論のしようもない。なんでお前は筋肉が無いのに動いてるんだよとか思ってはいけない。


「賛成ですね。…あ、果物お代わりお願いします。」


 不死王に続き、彼に対面する少女が答える。黒い和服に、絹のように透き通る長い黒髪。一般的な和風少女像だが、頭からは小さな角がちょこんと生えている。


 彼女は虹のドラゴンが姿を変えた姿であり、名をリュウカと言った。通称『龍姫』。竜王の娘であり、この世界に残る最後にして最強のドラゴンである。


 因みに甘い物が大好きなので、今もワルプルギスを脅して果物を出現させ、それを貪り喰っている。一応会議中です。


「不死王さんとリュウさんは賛成、と。ナチャさんはどうです?」


「…。」


 ワルプルギスが顔を向けるのは、不死王の隣に座る白髪の少女。ゴスロリを着て白髪をたなびかせる彼女は人間離れした美しさを感じさせる。

 彼女の名はアトラクト=ナチャ、通称『世界蜘蛛』。運命に巣くい、自らの糸として扱うことが出来るという不可思議な能力を持つ。普段は暗黒世界でマイホームをDIYしているらしい。


 彼女はテーブルの上で手を組み、『如何にも強キャラ』という雰囲気を醸し出しているが―――


(いや、コイツらチート過ぎだろ!嘗めてんのか!早く帰って巣作りに戻りたーい!!!)


 と、内心はビビりにビビりまくっていた。なぜ彼女が畏れを抱いているのかと言うと、それは先程描写した彼女の『能力』にある。


(クッソ…運命を視ることしか出来ない私が、何でこんなチート共に混ざらなアカンのじゃ。それに自分の運命は視られないし…。大体、運命を糸に出来るって、言い換えれば『ただ丈夫な糸が創れる』だけなんだぞ。)


 と言う訳だ。

 彼女は運命を糸として視ることが出来る他は、丈夫な糸を創ることしか出来ない。

 他の連中の様に、世界を創造する魔法を使ったり、世界中の死人を配下にして操ったり、吐息一つで焦土を誕生させたり何ぞ出来ないのだ。


(ああもう、この会議サボれば良かった!何で今回に限っていつも来ない奴らが来てんのよ!)


 この会議には、旧支配者の上から六名、『六席』と呼ばれるバケモノ達が集っている。

 主席ワルプルギス、三席アトラクト=ナチャ、五席不死王、末席リュウカ。

 次席と四席はこの度サボタージュを決行している。

 普段は不死王とリュウカもサボり側である。


 彼女は、『会議に呼ばれたら普通出席するやろ』という極めて真面目な思考の下、神代から続くこの会議で皆勤賞を維持し続けている。


 彼女が何故旧支配者で最上位に位置しているのと言うと、周りが会議をサボりまくったお陰で『旧支配者番付ランキング』でドンドン上に上り詰め、今や3位に成り果ててしまったという訳だ。


(クッソこいつら…人が呆れてる隙に先手を打ちやがって…!こっちは楽しみにしてる連載小説、『シャーク・オブ・ザ・デッド』があるんだぞ…!)


 普段は地下世界に引きこもっている彼女の娯楽は、人間界から仕入れる小説と漫画。二次元世界だと運命が読めないので、新鮮に物語を楽しめるらしい。転じて先が読めない展開を好み、専ら人間界ではクソの名を冠するモノを読み漁っている。


 脳内の罵倒を顔に出さぬ様に、彼女は涼しい顔で言い放つ。


「――――人間など、捨て置けば良いじゃない。些末な塵如き、気に留めるにも値しないわ。」


 そう言うと卓上で組んでいた手を解いて左手で頬杖を突き、右手でトントンとテーブルを叩く。外面だけ見れば強キャラムーブである。外面だけ見れば。内心は…。


(…っぶねー。危うく強キャラの仮面が剥がれる所だった…。)


 ため息をついて安堵していた。

 彼女がこんな回りくどいロールプレイングをしているのは、自尊心以外にも理由がある。

 始めてこの会議に呼ばれた際に、周りのチート共に釣られて、自己紹介の際に少々能力を()()()のだ。具体的には、『運命を自在に操る』という様に。


 考えても見て欲しい。

 ある日突然ラスボス共の集いに呼ばれ、肝が縮み上がるような能力紹介をされた後で『では、自己紹介をお願いします』とバトンを渡される恐怖を。

 その場で『運命を…視れまぁす!』等と言った日には、ハードルの下がり幅で殺されてしまうだろう。


 以来彼女は、強キャラの仮面を被って生きる羽目に陥ったという訳だ。サボったら殺されるかもしれないと律儀に会議に出席した結果、裏目に出たが。


 彼女の渾身のハッタリに対し、上座の魔女は「その反応を待ってました」とばかりに笑みを深めて言葉を紡ぐ。


「いや、実際そうなんですけどね。アイツら最近調子づいてきてるみたいなんすよ。ここらで一発絶滅させとこうかな☆と。」


(『一発絶滅させとこうかな☆』じゃねーよ。一発も二発もねーんだよそれ。私の楽しみにしてる小説どころか、全部の発行物絶版待ったなしだよ。)


『最近、新鮮な死体が回ってこなくて困っていた所だ。』


「まあ私800年前くらいからずっとそれ言ってますけどね。人間は殺すべしです。果物お代わりお願いします。」


(同調するなカス共っ…!死体に新鮮さを求めるな…!お野菜みたいに言いやがって…!リュウさんに関しては完全にフルーツバイキングに来て、ついでに雑談に興じてるノリじゃねえか…!)


 人間の作品を唯一の娯楽にしている彼女にとって、この流れはマズい。非常にマズい。

 何とかしてこの『人類絶滅ブーム』を遠ざけなければ、彼女の日々が単調でつまらんものに成り果ててしまう。


「調子づくとは?私達が目に掛けるだけの理由はあるのだろうな?」


「詳しくはお手元の資料を見て下さい。」


 彼女の牽制の言葉に魔女がパチンと指を鳴らすと、テーブルの上に全員分の資料が出現する。

 骨でページがめくれないであろう不死王の下に、骨に嵌める滑り止めまで出現させる気遣いよ。流石の大魔女である。その配慮を人間にも向けてくれ。


 資料を見ながら、ワルプルギスは口頭で説明を付け加えていく。


「大体330年前、神共が我らを殺すことを放棄し、我々を隔離したことはご存知だと思います。

 態々人間に敵対する種族を選りすぐり、そいつらを雑にすくい上げてこの世界に隔離した。」


「そんで30年前、『隔離』から丁度300年になった所で人界に女神が降臨したらしいんすよ。神々は330年前、隔離の後に戦争おっ始めて滅びたはずだったんですけどね。」


 ワルプルギスはページをめくりながら、淡々と概要を説明していく…が、ここでリュウカが挙手をして発言する。


「あ、話長くなりそうなので果実お代わりお願いします。まとめて30個くらい。」


「リュウさん、人の話はちゃんと聞こうね。我泣いちゃうぞ。」


「集中力を維持する為には糖分が必要なのです。」


 ため息をついたワルプルギスは、リュウカの脇にリンゴが無限になり続ける木を生やして話を続ける。


「んで女神は人界に住みつき、人間を魔界攻略にけしかけている。まあ魔界の超浅瀬ですけどね。最深部に辿り着くまで、何百年かかることやら…。」


 その言葉を聞いて、ナチャは思う。


(マッズーイ!神代の英雄レベルの奴が来たら、ワンチャン私殺されちゃう!というか一回殺られかけたし!)


 彼女は『隔離』前、うっかり巣に落ちてきた英雄に殺されかけた頃がある。それ以来外を歩くのが怖くなり、人界へのお使いもずっと眷属にやらせる始末。

 ぶっちゃけ人間とそれ以外に別けられた時、彼女は相当安堵していたのだ。


 そんな彼女の心情を知らず、ワルプルギスは言葉を続ける。


「この300年、面倒くさいからほっといたんですけど――――――」


 静寂が支配する中、ワルプルギスは一拍置くと目の眼光を強めながら言う。


「――――ぶっちゃけ、うざくないっすか?」


『分かりみ。』


「これは人類絶滅フェイズ来ましたね。とっととぶち殺しましょう。」


(理由軽ッ!沸点がそこらのチンピラレベル!)


 ナチャは目を瞑り、必死に突っ込みたい衝動を抑え続ける。何なら我慢しきれずに先程から身体がプルプルと震えている。

 

「そういうわけで人類をサクッと滅ぼそうかと。ナチャさん、納得できた?」


「…まあ、我々を追放した挙げ句更にこちらを攻めるというのは愚か極まりないな。大方、女神に唆されたんだろうが。」


 言い方を変えれば、人間達の行為は歴とした侵略行為。攻略とは、される側から見れば侵略でしか無いのだ。これは堂に入った理由立てであり、彼等の不興を買う理由としては相応しいが…。


「…あー、確かに。言われて見ればかなり無礼っすね。」


『人間がうざみすぎて忘れてたけど、確かにかなりアレだな。』


「うざさに愚かさが合わさって最悪に見える。汚いなやはり人間はきたない。」


(いや、お前ら気づいて無かったんかーい!)


 ナチャの発言に、今思い出したかの様に頷く他3体。彼女が苦し紛れに肯定した理由が、図らずも火に油を注ぐ結果に終わってしまった。裏目に出るとはこの事である。


 ワルプルギスは一息付くと、脇道に逸れかけた話題を軌道修正する。


「話を戻しますと、人間が魔界を攻めている。なので、逆にこちらから滅ぼしてやろうと考えた訳です。」


『面白くなってきたな…それで、単純に人界に攻め込むか?』


(いや面白くないわこのチート骸骨が。お前らは良いかもしれんが、こっちはワンチャン死ぬ危険性を孕んでるんだぞ。やるならお前らだけでやってくれ…!)


 余程英雄がトラウマになっているのか、心中で嘆くナチャ。いつの間にか人間滅亡を許容しているが、ここまで来ると己の保身に目的をすり替えざるを得ないのだ。


「しかし、単純に滅ぼすだけでは面白くないでしょう。出来レースの極みです。なので、『余興』として何か遊ぼうかと。」


(死にそうになる余興とかやってられるかこのカス…っ!ゲームは命の危険が無い安全圏でやるのが鉄則だろうがっ…!)


…とナチャは叫びたい所だが、威厳と命の為に必死に耐える。

 動揺を悟られぬよう、さりげなく両肘を卓上に乗せて、顔の前で両手を組むポーズを取るのは流石である。彼女曰く、『威厳のあるポーズ』らしい。


 ワルプルギスの発言に、不死王とリュウカも同調して発言を行う。


『確かに。リュウカは滅ぼすまでにどれ位かかると思う?』


「一日もあれば十分でしょう。一匹残らずとなると…大地ごと消し去るのが早いでしょうか。」


 そしてリュウカの答えを聞いた不死王が、骨にも関わらずドヤ顔で答える。


『余は半日だな。』


「は?本気出せば3時間でいけるんだが?何ならどこぞの骨っこごと砕いてやろうか?」


 不死王の答えを聞き、額に青筋を立てて煽るリュウカ。それを聞いた不死王は肩を竦める仕草をする。骨なので肩の上下がとても分かりやすい。


『おお怖い怖い。』


 恐ろしい問答が横から聞こえて来て、ナチャの内心はもうガクガクだ。しかも大言壮語では無く、実際に実行できるというのが恐ろしさを加速している。


(張り合うなっ…!人類滅亡RTAじゃねえんだぞ…!)


 そして何よりマズいのは、この問答の流れ。

 ナチャ当人としては、無論のこと外に出たくない。この際人類が滅びるのは仕方ないと割り切るにしても、命を危険に晒すのは避けたい。ずっと地下世界に引きこもって、貝の様に巣のDIYに励んでいたいというのが彼女の望みだ。


…しかし、不死王→リュウカと来れば、次は必然…!


『アトラはどうだ?』


「――ふっ…『30分』よ。」


(この流れだとこう言うしかないじゃないですかヤダー!)


 先程から無言で大物オーラを出しているものの、ナチャの服の内側と心の内は冷や汗でビッショリ。余りの危うさに思考回路はショート寸前である。


『流石3位は格が違った。』


「流石っすわ。」


(お前らおちょくってんのか。お前らは気づいてないかもしれんが、圧倒的に実力の差があると嫌味にしか聞こえねえんだよ。

 というか、今の流れだと――――)


「皆さん滅ぼす気満々のようで安心ですよ。でも30分じゃつまらんでしょう。もうちょい娯楽性が欲しい。」


(違ーーう!私はこんなクソ余興に乗るつもりはない!乗りたくない!)


 前門の人間、後門のラスボス。

 状況を整理すると、人間と闘うとワンチャン英雄に殺される。なので極力引きこもっていたいが、ここで変な動きをして実力がバレれば、今度はラスボス共に血祭りに上げられると、正に板挟み。

 身から出た錆な部分もあるが、彼女に取って受難という言葉が相応しい状況であった。


「なので、皆さんから楽しく人間を滅ぼす方法を募集しようかと。

 今日の所は一旦お開きにして、近々発表会といきましょうや。条件は『人間の面白い滅ぼし方』、一人一個で。」


(企業の企画発表会かよ…!何が悲しくて自分の命と娯楽を潰す企画を立てなあかんのじゃ。というかここで面倒くさいのが通ったら私の命が危険に晒されてしまう…!何ならチート共が暴れて終わりの方がまだマシっ…!)


『採用されたら?』


「報酬はその時考えましょう。競争形式だったらスタートが有利になるとか。」


「えー…正直めんどくさいです。私は人間滅ぼせたら何でも良いんですけど。」


 リュウカは、心底面倒くさそうな様子で発言する。人間に対する憎悪が激しい彼女にとって、やるからには直接的で最短の方法…即ち、『自分で人間を焼き尽くす』のが最善であった。


(いけリュウさん!その殺意の高さ、今は頼もしい…!)


 殺る気満々なリュウカの存在は、転じてナチャを救う福音となった。ナチャが命の危機を冒さずこの苦境を乗り切るには、チート勢のリュウカが全てを終わらすのが望ましい。そうすれば、ナチャは巣作りに専念できるという訳だ。


 しかしワルプルギスは、享楽に関しては抜け目のない性格であった。

 

「リュウさんが勝ったらお菓子用意しますよ。」


「やりましょう。皆さん、私よりつまらない企画持ってきて下さいね。」


(チョロすぎるっ…!チョロすぎるよリュウさん…!)


 余りにも早い変わり身。お菓子に釣られた彼女は、あろうことか一瞬で主張を覆した。先程まではジト目でワルプルギスを睨んでいたのに、お菓子の事を聞いた瞬間目を輝かせて頷いた。見事なまでの即堕ちである。


「それじゃ、今日はここまで。今回は『隔離』後初めての会議だったんですが、集まりがよくて良かったっすよ。来週くらいに招待状出すんで来て下さいね。では、お疲れ様でした。」


(今回が300年越しの会議で、次回は来週って不定期すぎるだろ。そこは後300年くらい寝かせてくれよ…。

 だが、まあ良い。できるだけ先延ばしかつ私に危害が及ばない案を考え、そして通せばこっちのモンよ…!)


「お疲れ。まあ、私の案に期待してなさい。」


『勝負事とくれば負ける訳にはいかないな。』


「お前ら私に勝たせろ。そしてお菓子をよこせ。」







「はい、皆さん一週間ぶりっすね。皆さんのプレゼン楽しみにしてますよ。

…あれ、ナチャさんいなくないっすか?」


『いないな。』


「来てないですね。」


 一週間後、同じく魔界の城にて。

 先週の宣言通り、『人類絶滅会議』第2弾が行われようとしていた。

 だが、その部屋にアトラクト=ナチャの姿は見えない。


『思いつかなくてバックレたか?』


「だとしたらお菓子が近付くんで良いですけどね。あ、ワルプルギス、ここに参加したので参加料の甘味下さい。」


「えー、でもなんだかんだでナチャさん真面目だからなあ。

 例によって次席の魔王さんと五位の吸血女王さんは連絡無いし。

…リュウさんは甘味で釣ると絶対来るから扱いが楽だぜ。ほい。」


 ワルプルギスが指を鳴らすと、リュウカの前に果物と飲み物が出現する。


「わーい。」


「…まあ仕方ねえ。始め――――」


「待て。」


 仕方なくワルプルギスが会議を始めようとすると、アトラクト=ナチャの声がそれを遮る。

 そして声と共に空間に穴が開き、白髪を靡かせて優雅に登場する。

 その立ち振る舞いは高貴さを感じさせるものであるが――――その目に出来たクマが全てを物語っていた。


「すまんなワルプルギス。少々遅刻した。」


「べ、別に良いっすよナチャさん。というか、どうしたんすかその目。めっちゃ目つき悪いっすよ。」


「何――――少々、本気を出していたのでな。」


 赤く充血した鋭い眼光で言い放つその様子は、明らかに寝不足。

 その様子はワルプルギスをしてドン引かせる程であった。

 そして、それを見たアトラクト=ナチャ以外の他3人は思う。


(((コイツ――――ガチだ…!)))


「…えーっと、じゃあ改めまして。『人類を面白く絶滅させる方法』について。取りあえず皆さんのプレゼンを聞いてから、最終的に話し合って決めましょうか。」


 いつものように目に影を作り、そこからギラリと紅い眼光を覗かせるワルプルギス。これはワルプルギスの真面目モードの合図である。


(な、何とか会議に間に合った…!ここ一週間本気で頭を使っていたせいか寝不足だ…!)


 ふらふらと自分の席に着き、いつもの如く『威厳のあるポーズ』を取るナチャ。一つ間違えば命の危機に晒されるだけあって、彼女は本気でプランを練っていたのだ。それこそ、一週間不眠に陥る程に。


(――――だが、このアトラクト=ナチャが本気を出すと決めた以上ッ!ここでの敗北はありえんッ!)


 と言う訳で自らの保身に全力な彼女は、ワルプルギスに大人げない提案をぶつけることにした。


「待て、順番はどうするつもりだ?」


「…え?普通に我から順にと思ってたんすけど…。」


「いや、それは公平ではない。何故なら、プレゼンにおいて有利なのは一番最後だからだ。」


「アッハイ。まあそっすね。」


 そう、プレゼンに置いて、一番有利なのは最後である。

 1番目だと他のプレゼンとの比較がしにくく、しかも最後の方になると印象が薄れてしまう。

 そして中途だと他の意見がまだ残っているため、『これにしよう』という意思は薄くなる。

 だが最後だと、意思決定に及ぼす影響が大きくしかも上記のデメリットが消え去る。


(――――つまりプレゼンは、()()()()()()()()()!)


「なので公平を期すために――――順番を()()()()()で決めようではないか。」


 ドン、と有無を言わせぬ迫力で言い放つナチャ。

 何千年のハッタリの経験、そして死に瀕した状況が、彼女に威圧感を自在に操ることを可能にした!


 彼女の運命を見る能力は、直後に起こることなら100%予知できる。『運命の糸』で分岐が見える彼女は、それを読み取ることで結果を予知できるのだ。即ち、絶対にじゃんけんで負けることはない…!


 当然、周りの3体もその事には気づいている。気づいているが…。


(いや、『運命を操る能力』って言ってるナチャさんが…)


(運ゲーを提案するとは…)


(公平さとは一体何だったのか。)


(((――――というか、ガチすぎて反論できねえ…。)))


(きっと私以外の3人はこう思っているだろう。大人げないとも分かっている。だが、今回の私は()()()()()()!命が懸かってるから!)


「ではいくぞ。勝った奴が自由に番号を決めていこう。じゃーんけーん…」


「「「『ほい。』」」」


「ふっ…私の勝ちだな。私が一番最後だ。」


(でしょうね。)

(だろうな。)

(大人げない…。)


 全くである。 







「では一番手、不死王さんどうぞ。」


『まずタイトルは、『UNDEAD HAZARD 』。』


(…ん?どっかで聞いたことがある名前だな…。)


 不死王がフリップをめくると、次のフリップには何やら緑色の死体と人間が描かれている。

 死体の方が人間に噛みついているようだ。


『まず感染力のあるアンデッドを作ります。』


(初手のハードルが地味に高い…。)


 というか不可能に近い。ナチャは辛うじて毒蜘蛛を眷属として使役できるが、ワルプルギスとリュウカは少々厳しいものがある。


『次に、其奴らを世界各地に放り投げます。』


 フリップをめくると、雑な世界地図に点がうってある絵が現れる。

 そしてさらにフリップをめくると、文字が現れる。


『するとあら不思議、一週間後くらいには――』


 再度フリップをめくるとそこには――――


『全人類が余の眷属に。』


(いや全然不思議じゃねーよ!というか思いっきり余の眷属って言っちゃったよね!)


 完全に『眷属を増やしたい』という意思が透けて見えるプランである。うざい存在を消し飛ばし、全てを楽に支配下に置けるということで、不死王に取っては一挙両得なプランであった。得をするのは主に不死王だけだが。


『日常が非日常に侵食される恐怖、そこで足掻く愚かな人類を笑おうというプランです。』


「なるほど…確実に人間同士は殺し合うでしょうね。流石不死王さん、中々良いプランっすよ。」


「中々悪くありませんね…。これだと私が参加できないですけど。」


(いや好感触かーい!いろいろとアカンでしょこれ!)


「――ですが、これだとオリジナリティが足りませんね。この分だと、私のプランの方が勝ちそうです。」


 一度は賛同したものの、そう自信満々で言い放つリュウカ。

 流石にパクリはまずい。このままでは削除対象になるところだった。





(さて、甘味につられたリュウさんは私の次にガチだろう。油断はできないな…。)


 不死王のプレゼンが終わり、次はリュウカの番だ。

 先程から準備万端といった様子で控えていたし、指摘も的を得ていた。

 これはナチャにとって強敵の予感である。


「では二番手、リュウさんどうぞ。」


「はい。まずタイトルは『HUMAN QUEST』。」


(オリジナリティどこいったーーー!いやガチだけれども!ゲームとしては王道でガチガチの選択だけれども!ドラゴンなアンタがそれ言っちゃダメでしょ!)


 ドヤ顔で発表するリュウカに、ナチャは思わず机に突っ伏しそうになるも、気を張って何とか耐える。


「まず適当な宝玉を何処かの首都に、雁字搦めにしたワルプルギスを適当な都市にぶち込みます。」


「我流れ弾喰らってない?」


「そして、私たちの中で最弱の眷属をここに召喚します。」(←聞いてない)


 リュウカが持っているフリップには、ドット絵にモンスターが並んでいる様子が描かれている。

 絵にめっちゃ力が入っている所から、頑張って作ったことが伺い知れる。

 解説に熱中してワルプルギスの抗議聞いてない所からも明らかである。お菓子が懸かっているので、彼女もガチ中のガチであった。


「そして眷属たちに120ゴールドを渡し、宝玉とついでにワルプルギスを助ける様に言うのです。」


「我おまけ扱いかよ。助けてくれたら我の愛をあげちゃうぞ♡」


『キモいぞ。』


「魔女の愛とか厄介極まりないだろ。むしろデバフでは?」


「おーおー非難轟轟だぜ。せっかくチート級の加護を授けようと思ったのに。」


 ワルプルギスがおいおいと泣き真似をするも、ナチャと不死王は白い目を向ける。不死王に関しては眼球が存在しないが。


「続けます。…後はまあ、人間たちを倒していくと力が増すように設定し、ギミックを仕掛けた上でどんどん強くなって貰うだけなんですけどね。」


 レベルアップの文字が書かれたフリップを掲げると、リュウカはそれをめくって次のフリップを前面に持ってくる。


「そして最後に女神を倒し、宝玉を手に入れて終わりです。

 最後に女神は言うでしょう。『もし私の味方になれば、世界の半分と言わず世界の全てをあげましょう』と。そしてそれを断ち切ってゲーム終了。」


「もしそこで味方になっちゃったらどうするんです?」


「は?世界ごと黒焦げになるまで焼き払いますけど。」


(裏ラスボスこっわ…。)


 もしも彼女の案が採用されれば、プレイヤーがラスボスという何とも恐ろしい構図の完成だ。

 リュウカは余程自信があるのか、ドヤ顔で『fin.』と書かれたフリップを前面に押し出す。


「コンセプトは『王道』です。これは勝ったでしょう。」


『余の方が殺し漏れ少なそうじゃない?』


「そこはほら、やりこみ要素ということで。レベルとか最大限まで上げたくなるでしょ。」


(そこやりこみ要素で良いのか…?)


「所々粗はありますけど、突き詰めれば面白くなりそうっすね。こちらも中々捨てがたい。…じゃあ、次は我っすね。」


 リュウカが発表を終えたのを見届けると、ワルプルギスが目を爛々と輝かせる。性悪で有名な彼女がどのような案を持ち出すのか、ナチャは内心で戦々恐々としていた。

 というかこのままだと会議が大喜利大会と化すので、そろそろ真面目な案が欲しいと思う次第だ。






「では三番手、ワルプルギスいきまーす。」


『さて、余の勝ちは揺るがんが聞いておこう。』


「いやいや私でしょう。」


(何であの二人は自信満々なんだ…。堂々と他人のアイディアパクッてきやがって…!)


 腕を組みながら頷く不死王と、勝ち誇った笑みを浮かべてお菓子を食べているリュウカ。会議を大喜利大会と化した天然共は互いに自信満々である。


「プラン名は、『追放された俺がチート能力を得てハーレムを作るまで』。」


『これは…。』


「ヤバそうなやつ来ましたね…。」


 プラン名を聞いた瞬間にドン引く二人。

 対してアトラクト=ナチャは――――


(―――ちょっと面白そうだな。)


 不覚にも、若干ワルプルギスのプランがナチャの琴線に触れてしまった。

 非常に不本意だが、内容を見てみたいと思ってしまった様だ。


「まず、適当な人間のオスを一人ピックアップします。」


 ぺらりとフリップをめくると、そこには男が死にかける絵が描いてある。

 

「良い感じにソイツの周囲を洗脳して、不遇な感じに扱います。元から迫害されてる奴選んでもいいっすね。」


 更にペらりとめくり、我々4人がその男に何かしている絵に移る。


「で、そいつが追放されて死にかけた所で、我々が登場です。それぞれ割と強めの加護をかけてやって、明らかにバランス崩壊のパワーを持たせます。」


()()()()力を手に入れた彼は、それがさも自分の力であるかの様にふるまい始めるでしょう。

 そんなに都合の良い話がある訳無いのになあ?」


 口を三日月の様にして、更に目を輝かせながら言葉を続けるワルプルギス。


「そして彼は、()()という大義名分を得て殺戮を始めるでしょう。ここらで適当にメスを洗脳してチョロくしておき、行く先々に配置するのがポイントです。」


「―――で、一度甘い蜜を吸っちまったらもう戻れねえ。復讐を求め、或いは軽い愛を求め、『自分は特別な存在なんだ』と思い込む。」


「ここまで来たらあとは簡単だ。ソイツは発情した雄犬、或いはブレーキが効かない暴走車両と化す。そこをちょちょいと唆して女神を殺させる、またはハーレムに加えさせる。」


「そして世界を手に入れたそいつを、最後に殺して終わり。どうすか?愚かな人間に相応しいプランでしょ。」


『そいつが力に溺れなかったら?』


「えー、ぶっちゃけあり得ないでしょそれ。人間ってのは林檎があったら喰っちまうモンなんすよ。…まあ、例外がいたら我らの負けっすね。大人しくソイツぶち殺して次選びます。」


(いや、怖すぎるだろそのプラン…。そういやコイツ魔女だったわ。いつもふざけたことと下ネタしか言わないからすっかり忘れていた。)


『些か悪趣味では?』


「例え策略と言えど、人間に力を与えるのは抵抗ありますね…。」


 ワルプルギスのプランに、二人は少々難色を示している様だ。

 悪趣味云々は不死王も言えた話ではないが、人間嫌いのリュウカにとって、人間に力を与えるのはハードルが高かった様だ。


(というか、良いじゃん弱者が夢見たって…!いや、私は支援するぞワルプルギス…!命かかってるから賛同できないけど!)


 この中で弱者の気持ちが分かるのはナチャだけである。都合の良い力万歳。主人公補正万歳だ。なぜなら、それらは今彼女が一番欲しいものだからだ。


「ちょっと魔女らしさを全面に押し出し過ぎましたかね?でもまあ、あの女神の狙いも似たようなモンだと思いますよ。300年経って急に現れたとか怪しすぎでしょ。」


「…じゃ、次は私だな。」


「はいどうぞ。」





「では最後、ナチャさんどうぞ。」


 白髪を靡かせ、優雅にアトラクト=ナチャが前に出ると、今までの賑やかな雰囲気から一転、周囲が静寂に包まれる。


 その静寂の理由は、聴衆である3人がそれぞれ次のような思考をしていたからである。


(さて、ガチに頑張ってくれたナチャさんですが、この大喜利大会と化した会場をどうするか…。

 というか我の案は出オチのつもりだったのに、他二人が最初っからオチかっさらっていったからな…。)


(アトラ、正直すまんかった。余以外は真面目に来るだろうと思っていたから、思いっきりネタに走ってしまった…。)


(さて、じゃんけんしてまで取った最後、真面目に聞かせて貰うとしましょうか。)


 ワルプルギスと不死王は完全アウェイなこの状況を作りだしてしまったことに心中で謝罪し、ド天然であの案を持ってきたリュウカは至極真面目に発表を聞こうとしていた。


 静謐な雰囲気が流れる室内で、真剣な表情のナチャはプラン名を発表する。


「プラン名は『英雄』。まず、現状の人界の状況を軽く解説する。」


 スチャ、と角張った黒縁眼鏡を装着し、いかにも出来る女オーラを放出するナチャ。

 そしてフリップをめくると、そこには中央にラインが引いてあり、左側が人界、右側が魔界の欄となっていた。


 そして人界の側には、以下のキーワードが描かれていた。

 『英雄偏重社会』と。


「現在人界では、魔界を攻略した人間を『英雄』として扱っている。

 『英雄』にランク付けをし、それを商品化して商人が儲けているようだ。」


『女神が人間の競争意欲を煽っているのだろうな。

 魔界攻略を推奨したい以上、英雄の立場を上げるのは有効な手立てだ。』


 ナチャの意見に同調するように不死王がフリップに文字を書く。

 王と名乗っているだけあって、指導者側の視点に立つのが長けているのも不死王の強みである。


「まあ、ここから『英雄』が人界において重要な位置にあることが分かるだろう。実際、上位の連中は住人からの人気も高いようだ。」


 続いてナチャは、右側の『魔界』と書かれた欄を指さす。

 そこには、『爆薬庫』と書かれていた。


「そして魔界は、人間にとって未知の宝庫。神代にて隔離された住人がそのまま息づき、古代の何もかもが残っている此処は、正に宝物庫と言える訳だ。各国が利権を争う程にな?」

 

 ここで言葉をいったん区切り、フリップをめくって次へ。

 そのフリップには、4人が一人の人間を鍛える図が描かれていた。


「そこで我々は一人の人間をピックアップし、『英雄』を作成する。我々の傀儡となる英雄を育て、然るべきタイミングで魔界から送り出すのだ。」


 この一見面倒に思える提案は、以下の意図によるものである。


(まずはコイツらの戦力を削ぐ。チート共がまともに動いたらその場で人類が滅ぶからな…。)


 英雄作成に目を向けさせることで、最大限に力を削がせ時間を稼ぐ。

 人間離れした能力を制限させるために、人材育成にリソースを削いで貰おうという打算だ。


「そして地盤を固め終わったら、その英雄を通して人民を扇動し、それ以外の国を煽る。その英雄に魔界の大部分を攻略させた上で、利権を放棄し無差別に国に譲る事でな。彼奴らは『英雄』を半ば妄信しているので、これは恐らく容易い。」


(――そして、人心に疎いこいつらが信用を稼ぐのは難しいはず。これで少なくとも時間は稼げる。)


 チート連中の、人間とかけ離れた感性を生かした条件付け。

 人間の機微を見抜く必要があり、タイミングを逸してくれればこのプランは失敗に終わる。そのまま有耶無耶になってくれれば、ナチャとしては御の字である。


「扇動して戦争を起こせば、後は万事が上手く運ぶ。何せ、人を殺すのに良い武器があるからな?」


「――なるほど。言いたいことが分かったぜナチャさん。

 ククク…面白いこと考えますね。」


 そこまで聞くと、ワルプルギスは先を察したのか声を抑えて笑い始める。

 それを見る二人は未だ意味が分からないのか、頭に疑問符を浮かべる。


 そんな二人に向け、ナチャは懇切丁寧に口頭で説明を付け加えていく。

 長年のハッタリで培った迫力と、ガチで詰めた計画。

 その2つの武器により、この場はアトラクト=ナチャのペースで支配されていた。


「現在の状況は、『女神が英雄に、魔界攻略を後押ししている』状況。

――――そして戦争が起これば、この状況ははどう推移すると思う?」


『なるほど。()()()()()()()()()()のか。』


「そうだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。『国が英雄に戦争を後押しする』状況への変化だ。これほど痛快なことはないだろう?」


 そこでナチャが抱えているフリップには、数多の屍の上で吠える英雄の図。

 それは味方側から見れば頼もしい絵図であるが、敵側から見れば地獄絵図そのものであった。


「まあ戦力の調製は難しいが、英雄間でも他国に買収される奴や裏切る奴が出てくるだろうし、最終的なバランスは五分五分になるだろう。どうだ、いい塩梅だろう?」


 Fin.と書いたフリップを倒し、渾身のドヤ顔をかますアトラクト=ナチャ。これが彼女が一週間徹夜で練った渾身のプラン。


 『それっぽい理屈が通り、かつ著しく難易度が高い』プランである。

 実際、こんなに上手く状況が推移する事などあり得ない。女神の妨害や、人間の中の知恵者がコレに勘づき止めに来る可能性もある。


 ()()()()()()()。そうなればこのチート共はやる気を無くし向こう1000年は人間と自分の安全が買える。つまりナチャにとってこの勝負は、『この場を口八丁で乗り切れるか否か』の勝負であった。


「若干我のプランに似てますね?」


「まあな。だが違うのは、我々は一切の洗脳や加護を付与しないという事だ。魔界を出た時に、女神にバレる可能性があるからな。」


「ふむ…マジで人間を鍛えるっつう訳ですか。さしもの我もやった事ねえな。」


『個人的には面白そうだと思うぞ。』


「…。」


(さて、頼むぞチート共…!この『絵に描いた餅』に騙されてくれ…!)




「さーて、一通り出揃いましたね。」


 一同が席に着くと、ワルプルギスがいつもの如く会議を再開させる。


「採用するプランですが、ぶっちゃけ話し合うまでも無いでしょうね。」


『そうだな。』


「ひっじょーに不本意ですけど、認めざるを得ないでしょう。」


 ワルプルギスが息を抜きながら発言すると、それに同調する二人の化け物。

 リュウカは死ぬほど残念そうな表情を浮かべているが。


(頼む、このプランが採用されれば後の動きが一気に楽になるんだ…!)


 表面上は平静を装い、手に汗握って結果を見守るナチャ。皆が大喜利でふざけている中、一人だけガチというアウェイという逆風を抜ければ、彼女の勝ちが見える。


 心臓をバクバクさせながら、ナチャはワルプルギスの次の一言を待つ。


「では、人類絶滅の手法は――――ナチャさんの『英雄』でいきましょう。」


「ふっ、当然だな。」


 自らの席で鼻を鳴らし、全てが想定内であるかの様な態度を表す。

 強キャラたるもの、常に冷静であれというのがナチャのイメージである。

 …だが、心中では。


(っしゃオラアーーーーー!キターーーーーー!)


 喜びの余り叫び散らしていた。

 この場に誰もいなければ、叫びながらぴょんぴょん飛び跳ねていただろう。

 一週間、必死で考えた案が報われた瞬間である。


「いやー、まさか人間の情勢まで考えた案を出すとは、マジでガチでしたね今回。」


『あそこまで努力を見せられては、認めない訳にはいかないだろう。』


「英雄を育てるのは死ぬほど嫌ですが、最終的に名誉を落とせるなら我慢できるというものです。」


(ハッタリ万歳!流石私!)


 外面ではクールを装っていたが、ナチャの内面はお祭り状態である。


 一通り決議を取った所で、ワルプルギスが最重要課題を提示する。さっきまでの弛緩した空気が若干張り詰め、真面目な雰囲気が周囲に流れ始める。


「じゃ、決行するのはこのプランとして…誰が主導で動きます?」


「あ、私は面倒なので嫌ですよ。鍛えるだけなら良いですけど、他はお断りします。」


 まずリュウカが一抜けで逃げる。賛同はしたが、極力人間には関わりたくないのであった。


「言い出しっぺの私が言うのも何だけど、私は巣作りに時間を割きたいから誰か頼むぞ。何なら報酬として『積極的に関わらない権利』をくれ。」


 次にナチャが抜ける。自分で言い出したこととは言え、彼女の最優先は自分の命と巣作り。関わらずに自分の安全が保障されるならそれが一番なのだ。


「え、じゃあ我も魔法の研究したいんですけど。」


 そしてワルプルギスが抜ける。魔法の探求第一な彼女に取って、関係ない所で時間を取られるのは最も避けたい事態であった。


 そして3人の視線がスケルトンに集中する。先程から無言を貫いていた彼は、そのまま置物の様に固まると―――


「おっと、死者の管理が残っていた。さらば!」


「「「いや、お前喋れたんかい!」」」


 ハキハキとした声で別れを告げると、ドロンと煙を出して消えた。都合が悪くなるとすぐ逃げるのも王の特権である。


 そして3人だけとなった会議室に静寂が訪れる。誰も発言しようとしないその会議は、ワルプルギスの言葉で終わりを告げる。


「…では、今回の六席会議は終了です。皆さん、300年後に会いましょう。」


「「お疲れっしたー。」」


 結局の所、責任ある立場に立ちたくないのは人間も旧支配者も同じだったと言うことだ。知性がある以上、面倒を嫌うのは是非もない事である。


(…めっちゃ時間無駄にしたな…。)


 散々悩まされたナチャは、真顔で巣に戻り巣作りを再開するのであった。

読了ありがとうございました。この小説が少しでも読者様の顔をニヤけさせる事が出来たなら、評価もよろしくお願いします。

ある程度反響があったら連載で続編製作するかもしれません。もし続きが読みたいと思って下さったなら、是非感想の方で伝えて下さいませ。

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