商店街プロレスの日常-2
そんなメンバーの中、器用な48歳の平野は体力が弱ってきていたメンバーなどに気を付けて、怪我をしないように、見栄えがするように、試合をしていた。
平野の”おもてなし”と言われる綺麗で衝撃が少なくそれでもフォールをとれるジャーマンはこういった環境からも生まれたものでもある。
逆に、平野は衝撃を与える為のジャーマンが打てなくなっている。
また、平野のジャーマンは受ける側からすると気持ちがいいらしい。
体が浮く瞬間のふわっと浮く感じ、最高地点に達してからの長い耐空時間。
ゆっくりとした落下スピード、そして衝撃の少ない着地。
そして、なにより平野が投げるという安心感。
まれに、ジャーマンを食らった選手が、その気持ち良さに肩を上げるのを忘れ3カウント入ってしまう時もある。
本当かどうかはわからないが、わざと技を食らう選手もいるという。
そんな平野はカオス部門では信用が厚く、みんな平野を頼りにしていた。
先述のように、カオス部門はそこそこ人気が高くそれを支える平野は正に商店街プロレスに大貢献をしている人である事は間違いなかった。
それでも、カオス部門の選手にはタイトルマッチの試合を組まれる事は無かった。
一度平野のベルト挑戦の声があがり社長に潰された時、せめてカオス部門内の
タイトル試合を作り、平野をメインに派手な入場パフォーマンスをし 平野を主役とした試合を提案したがこれも結局社長に乾布無きまでに叩き潰された。
平野に対する社長の態度に不満はあったが、みなこの団体で生活をしている為徹底抗戦にまで行く事は出来なかった。
そんな状況もあり、平野本人は悶々としていた。
衰える体力とは反対にどんな形でもベルトをかけた試合で1対1の試合でメインを張りたい好きな入場曲で入場したいという希望は募るばかりだった。
最近こんな事があった。
ベルトをかけた試合のマッチメイクを1試合組む事を条件に引き抜きを持ちかけられた事があった。
花形のレスラーではないので、移籍による提示額は決して高くない。
引き抜きを仕掛けた団体は、その調整能力で主に後輩の指導、引き立て役としての力をかっていた。
ただ、歳が歳であり新しい環境への変化を嫌った事、カオス部門の運営のかなめの自分がいなくなる事によるメンバーへの配慮、そして成長を見守る事が楽しい若井との交流。
決して生活が楽ではない48歳の枯れかけたレスラーには決断できなかった。
思いきれなかった時には我ながら情けなく、自分のベルトをかけた試合をしたいというのはそれまでの思いなのか・・と自分に自信も失った。
そんなこんなもありなが、今日もトレーニングをしてリングにあがり、淡々と試合をこなす。
そして、淡々と日常は過ぎていく・・・。