商店街プロレス ワサビの嘆き
平野は仕事として真面目にプロレスをしてきた。
もちろんそれは生活の糧ではあるが、自分の夢を叶えた結果でもある。
高校・大学とアマレスに打ち込みそこそこの成績は残していたが競争の激しいプロスポーツの世界で生きて行くには優しすぎた。
そして勝負弱かった。
プロレスへの憧れはあったが、大手プロレス団体の入団テストはことごとく落ち大学卒業後就職活動を始めたがしっくりこなかった。
その為稼業の八百屋を一度ついだのだが諦めきれず大学卒業後の2年後プロレス団体、商店街プロレスの門を叩いた形だ。
当然八百屋の世界も甘くなく、商店街とは言えスーパーなどが乱立する食品業界ではやっていくのは厳しく、家族からは将来の生活を考えて八百屋を継ぐよう反対されたがプロレスをやりたい一心で両親を説得し参加を決めた。
プロレス参戦は一度家族で大揉めに揉めて決めた結果、そんな中で彼が必死にやって来た事もあり両親もむやみに引退をしろとは言わなかった。
今は、思った以上には団体が大きくなり若い有望株も現れ、自分に大きなタイトルマッチの試合のチャンスも年々減っている。
志半ばだが引退も頭をよぎる。
彼ももう48歳諦め方、心の整理の付け方もそこそこわきまえていたし、慣れてもいた。
そんな状況下2~3年前、仲間のレスラーや他団体の協力もあり、いつ引退してもおかしくない彼の為に一度ベルトをかけた試合をせめて団体内で組もうと団結して話を進めた事がある。
しかし、社長はそれをかぎつけ全てを白紙にした。
社長は自己顕示欲が強く強いヒエラルキーを持っていた、人の格を勝手に位置づけ自分を頂点として自分が格の無いやつ花の無いやつと決めた人間は徹底的に下の人間と決めつけ扱っていた。
それは実績や会社への貢献度に関係なく。
故、本来社長がやらなければならない交渉事や、イベント管理等目立たない地味な事はすべて平野にやらせても当たりまえと思っている。
逆に、社長が格がある、花があると認め若い人間が、格下として先輩レスラーを扱う事、ふてぶてしい態度をする若手を、大物と称し、たくましいと目を細め野放しにしていた。
社長は平野を見た時花のない、地味なレスラーでスターでは無いと判断。
負けてこそ彼の似合う場所とし、一切のベルトをかけるチャンスを与えなかった。
万が一、格の無いレスラーが勝ってしまったら秩序が乱れる・・と思っていた。
平野にしてみれば、格の違いで育てるのはいいが、実力を見ろと言いたかった。
格があっても実力がないのであれば意味がない。
ちゃんと実力で判断してもらいたかった。
ようは実力があっても格が無ければ、社長は認めず実績など無くとも格のある格好がよければ、社長はそのメンバーを持ち上げ重宝した。
そんなところは全くやるせなかった。
しかし平野は、一度諦めたプロレスラーの夢を商店街プロレスに入れて貰った事で叶えた形になるので
自分が入団した時の先代社長を恩に感じ、今まで二代目社長に従順に黙ってついてきていた。
そんなことで、社長は平野の事を人望の厚いカリスマ性のある自分(社長)に喜んでついてきていると勝手に思っており、平野の沸々と湧き上がる気持ちを全く理解をしていなかった。
業を煮やした平野が40歳頃から社長にベルトをかけたタイトルマッチをさせてくれと申し出る
事はあったが口のうまい社長は高圧的に彼を否定し黙らせていた。
そんな状況は周りのレスラーも知っていた。
よく平野はそんなに耐えられるもんだと思っていた。
ただ、社長の迫力で正しくない事も従わせる迫力だけはあっため誰も逆らう事をしなかった。
そういう微妙なバランスで商店街プロレスは成り立っていた・・。