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79 ピンスモグの街

「街」と「町」だとか、「騎士団」と「騎師団」といった風に同じものを表すのに漢字が違う事があるのは、その人物の理解に合わせている為です。誤字ではありません。

俺の名前を呼びながら宙を舞ってこちらに向かってくる女性。


空を飛んでる人を見るのは初めてだが、俺もこちらの世界にやってきてから色んなものを見た。もうこの程度では驚かない。


桃色のショートヘアに、頭の両側には羊を思わせるような渦を巻いた角の様なものが付いている。


立派なマントを羽織っているが、その中はスクール水着から脇腹部分の布をなくしたような際どく肌色面積の多いものだった。へそ辺りもダイヤ形に空いている。


ふわりとした髪を揺らしながら女性は俺の周りを嬉しそうにクルクルと回る。


「ススム、やっと逢えたね」

「ア、アリアちゃん!あまり町から離れちゃダメですぅ」


ミスティが手をじたばたさせて焦っているが、彼女はまるで気にも止めずに俺の周囲を回り続ける。


俺もそんな彼女をずっと眺めて、ふと脳裏にひとつの映像が浮かんだ。


「あぁ、あの時の」


そう、彼女は俺がこの世界に来る直前の夢のような場所で話しかけてきた人物だ。朧気な記憶だが間違いない。


「アリアちゃん、早く町に戻るですぅ」

「大丈夫よ、ススムと一緒にちゃんと戻るから。ノベタは一緒じゃないの?」

「色々あって国王がススム様の前に現れたんですぅ。それでノベタくんは私の尻拭いしてくれたです」

「そう、覇王が来たんならしょうがないわ、無事でよかった。話は後で聞くわ。ミスティはノベタを迎えに行って」

「わかったです。アリアちゃんは町に、すぐに、絶対ちゃんと戻るですよ。ススム様もアリアちゃんの事お願いしますです。それじゃあ行ってくるです」


ミスティの姿は一瞬で目の前から消えた。今のが俺をここまで連れてきたテレポートだろうか。迎えに行くといってたからあれでまた王都まで戻るんだろう。


「さ、街に行きましょう。案内するわ」

「お、おう」


アリアの馴れ馴れしさに少し戸惑いながら、先導する彼女の後について町に向かった。



町に着くまで大した会話はなかった。

アリアはたまに俺の顔を伺いながら、しかし話しかけてはこずに嬉しそうに宙を舞って前を進んだ。

飛んでいるのがデフォの様だが、そうなると逆に彼女は地に足を着いて歩けるのだろうかなんて気になったりして。

そうこうしてるうちに町に着いた。



ピンスモグの街、それがこの寂れた町の名前だ。

いや、寂れているというより“壊れている”といったほうが正しいかもしれない。


町を見た感想を一言で表すとすれば「滅んだ近未来」だ。


もちろん近未来ってのは日本人基準で漫画やアニメで見るようなやつだ。崩れたビル状の建物や半球状の建物が蔦や木の根に覆われている。


とはいっても植物が自由奔放しているのは瓦礫に対してだけで、町全体がジャングルという訳ではない。

その瓦礫の隙間を縫うように道があり、思い思いの場所に1階建ての四角い家が建っている。町というより村といっても過言ではない寂れ具合だ。雰囲気はモグネコ族の村に近い。至る所に畑も点在しているのも村っぽさを助長している。ん?よく見ると農作業しているのはロボットか?骨組みだけの、それ以上の機能を一切持たなそうなカカシのようなものがクワを規則正しいリズムで振っていた。


色々とツッコミどころが多すぎて頭痛が痛くなりそうだ…


壊れたビルを食わんとする巨木、畑仕事を行うロボット、この世界に似つかわしくない四角い建物、オーバーテクノロジーと自然が喧嘩しあっていてなにもかもがアンバランスだ。王都で感じた中世よろしく剣と魔法の世界の感動がここにはまるでない。



「なんか……凄いな」

「やっぱり覚えてないんだね」

「ん?」

「ススムがこの街に来るのは初めてじゃないんだよ。まぁススムがいた時はまだキレイだったけど」


ふぅ、この子もか。


いつものパターンだ。俺の事を知ったふうに話す。


毎度毎度のパターンだがみんな本当に俺の正体に確証をもって言ってるのか?

相変わらず俺だけが俺の事を知らない世界だ。


「ススム、どうしたの?私なにか気に触る事言った?ごめんなさい。ススム、ごめんなさい」


俺の顔色を伺ったアリアが今にも泣きそうな顔で謝ってくる。


いや、そんな急に不安げにされるとこっちが不安になるんだが…


自分の事を知った風に言われる事に程々飽き飽きしているのが顔に出てたのかな。

その状況が嫌ってだけで、別に彼女だからどうこうという訳じゃないけど、こんなに謝られると気にさせたのかなと悪い気がしてくる。


「なんでもないから、大丈夫だから」

「ほんとに?ほんとにほんと?何か私に悪い所があったら言ってね。私、直すから」

「お、おう…」


この子、ヤベェな。

言葉だけを抜くと必死な可愛らしい女の子だけど、見開いてこちらを凝視する目からは光を感じられない。

彼女はまっすぐと、そのまま俺を吸い込んでしまうかのように目を見据えて、脅迫でもするかのように謝罪を繰り返す。その視線は不動でまばたきすらしていない、たぶん。それぐらいの眼圧があった。


「あ、ごめんなさいススム。そろそろ時間だわ」


突然、平常時のテンションに戻った彼女があっけらかんにそんな事を言うと、1度身を翻してからポンッっとかわいい音と小さな煙を立てて消えてしまった。


いや、街の入口で放り出されても…どうしろってんだ。


なんて思い耽る間もなく、そんな俺の悩みを物理的に吹き飛ばさんとする爆発がすぐ横の建物で起こる。


突然の衝撃に目をつぶってむせかえった。


ようやく目が開けられるまでになるとピンク色した煙が辺りに漂っていた。臭いも独特だ。


かなり吸い込んだけど、これ有害なガスとかじゃないだろうな。色だけ見れば毒ですと言わんばかりに毒々しいどピンクだ。


健康的不安を抱えながら爆風を受けた方を見ると、最寄りの建物からはまだ煙が途切れることなく立ち上っていた。


「いったいなんだって―――」


なんだってんだっていう呟きすらも許されずに今度は道を挟んで反対の建物から爆発音が響き、またもやススムは煙に包まれた。


それを皮切りにしたように近くで、遠くで、町の至る所で桃色の爆発が上がり、町は瞬く間にショッキングピンクに包まれた。

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