シロとゆき。
夏斗が帰った後、ゆきはかまくらの中でぼんやり呟いた。
「……あっという間だったな。次は雪合戦とかやってみたいな」
そうだ。雪合戦で勝ったら、何か一つお願いごとを聞いてもらおうかなあ?
ふふふっと笑ったその時、なにかの気配を感じた。
ゆきはすっと呼吸を整えて静かな目で辺りを見渡した。この気配は……
「シロ。そこに隠れていないで出ておいでよ」
視線の先には落葉松の木が数本生えていた。その中の1本を見つめていると、悔しそうな声を出しながら、一匹の日本狐が姿を表した。
「ちぇ〜、せっかく上手く隠れていたと思ったのに」
可愛い見た目とは裏腹に彼はかなりずる賢いのだ。
「あ~あ、なんだよアイツ。ゆきに気安く近づいちゃってさ。餌付けでゆきの心を掴もうってのが目に見えちゃって、いやぁな感じだあ」
「それを言うなら、コソコソ隠れて見ていたシロだってヤな奴だよ」
「お、おいらはただ心配で見てただけだっての……ったく」
ダンダンッと前足で地面を踏んでいた。
シロは昔からの友達で、200年くらい一緒にいる存在だ。200年くらいっていうのは実際には長過ぎて、その数を数えるのを忘れてしまったからそう言っている。
シロは心配性だからか何度も何度も転生を繰り返して、私の側にやってくる。今の姿は日本狐だけどその前は熊だった。
「なぁなぁ。あいつはお前のことが好きみたいに見えるけど、どんな奴かもわからないんだろ?そんなやつと一緒に遊んでるのはどうかと思うぞ?それにあいつら人間は……」
「わかってるよ。勝手に山を崩して私たちの居場所を奪っていく……そうでしょう?」
耳が痛くなるほど聞かされてきたセリフ。
昔は仲良くしてた人間と妖の記憶が蘇って、目頭がジワッと熱くなった。
「でもね。夏斗さんはそんな酷い人じゃないと思うんだよ。シロにとっては納得いかないと思うけど」
シロの頭をそっと撫でた。冬毛の狐は思っていたよりふわふわしていた。
数秒悩んだように首を傾げていたシロだが、勢い良くかまくらの頂上まで駆け上がった。
そして、てっぺんから私を見下ろして勝負を挑むかのように叫んだ。
「じゃあゆきと賭けをしよう!おいらが夏斗って奴に近づいて酷いことをされたら、今後一切ゆきには関わらせないっ!それで、もしもアイツがゆきに関わろうと近づいてきたら、その時は食い殺してやるってのは、どうだよ?」
「それじゃあ、私の勝ちってなによー!」
意地悪っぽくシロが笑った。雪山の頂上からビューンっと飛び降りて華麗に着地する。
「おいらが3日間怪我をしたかわいそうな狐を演じて、あいつのそばに行く。その3日間で酷い目に合わなかったらゆきの勝ちだ」
ふーんといって私は腕を組んだ。
(シロの事だから一度行ったことはねじ曲げないだろうし、ここはひとまずのってあげようかな……)
「人は本性表すまで数日はかかるから待ってあげてもいいけど、それで私が勝ったら今後は一切口出しさせないからね」
「おうよっ!もちろんいーぜー!」
シロのしっぽが嬉しそうに、まるで勝負に勝つのが決まったかのように揺れていた。