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95 ルルとアリアの密談

皆が寝静まった真夜中。


ルルはベッドから飛び起き、すぐさま剣を手に取る。剣は変形し槍へと姿を変える。伸びた柄は隣のベッドまで届き、ススムのコメカミに刺さった。


「がっっ……」


イビキをかいて寝ていたススムは一瞬声を上げたが、今は寝息の一つも立てずに眠っている。


ルルは部屋を一通り見渡し、構えた槍を下ろす。光に身を包むと次の瞬間には普段の装備一式を纏った姿に変わる。

槍を剣の状態に戻し腰に据えると、ススムを起こさないよう静かに部屋の窓を抜けてバルコニーにでる。そのまま屋敷の見張りにも気づかれることなく夜の闇に飛んだ。




「悪趣味な呼び出し方ね。なにかしら?」


自分に向けられた殺気を辿って着いたのは街はずれにある小さな小屋。入口にはミスティとノベタが待ち構えていた。

ルルは不機嫌に槍を構える、一方でミスティとノベタは争う気は無いと無防備な振る舞いでルルを迎える。


「アリアちゃんがお話したいって言ってるですぅ」

「あの女が?グラファじゃなくて私に?」

「はいですぅ」


3人は小屋の隠し扉を通り、延々と続く螺旋階段を下へ下へと下っていく。


「こんな地下深くに誘い出して、グラファにバレないようにわたしを始末するつもり?」

「だからぁ、私達に敵対する気はないですぅ。勇者様を怒らせるような事、アリアちゃんがするはずないじゃないですかぁ。着きましたよ」


階段を降りきった先には重厚な扉が鎮座していた。

ミスティがパネルを操作すると扉は重そうな見た目に反しスムーズに開かれる。

その先は広めのフロアとなっており、多くの機械類が並んでいる。その中でも中心に設置された大きな円柱の水槽が一際目に付いた。


液体で満たされた水槽の中にルルは知った人の姿を見つけた。


水槽の中に浮く少女もルルに気づいたように薄らと目を開ける。


「随分と酷い有様じゃない」


ルルの指摘通り、水槽内のアリアの姿は悲惨なものだった。

体のいたる部分から管が伸び、片手・片足を失っており、角はひび割れ、体の各部は呪いのアザに侵されていた。ススムの前に姿を見せる元気な少女の面影はどこにもない、生きているのが不思議なくらいだ。


「それで昼間は魔力体だったって訳ね。そうよね、そんな姿ガルファに見られたら嫌われちゃうものね」

「あの人はそんなに狭量じゃないわ」


ルルの皮肉に対し、至って冷静に言葉を返すアリア。ルルは言い返すことが出来ず苦し紛れに本題へ話を進める。


「そ、それで、私になんの用なのよ?」

「そう…そうね、あなたに話があったの。あなたには話しておこうと思って」


アリアはルルに、5年前の真実を話した。

グラファが王国の手で異世界に消された事、それが引き金でデイライト・ナイトメアが起きた事。昼間に大聖堂で話した事とほぼ同じ内容をルルに伝えた。


「そんな…確かにグラファは恨みも多く買ってたけど、それでもちゃんと勇者だった。この世界を良くしようと頑張ってた。消すだなんて流石に……」

「やるのよ。それが人という愚かな生き物なの。英雄システムは失敗だった。やはり人類の調律は数を減らして調整するしかないのよ」

「そのためにこんな短期間に魔王召喚を行ったって言うの?」

「それは違うわ。魔王は7柱ごとにしか召喚できない。グラファ以外の魔王は副産物よ。ガルファの魂を異世界から引き戻す、私の願いはそれだけ。重要なのはその1点だけよ。あぁ…グラファ~…」


アリアはススムの姿を思い浮かべ恍惚とした表情を浮かべる。ガルファがこの世界に帰ってきた。それを想うだけで胸が高鳴る、脳が震える、身体が艷めく、こんな世界にも存在価値があるのだと思える。


「気色悪い」

「ふふっ、あなただって同じでしょ、グラファが帰ってくるまで宿主無しでいたんでしょ」

「一緒にしないで、それは当然でしょ、私は勇者の剣なんだから」

「リリは賢い選択をしてるわ」

「楽を選んで裏切ったのよ」

「でも、先日の戦いで貢献したのはリリの方だと思うけど?」

「私だってちゃんと力が使えればっ!」

「そう、グラファの役に立てた」

「そ、そうよ。グラファが1番頼るべきは私なんだから!」

「そうよ。だからね、あなたに提案があるの」

「断るわ!」

「酷いわ、聞くくらいしてくれてもいいじゃない」

「聞くまでもないわ。あんたからまともな提案なんて出てくるわけないもの」

「私達の1番の共通点……唯一の共通点と言ってもいいわ。なんだと思う?」

「そんなものないわ。あんたと同じ部分なんてあったら気味が悪くて死んでしまうわ!」

「とても簡単な事よ。それは、グラファを想っている事よ」

「なにそれ、私の想いは誠実な忠誠なの。あんたの歪んだ性癖と一緒にしないで」

「忠誠……それだけじゃないでしょ。まぁいいわ。あなたがグラファの剣として忠誠を誓っていても、今のあなたでは力不足、忠誠を形にできないでしょ。それを解決する提案なの。同じガルファを想う者同士として、グラファの為に提案するの。そう、あなたのためじゃないの。私がグラファの為にあなたを利用して、あなたはガルファの為に私を利用するの。何も2人仲良く手を取り合いましょうだなんて言わないわ。全てはグラファの為に。ね、それなら素敵でしょ?」


アリアの口角が三日月の様に吊り上がる。

ルルはこちらを覗き込むアリアにゾッとした。悪意を孕まないからこそ、より深い業に沈んだ瞳は見据えられただけで食い殺されてしまうのではないかという恐怖を与えてくる。


「何を企んでいるの?」

「グラファの体がね、王都にあるの。それを取り戻すわ」

「体?」

「そう、5年前、グラファの魂が異世界に飛ばされて、体はこの世界に残された。今は王の側近が利用しているわ。許せないでしょ、私のグラファの体を豚クソが独占してるのよ」


アリアの体から黒い瘴気のようなモヤが立ち込め、徐々に噴出の勢いを強める。また、それに呼応する様に部屋全体が揺れ始めた。


「きっとイいやらしい事に使ってるに違いないわ。私だってグラファに色んなことしたいのに、許せないわよね、やっぱり今すぐ滅ぼすべきだわ、あぁグラファ、すぐに行くわ、今すぐゴミ糞共を焼き尽くして―――」

「アリアちゃん落ち着くです!アリアちゃん!」


ミスティが諌める事でアリアは平常心に戻り、揺れも瘴気ま収まった。

アリアは少し大きく息を吐き、改めてルルを見据える。


「貴方だってグラファの体を取り戻したいと思うわよね?」

「それは私が決めることじゃないわ。グラファが元の体を取り戻したいと言えばそうする。それだけよ」

「だけど今の彼には記憶が無い。記憶の大部分はおそらく元の体に残ってるわ。だから体を取り戻すべきかどうか、本人では判断できない。あなたは元のグラファに戻って欲しいって思わないの?グラファはあなたの事も未だに忘れたままなんでしょ。そのせいでずっと冷たくあしらわれてるじゃない。体を取り戻して記憶が戻ればまた昔みたいに可愛がってもらえるわよ」

「そ、それは…………私だって、もっと昔みたいに、昔みたいに………」


ルルは優しかったあの頃のグラファと甘い思い出を思い返す


リリがグラファに撫でられているのを木の影から睨みつけたあの日―――


丹精込めて作ったお菓子をエールで雑に流し込まれ、感想の一言もなかったあの日―――


皆で同じベッドに寝ていたはずなのに朝目覚めると自分だけ床に落ちていたあの日―――


プレゼントを渡されるも照れてしまい反射的に『いらないわよ!』と言ってしまったら本当に貰えなかったあの日―――


「今と大して変わんないわよ!」


ルルは今も昔も不憫ないじられキャラであった。

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