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異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず) 〜再生魔法使いのゆるふわ人材派遣生活〜  作者: 岸若まみず


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第23話 軍人の おねいさんから 誘いだゾ 前編

先週行った芝居で、王都から来た元軍人の研究者、ローラ・スレイラさんを見かけた。


劇場で研究室の人に会ったのは初めてだ。


昨日行った芝居でも、彼女を見かけた。


彼女も結構芝居好きなのかもしれないな。


そして今日も、彼女が近くの席に座っている。


凄い偶然だ。


やはり彼女も、芝居を愛する人なのだろうか?


それにしても、同じ劇場で3回連続で出会うなんて……凄い偶然だ。


偶然……


これは、本当に偶然なのだろうか?


スレイラさんと、はっきりと目が合った。






奇遇(・・)だな、シェンカー」




芝居が終わったあと、彼女に劇場のロビーで話しかけられた。


スレイラさんは均整のとれた身体を誇示するようなパンツスタイルで、腰には例の名誉除隊のサーベルを刺している。


いつもの柔和な目つきと緩やかに内巻きにされた金の長髪が相まって、余計に柔らかい印象になっている。


休みのスレイラさんは、平日とは随分雰囲気が違うんだよな。




「ええ、奇遇(・・)ですね。スレイラさんは、芝居がお好きだったんですか?」


「軍属の頃はそんな暇もなかったが、正直こちらに来てから暇を持て余していてね。見聞を広めるためさ」




言いながら、彼女はどんどん近づいてくる。


俺の8つ上の21歳で、俺よりも20センチも背丈が上の彼女は、瑠璃色の瞳でこちらを見下ろした。




「暇を持て余していてね」


「そ、そうなんですか……」


「暇でね」


「は、はぁ……」


「…………」




沈黙と視線が辛く、思わず口を開いてしまった。




「あの、僕で良ければ町を案内しましょうか?」


「そりゃあ助かる」




大きく頷いて俺の背中を軽く叩く。


彼女の腰の飾り紐がサーベルの鞘に当たり、チィンと鈍い音を立てた。






俺は正直困惑していた。


彼女がいち学生の俺に接近する理由なんて、たった一つしか思い浮かばない。


そう、魔結晶工場計画(ひとくぎじゅつ)だ。


だが、俺の悪事(・・)について内偵しているのならば、こんなに下手なアプローチの仕方はないだろう。


そもそも普通は内偵などしない。


たかが怪しい平民魔法使いの家を爆破したところで、誰からも抗議の声は上がらないからだ。


だいたい、内偵者は対象と服屋なんかに行くだろうか?




「どうだ?」


「スレイラさんの綺麗な金髪によく合ってると思います」


「好みか?」


「僕のですか?」


「君のだよ」


「そりゃあ好みですけど」


「そうか、じゃあこの布で作ってくれ」


「畏まりました」




今はスレイラさんのコート用の布を選んでいた。


コート1着で店を3軒もはしごだ。


なんて責め苦なんだ。


殺すなら早く楽にしてほしい。






この都市の軍備を見たい、と言うスレイラさんを連れて騎士団の訓練所にやってきた。


だが俺は、適当な事を言ってこの場所を回避しなかったことを心底後悔していた。




「あの赤鱗竜の乗り手は誰だ?酷い腕だな」


「噂では『熱線』のクシスだとか。タトレノ子爵家の4男ですよ」


「あんな腕じゃ王都ならロバに乗らされてるよ」


「そりゃひどいや」


「白翼竜の乗り手は?あれはまだマシだな」


「あれは『星屑』のアルセリカです。テジオン男爵家の長女ですよ」


「あくびが出そうな星屑だ」




スレイラさんは文句を言いながら、2時間も前からずーっと騎士団の訓練飛行を眺めている。


彼女の長い金髪が、時々鼻先を擽る。


いい匂いはするし、風は冷たいし、日は暮れてくるし、時々爆発で小石も飛んでくる。


複雑な感情だ!


こんなの拷問だよ……


早く楽にしてくれ!






「それでな、私は言ってやったんだ『敵危ぶむなかれ、弱気危ぶめばこそ活路あり』とな」


「なるほど」


「私は小隊長のケツを蹴り飛ばして、敵の戦艦に突撃を仕掛けた。火砲降り注ぐ中、敵を掻き分け、空に浮かぶ敵艦の腹の真下に辿り着き、とっておきの灼熱爆裂線(ばくはつビーム)をぶち撒けてやったんだ。どうなったと思う?」


「凄いですね」


「敵は船底に竜石を溜め込んでいたようでな、誘爆を繰り返して真っ二つになってしまったよ」


「なるほど」


「まるで花火のようでな、惚ける敵兵に火焔弓を打ち込みながらみんなで大笑いしたものだ」


「凄いですね」


「その時に貰ったのが剣付犬鷲勲章でな。これは陸軍でも過去に100人も持ってないんだぞ?」


「なるほど」




訓練を見終わったあとに移動した学校近くの喫茶店で、俺は『なるほど』と『凄いですね』を繰り返すだけのマシーンになっていた。


珈琲を飲んで美味そうに煙草を吸いながら、スレイラさんは心底楽しそうに語り続けている。


こういうのは男の『昔はワルだった』自慢とは何か違うんだろうか?


いくつエピソードを聞いても、スレイラさんの貰った勲章リストがまるで埋まらない。


年金だけでマリノ教授の年収を超えるんじゃないか?


一体この人はどれだけ敵をぶっ殺してきたんだろう……




「君は……芝居が好きなんだろう?」


「なるほど」


「最近はどういうのがいいんだ?」


「えっ!?ああ、最近熱い芝居ですか……」




急に俺の話になったから、反応が遅れた。


最近の流行り……ということは『追放もの』の発祥から話さなきゃならんか。


よーし、なるべくわかりやすく話すぞ。




「メジアスっていう脚本家がいまして、その人が作り出した『追放もの』ってジャンルの芝居が流行ってます。これは染物屋の大店から追い出された丁稚が、実はその店の経営の鍵を握っていたという名作『地下2階の男』が源流なんですが。今流行りに乗って作られている『追放もの』は貴族家からの追放や学園からの追放、果ては冒険者パーティーからの追放まで、多岐にわたっていまして……」


「メジアスか……」




煙草を咥えたスレイラさんが、曇りひとつない目の玉を左上に寄せて考え込んでいる。




「メジアス氏がどうかしましたか?」


「ワーレン伯爵家の、部屋住みの者じゃなかったか?」


「そうです!そうなんです!あまりの芝居好きを咎められて、ワーレン伯爵家の部屋から出されてしまった悲劇の人なんですよ!」


「会ったことがあるな、ワーレン伯爵家のパーティーに出た時に」


「ええっ!?本当ですか!?どんな人でした!?僕、大ファンなんですよ!」




スレイラさんは俺の質問に答えず、ゆっくりと煙草の火を消し。


空になった煙草の箱を握り潰して、窓の外を指さした。


外はすっかり暗くなってしまっていて、空には金色の月がぷかぷかと浮かんでいた。




「メジアスの話は次にしよう。来週あたり、その追放ものの芝居の後でどうだ?」


「えっ!?そんなぁ……わかりました。予約しておきます」


「頼んだよ」




スレイラさんは給仕に銀貨一枚手渡すと、サッと立ち上がった。


そして俺の耳元に口を寄せ『今日は楽しかったよ』と囁いて行ってしまった。


俺、メジアスの話が気になって1週間何も手につかないかも……


こんな拷問ってないよ。


早く楽にしてほしい。

後編に続く

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― 新着の感想 ―
[一言] 上位貴族の強さがダンチなんかなと思ったらスレイラさんが化け物だったでござる
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