黒板の前で「俺と付き合ってもいいって人、挙手!!」と叫んだ結果、二次創作が生まれた。
あらすじでも説明致しましたが、この作品は燦々SUN様作『黒板の前で「俺と付き合ってもいいって人、挙手!!」と叫んだ結果』
N3135GI
及び『黒板の前で「俺と付き合ってもいいって人、挙手!!」と叫んだ結果、なんか抗争始まった』
N5311GI
の二次創作となります。
本家様の作品が未読ですと、理解出来ない内容となっております。
夏は日が長い。とは言っても、午後七時前ともなると、流石に影は伸び、世界は赤く染まり行き、遂には夜の帳が下りるのは自然の道理。
学び舎に残る生徒の大半は運動部の生徒。
特に太陽の滞在時間が長いのを、これ幸いと活動に励む屋外スポーツの部員は、この季節は帰りが遅くなると喜んだり、嘆いたり様々で。
さて我が身を振り返ってみると、別に体育会系の所属でも無ければ、その素質も持ち合わせては居ない。
ならば、何故こんな時間まで学校に残っているのか。
簡単に理由を説明すると、本日、うちのクラスに天使にしてお姫様な奇跡の存在が舞い降りまして。
その所為でクラスメイト達が良くも悪くも盛り上がってしまい。
どちらかと言えば、友人の暴走を宥めるのに時間を浪費してしまった、というワケで。
「帰りたい⋯⋯」
私のクラスでは、教室に一人佇む男子が最大の犠牲者なのは、疑いようの無い事実で。
「はぁ⋯⋯。岡島君、私の自転車貸してあげるよ?君の自転車と違って電動じゃ無いし、小さく感じちゃうだろうけど、ね」
「⋯⋯え?」
私の言葉に彼の目に光が灯る。
それまでは、時折スマホを確認する以外は何も映さない瞳。もしくは見えてはいけないナニかを見てしまっている眼。
明らかに虚ろ。
こんな矛盾してる?してないかな?って言葉が妙にしっくりくる惨状だった。
「え、でも藤原は」
「私なら大丈夫。電車で一駅分だし、つつじも、そろそろ部活終わるだろうから一緒に帰るよ」
「あ、そっか。藤原妹ってテニス部だったか。でも良いのか?」
「少なくとも岡島君よりはマシだからね。今から歩いて帰ったら、かなり遅いでしょ?それに、明日の朝が地獄よ?」
そこまで考えていなかったのか、それとも敢えて思いを巡らせようとしなかったのか。
明朝の話をすると、露骨に顔を歪める。
「悪ぃ、正直助かる。ありがとう。それにしても藤原⋯⋯すみれの方は優しいよな。双子だってのに大違いだよな。素材は同じなのに、デザインが全然違うよな」
「あー、岡島君、いつも感じるけど、その言い方は失礼だからね?それに、確かに私はインドア派で、つつじはアウトドア派だし、外見も髪の色からして違うけど。やっぱり双子だなあ、って部分はあるんだからね?」
「まあ、それはそっか。すまん、悪かった。で、どんなトコが似てるんだ?」
「好みの異性のタイプとか、かな?」
そう答えると、私は軽く微笑みを浮かべた。
「何か、大変だったみたいじゃん?すみれのクラス。そっちのクラスの部員に聞いたけどさ」
「うん、まあね。大体はつつじも聞いたのかな?」
あの後、岡島君に自転車を貸し、双子の妹であるつつじと合流。一緒に徒歩で帰宅。
閉店間際の独特の喧騒に満ちる商店街を通り、叩き売りの声をBGMに、姉妹の話題は当然ながら潮田一家。
妹は自転車を押しながらも晴れやかな笑顔で、興味の深さを主張している。
その動作と、茶色がかったポニーテールが活発さをより強く感じさせる。健康的な、爽やかな色気とでも言おうか。人好きしそうな雰囲気を醸し出している。
それに比べて姉は、黒髪でロング。ある意味面白味が無い。其処からイメージされる様に線の細い不健康な外見。
良く言えば嫋やか。悪く言ってしまえば貧相だ。
これでも、髪には多少自信はあるのだけれど、ね。
「それでも、お姉ちゃんの口からも聞きたい!」
「はあ⋯⋯おねだりする時はお姉ちゃん、なんだからなあ」
まあ、話すけれどね。のんびり一駅分歩くのだから時間もあるし。
「そうね、そもそもの始まりは⋯⋯」
その日は私が日直だった。
前の授業が割と早く終わり、担当教師も教室から出て行ったので気合いを入れて黒板を綺麗にした。休み時間が始まるまで時間を掛けて、丁寧に。
黒板はその名前とは違い、実際は緑色だ。
青信号、銀幕と並べて三大色詐欺とか呼んで良いくらいだ。
まあ、その罪はいずれ償ってもらうとして。
実際には緑色である黒板も、綺麗にすれば黒光りしている様に見えなくもない。
緑の黒髪、とはこういう意味合いか、とか間違っているのは知りつつも一人で感動してしまう。
ちなみに、みどりの黒髪と表記する。瑞々しい、という意味になる。決して色の緑では無い、と現国教師に教わった。
そんな無駄な感動に浸っていると、突然叫び声が聞こえ、男子生徒が黒板の前まで走って来た。
「この中で俺と付き合ってもいいって人、挙手!!」
勢い良く、少々勢いが良すぎる程に手を綺麗に突き上げながら、クラスを見回した。
あ、これ勢いが良いんじゃない。勢いしか無いんだ。
改めて男子生徒を確認すると、クラスの三バカの一人、潮田君だわ。
まあ、うちの三バカはそれぞれ持ち味が違うのが特徴だ。お調子者だし、ノリで生きてるし、馬鹿だけど。
潮田君は実は真面目な努力家。川上君は気遣いが上手で、しかも人に気取らせない。岡島君は気取り屋だけど、自己犠牲的な優しさを持っている。
それぞれ人気が高い。彼らにとって残念なのは、それが恋愛的な意味では無い事か。
まあ、基本善人だし、人当たりも良いので、キッカケさえ有れば、かな。
「そうか! ありがとう!!」
私が思考の海を泳いでいる間に終わったらしい。
教室を見渡せば手が三本上がっている。
⋯⋯キッカケ、あったかもね。
不自然な沈黙の中、潮田君は自分の席に戻って行った。
「意外とイケたぜ」
「「いやいや待て待て!!」」
うん、やけに三バカの声が響く。
廊下や隣の教室の喧騒が信じられないくらい遠い。
皆が三バカ達の会話に耳をそばだてているのが伝わる。異様な緊張感が空間を支配するのがはっきりと理解出来る。
クラスメイト達が気になるのは当然だ。
恐らくはネタだった暴挙が、蛮行が。
一転、英雄的行動、快挙に入れ替わってしまったのだから。
果たして彼は誰を選ぶのか。
そんな息が詰まる状況で、彼は動いた。
「俺と付き合ってもいいって人、挙手!!」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯
⋯⋯⋯⋯⋯⋯
⋯⋯静寂。
今までとは明らかに質の違う静けさが、教室内に蔓延した。
「⋯⋯そうか」
岡島君だった。
この重苦しい沈黙の中で、あんな行動。
正しく英雄的行動だ。
結果だけを見れば蛮行だけれども。
でも、あの居た堪れない空気を壊してくれたのは正直助かった。気のせいなのは解っているけど、呼吸するのすら苦しく感じていたから。
今は本人の状況が居た堪れない事になってるけど。
あ、顔にティッシュ乗せて無になってる。これで逃げ出さないんだから、岡島君は凄く強いと思う。私なら無理だ。色々な想いを込めて合掌しておこう。
「ちょっと、さっき手を上げた3人集合」
「それで⋯⋯」
「で? 誰と付き合うの?」
その後も話はどんどん進んでいく。潮田君だけなら確実に遅延行為に終始しただろう。今だって窓の外を見ているくらいだ。誰が原因だと思っているのやら。
あ。でも飛行機雲が、凄く良く見えるなあ。この問題も、あれくらいはっきり解決すれば良いのに。
実際に話を纏め、進めているのは川上君だ。無理矢理では無く、なるべく穏当に話を聞いている。
潮田君には厳しいけど、そうでもしないと逃げちゃうからだろうね。
岡島君は屍になってるから、自分がやらなければ、という責任感が見え隠れしている。悪ノリや嫉妬みたいな感情も見え隠れしちゃってるけど、仕方がないかな。
友人である潮田君の為、でもあるんだろうしね。それくらいの負の感情は許されるべきだ。
「ごめん。俺、今誰とも付き合うつもりない」
「「はああぁぁぁーーー!!??」」
「ちょっ、おま、お前ぇぇーーー!!」
「なんでだよ!! 彼女欲しいって言ってただろうがぁ!!」
「あははははは!」
此処まで話すと、つつじは大爆笑した。天下の往来ではしたない。まあ、立場が逆なら私も笑ったかもしれないけど。
顔のパーツが同じ妹は、目に涙まで浮かべている。まるで自分を見ている様な錯覚。これが嫌で見た目から何から変えたんだけどね、お互い。
「で、今日潮田君の妹さんが学校に来て、大混乱よ。まるで終末の到来ね」
「山本ちゃんの子供なんだってねー。潮田君、義理の母に義理の妹かあ。捗るなあ」
「何が捗るのよ、全く⋯⋯。でも、彼の平穏な日常は破壊されたわよね」
「まあ、実際に妹ちゃんを見てないから、そっちは何も言えないけどさ、山本ちゃんと親子ってだけでお腹いっぱいかな。血の繋がらない母親が教師とか、ハッピーなレッスンよね」
「そうね。それで更に妹さんがお姫様だったからね。クラスは最終戦争突入よ」
神々と怪物たちの争い。
誰が神で、誰が怪物なのかは考えない方が良い気がしている。
外野から言わせてもらえば、全員怪物の類だし。
「わあ、ラグナロクぅ。それじゃ、潮田君、川上君、岡島君の三馬鹿は到来を告げる三羽の雄鶏だね」
「明日から三羽烏って呼ぶわ」
「雄鶏から烏になった!?」
「まあ、色々あってクラスでの潮田君の人気は爆上げよ。妹さん目当て含めてね」
「でもさあ、潮田君と付き合って良いって三人挙手したけど、あくまでクラス内だよね。うちのクラスにだって潮田君狙いの娘居るし、クラス内にも挙手出来なかった人が居てもおかしくないよね?」
「あ⋯⋯」
それは考えていなかった。
意外な伏兵が存在している可能性もあるのだ。
これは⋯⋯間違い無く荒れる。
「ま、山本ちゃんがフォローしてくれそうだけどね。可愛い子供達の事だから」
「そうだと良いけどね」
「学校だけじゃなく、プライベートでのサポートって、先生じゃ普通出来ないし。不幸中の幸いじゃない?」
つつじは屈託無く笑っているが、私は見てしまったのだ。
山本先生の、笑みを。
絶対に楽しんでいた。
あらあら、うふふ。みたいな笑顔じゃ無い。
へえ⋯⋯。みたいな顔の歪め方だった。
双子の妹が浮かべているモノとは対極の。
引っ掻き回して楽しもう、という表情だ。
「北欧神話で言えば、山本ちゃんはどの神様になるのかなあ?人格者って居たかな?」
絶対にロキです。しかもトリックスターの解釈の方。
「明日から学校行きたく無いなあ⋯⋯」
「お姉ちゃんはどうするの?」
「私?困った事に、日頼が暴走してるからね。一応は友人として協力しつつ、目を覚まさせないとなあ⋯⋯」
「あー、南野さんと仲良いもんね、お姉ちゃん。でも大変だと思うな。恋する乙女は一途だからね」
「それは自分達を見れば解るわよ」
「あはは。本当にね。別に私は二人纏めてでも構わないよ?」
「私が嫌なのよ。最終手段としては考えてるけど、ね」
私も覚悟を決めなければならないのかもしれない。
きっと今回の一件から、クラスの恋愛事情は一気に動いていくだろうから。
「絶対に川上君を落とそうね?」
「下校中に言う台詞じゃないわよ⋯⋯」
手段は、選ばない。
「いや、まさか藤原姉妹が俺をなあ。ふふ、そうだよな、潮田がモテるんだから、俺がモテてもおかしくないよな。いや、当然だよな」
借り物の自転車で必死で山を登りながら、しかし彼は幸せだった。
本当に、本当に束の間の幸せに彼は包まれていた。
燦々SUN様、本当にありがとうございました!
この様な拙作になってしまった事のお詫びと共に感謝申し上げます。
凄く楽しかったです!
自分程度の文章力でも何とか書けました。
つまり、これを読んでいる貴方だって、いや、貴方ならもっと面白い作品が書けるのです!
と、更なる俺挙手ワールドの広がりを期待しています。