ゲームスタート
ここ最近の科学の進歩はかなりの速度で進化を繰り返している。
その副産物であるフルダイブ式のゲームが現れた。
これはそのブームに乗って作られたVRMMO内での話である。
ここ数年の間にいくつかのゲームが作られては問題が起きて消えたりしている。
そんな危険な業界も法が制定されてほぼ安全になった。
だから、黒月明音であるプレイヤーネーム《クロネ》もゲームに参加することにした。
2年前に問題が起きて一時は終了の危機になったデーモンライフオンラインをする。
この通称DLOは夜が明けない世界で天使や神といった聖なるものを倒すのが目的になっている。
ここでまずは大暴れしてやる。
「手初めてに派手な挨拶に行きますか」
ゲームのアバターを黒髪ツインテールの悪魔にして地獄に降り立った私はそう言った。
登場してすぐにそう言ったので周りにいたプレイヤー達に目をつけられた。
このゲームは血気盛んな奴しか居ないので、目をつけられるというのは敵として見られるという意味になる。
「そこの嬢ちゃん。初めてすぐに大それたことをしようとしてるんじゃねぇよな?」
大きな体のオーガのプレイヤーは私の発言が気に入らなかったらしい。
「気に障ったなら謝ろう。でも、私に殴りかかるのはオススメしない。最初っから強く設定されてるから」
「あぁん!てめぇ、舐めてんな!」
私は人付き合いが得意じゃない。
そのせいで今回は大男を怒らせてしまったらしい。
まぁ、殴られても問題ないんだけどね。
「舐めてたら何だと言うんだ?」
そう言うと彼はキレて拳を握ると近づいて思いっきり力を入れて殴ってきた。
それを見て私はニヤリと笑った。
そして、そのまま一撃をくらっててあげた。
「アハハハハハ!殴った!こいつ殴ったよ!」
殴られた私は顔を伏せて笑いながらそう言った。
それからみんなを驚かせるために無傷の顔を上げて見せてやった。
その時の全プレイヤーの驚いた顔は本当に笑える。
「な、なんだこれ」
私の方にみんなが集中してると、彼はそう呟いて倒れた。
今度はそっちに驚いてみんなもあいつを見た。
その頬はひどく腫れていた。
それはまるで大男にでも殴られたかのようになっている。
「私を殴るからそうなるんだ。当たりを引いた私は強いぞ」
倒れた男に私はカッコつけて大きな黒い羽を開いてそう言った。
その時から危険なゲームの中でも私は警戒対象として見られるようになった。
まぁ、そんなに派手じゃなかったけど、目立つように挨拶できたのは最強を目指す私にとって最高なことだ。
そのあと騒ぎが大きくなってきたので空を飛んで地獄の入り口から離れた。
そこから少し飛んで地獄の5丁目に私は着陸した。
それと同時に第八回イベントの通知が来た。
「なになに、第30層到達記念に六道の力と称号のゲットのチャンス。これからランダムに選ばれたプレイ中のプレイヤーに送られます。へぇ、すごそうじゃん」
私が画面を眺めてそうしてると、右手の甲に黒い光が出るのが見えた。
驚いて画面を閉じてすぐにそれを見るとそこには修羅の字が書かれていた。
「まさか、現在プレイ中の10万人の中で私が選ばれたの?ちょっとこれはやばくない?」
このゲームを動かす鍵になりかねない力をポッと出の悪魔が手にしてしまった。
ここから無双伝説が始まることは言わなくても分かるだろう。
この力がどれだけ素晴らしいのか。
試すために初期装備で第二層に続く階段がある町外れのダンジョンに突撃した。
「このゲームは第一層をクリアするのに三日かかったという。なら、初めて2時間でクリアしてやる」
最強という称号しか目に入らない私は最初の目標を設定して先を急いだ。
途中でプレイヤーと聖なる敵がいたが、どちらも修羅と開始時に手に入れた力で蹴散らした。
そして、そのまま奥のボスを目指した。
「邪魔者は許さないよ!」
そんな調子で突き進むとすぐのボス部屋にたどり着いた。
そこには神々しい天使が挑戦者を待っていた。
「早いな。侵入からここまで1時間ほどとは」
敵の天使でもこんな相手には会うのが初めてのようだ。
そのせいですごく驚いた顔をしている。
「急いで奥に行きたいからさっさとやろう。無駄話は貴重な時間を浪費するだけだから」
私がガチの殺気を向けながらそう言うと天使は静かに笑って言った。
「そうだね。僕は他の敵を倒す仕事もあるから早速始めよう」
子供っぽい男の天使がそう言うと戦闘が始まった。
あっちから攻めてきていきなり殴ってきた。
しかも高速で12発も入れてきた。
「女だからって手加減しないよ!」
「手加減無しじゃないと楽しくない!素早く最強を目指す私に弱い敵はいらない!」
拳でやり合いながら会話をする。
戦闘狂には珍しくもない光景でも久しぶりの強敵でワクワクしている。
「てか、いい攻撃だけど私に軽い攻撃はやめた方がいい。返ってくるから」
殴られ続ける中でニヤリと笑ってそう言った。
すると、相手の手が止まった。
しばらくして彼は倒れそうになりながら後ろに吹き飛ばされた。
そのまま壁にたたきつけられた。
「これが《ダメージ返し》だよ。私が得た物でやられた攻撃をそのまま返せる力。同じ相手に1日に1回しか返せない弱点があるけどある程度たまればすぐに敵を倒せる。弱点なんて無いに等しい」
すぐに返して相手を吹き飛ばせて嬉しそうな私はどやって説明してやった。
それが終わるのと同時くらいに天使ががれきから汚れた姿で出てきた。
チュドーンといい音をさせて。
「なるほど、そりゃ余裕があるわけだ。これには本気を出すしかないな」
首をこきこき鳴らしてそう言う姿から私は勘付いて抑えられたことに気づいた。
そこからやばいという演技を始めた。
カウンターがなくても私には修羅の強化があるけど、近づいてくれないとそれは当たらない。
だからだまして近づけさせる。
「これでやられないとはね。手が減ったのはまずいな。でも、やってやるよ」
うまく演技をしてるつもりで距離を詰められるような立ち居振る舞いをした。
それに天使はまんまとはまって手に魔力を込めて飛んで攻めて来た。
「このガキが!光に飲まれて消えろ!」
私めがけて強者が飛んでくる。
嬉しいね。本気で暴れられるとリアルを忘れられる。
「修羅の道は戦いの道。傷を負うことに恐怖など無い。殴り勝つのは私だ!」
「ガキが調子に乗るな!」
ここで決着がつく。
私の黒いオーラを纏った拳と、天使の光を纏った拳のぶつかり合い。
突っ込んでくる天使に対して私は動かずに至近距離に来たところでカウンターを入れた。
その一撃は天使の肩を砕いて、猪突猛進の天使をいなして終わらせた。
今度はボス部屋の扉に激突して彼の動きが止まった。
体力ゲージが残りわずかになったところで彼は動くことをやめて私を認めた。
「行けよ。僕は止めないからさ」
こんな強い奴、私が気に入らないわけがない。
だから、倒れる彼に近づいて言ってやった。
「天使、私と一緒に来るか?」
「はっ?なんで天使の僕を誘う?」
「強い奴には目がなくてね。リアルではこんな風に仲間を作ってもしばらくすればみんな居なくなるから」
彼を誘う時、何故か私は過去のことを話してしまった。
もしかしたら天使にはそういうスキルがあるのかもしれないが、こういうことを話して正解だったかもしれない。
だって、彼は悲しそうな顔をする私に同情してハグしてくれたから。
「そんなに強ければ何かしらあるだろうさ。強い君の苦労話を聞かせてくれるならついて行ってやるよ」
「あぁ、存分に聞かせてやるよ!」
私は涙をうっすらと浮かべた笑顔を彼に向けてあげた。
すると、彼は微笑み返してくれてから扉の方を向いた。
そして、ボス部屋の扉を自分の力で破壊して、ついでに階段の扉も解放した。
「おめでとう。これが最高の結果だ。敵に完全に認められた時、二度とボスの僕達と戦う必要はなくなる。これがこのゲームのパーフェクトクリアだ」
こうして彼は自分を完全に私の物にさせた。
その時、このゲーム初のパーフェクトクリアボーナスで堕天シリーズの装備が送られた。
これで確信した。このゲームで私は最強になれると。
「ありがとう。ここからが伝説の始まりにできるようになった。さぁ、異常なプレイでクリアを目指すぞ」
そう言うと私は堕天の黒くて美しい装備を身につけて階段を目指した。
負傷する天使ネルエルに肩を貸しながらゆっくりと上を目指す。
その後ろに数人のプレイヤーの気配を感じたが、彼らが上がってくる気配はなかった。
振り返ってみると最初のパーフェクトクリア達成者に敬意を払って跪いて見送っていた。
それに悪い気がしないまま私はネルエルと最初の一歩を踏み出して第二層に入った。
ここから無双悪魔の伝説が大きくなる。