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69 ススムvsガルム

俺達が教会への避難を断られている最中に現れた魔王・ガルム。


「なら死なねぇようしっかり祈っとけよ、そのアリアとかいうクソ神様によ」


ガルムは俺達の避難を断ったシスターブリュレにそう言うと、地面に手をついた。


「ドガ・サンドワーム」


いきなり始める気か!


こいつの戦う姿は1度見ている。名前を呼んで、影から黒獣を召喚していた。おそらくそれがビーストテイマーの能力なのだろう。


「魔物が来るぞ!全員逃げろ!」


子供たちに向かって叫ぶが、急にそんなこと言われても誰も動けるはずもない。


しかし、ガルムの影からは何も現れない。


なんだ?不発か?


ガルムが口角をあげる。それを見て俺は咄嗟に領域(テリトリー)を展開する。


領域の端に何かを捉えた。


地面が一瞬揺れたと思った途端、教会の屋根をぶち抜いて巨大な黒獣が現れた。


ミミズとイモムシを合わせたような、生理的に受け付け難いルックスだ。ギロチンジラフの首と同じくらいでかいんじゃなかろうか。


破壊された教会の瓦礫と、おそらく中に避難していたのであろう人達が降ってくる。


土でドームを作り、自分と子供たちを瓦礫から守る。


激しく石の打ちつける音が止んだところでドームを解除すると、教会は崩れ落ちてほぼ土台だけとなっていた。周囲の建物も落石を受けて壊れており、瓦礫に混じって多くの人も倒れている。


教会の床の真ん中をぶち抜いてそびえる軟性の黒い柱はぐにゃりと体を曲げてこちらに大きな口を見せる。

まるでストローのように先端がまるっと口になっており、他の顔のパーツは伺えないが、こちらを睨んでいるような威圧感がある。


「ワーム系のモンスターね、サイズからして砂漠か魔界のものだと思うけど」


ガルムはドガ・サンドワームと言っていたな。みるからにイメージ通りのワームって感じのワームだ。


「なんじゃこりゃあああ!!!」


騒がしい叫び声の正体は赤い鎧を着た小太りのおっさんだった。いやよく見ると知ってる顔だ、子供らを狙う銭ゲバクソ貴族のゴードンだ。鎧のせいでさらに横幅が増し、その体型はもはや丸を通り越して正方形だ。こいつ、なんでこんなとこ1人でうろうろしてんだ。


「ケガはないか!おぉおぉなんと禍々しい魔物じゃ。儂の屋敷を解放しておる、早く避難するんじゃ!」


ゴードンは腰の剣を抜いて子供らを庇うように前に立つ。そこでようやく俺の存在に気づき、飛び出んばかりに目を見開いた。


「勇者殿、勇者殿ではないですか!生きておったのですか!?」

「ここはいいから、子供らを頼む」

「かしこまりましたぞ!むむっ、あの魔物のふもとに倒れてる者達は、まだ息があるのでは」

「わからん」

「早く助けねば」

「助けるったって…」


建物ごと喰らうでっけぇミミズのすぐ足元だぞ、あいつに足はなさそうだけど。戦うだけでもどうしようかってとこなのに、助けるって…。

あいつらは俺達の避難を拒んだやつらだ。正直いって生きてるかどうかも怪しいそんな連中よりも子供らを優先して欲しいところだが、ゴードンは目の前の人らを何がなんでも助けたいようだ。


「はぁ…わかった。そっちは俺がなんとかしとくから、お前は子供らの保護を頼む」

「むう、勇者殿がそう言われるのであれば、分かり申した。子供らよ、儂の屋敷に避難させてやるから着いてくるのじゃ!」


先頭を切って走り出すゴードン、しかし子供らは着いていこうとはしない。少し進んでそれに気づいたゴードンがすぐに戻ってくる。


「ふざけとる場合か!死にたいのか!」

「おまえ……人望ないな」


なんてやってるうちにドガ・サンドワームが勢いよく地面に引っ込む。


「ワームの攻撃がきますぞ!」

「問題ない」


ゴードンが身構えて辺りをキョロキョロと警戒するが、サンドワームが出てくる気配はない。


「全員!この豚みたいなおじさんについていくんだ!変なことされそうになったらボコボコにしていいからな!」

「物騒な事言わんでください!ほら、勇者殿もそう言っておられる。皆ついてこい」


今度こそ、子供らとシスターはゴードンに続いてこの場から離れる。


それを横目で見ていたガルムの口が動こうとしたので、足元から棘を繰り出して牽制する。


「おっと危ねぇ。落ち着けよ、あいつらは見逃してやるからさ。どうせ後で死ぬんだけど。サンドワームはどうしたの?」

「地面の中で寝てるさ」


さっきサンドワームが引っ込んだのはそいつの意思じゃない、俺が地面に引きずり込んだからだ。

あいつの長い図体は王都地下のダンジョンの範囲にまで達していた。ダンジョンに触れているものであれば、俺のやりたい放題だ。地中で全身串刺しになって頂いた。


「そっかそっか。おまえ、ちゃんと戦えたんだ。おまえ、ススムだろ?」


どうやらガルムには勇者の仮面の隠蔽効果は効かないらしい。もしくは、元々俺を知っていたからか。


ガルムの問いに対して、返事代わりに仮面を外す。


「忠告したのに逃げてなかったんだ。てっきり戦えない奴かと思ってたのに、まさかススムが勇者役だったなんてな。でもなんでだ?今回は勇者役はいらないはずだろ。あ、もしかして手伝ってくれるとか、消えたはずの勇者が国を滅ぼすために帰ってきたってなったらそりゃショックだもんなぁ。ススム、性格わる~」

「引いてくれ」

「ん?なに?」

「大人しくこの街から出てってくれ」

「え?………………は?俺に言ってんの?マジで?」


これまでずっと陽気で人懐っこそうな顔をしていたガルムの表情が初めて曇る。

それから何を思ったのか、俺への当てつけのように大きなため息を吐いた。


「ススムさぁ、勇者やりたいの?それとも元々勇者なのか?前回の事は知らないけどさ、今回はそういうんじゃないじゃん?魔王も言ってたでしょ、今回は私怨だからみんなも好きにやっていいって。だから俺も好きなように復讐するんだ。ぶっちゃけ、魔王になるかどうかなんてついでっていうか、どうでもいいんだよね。誰がなんと言おうと俺はこの国の人間を皆殺しにする。これは決定事項だ。例え勇者様に言われてもこれは変わらない」

「お前の恨み云々は知らないが、上手くいくと思ってるのか?今この国には数十万の騎士がいるんだぞ」

「だからだよ。あいつらがいなきゃ復讐にならないだろ。それに騎士団ならほとんど街の外だよ。無限に湧き続ける魔物相手に街の中に戻ってくる余裕なんてないさ。馬鹿だよねぇ、ちょっとした陽動のつもりだったのにみんなそっちに群がっちゃって」

「騎士に恨みがあるのか?だったら外で戦えばいいだろ」

「そうじゃないんだよなぁ。あいつら子供も女もジジババもみーんな殺してったんだ。これは戦士の戦いじゃない。亜人と人間の、どちらが滅びるかの国盗り合戦、そういう戦争なんだよ。だから皆殺しにするんだ。俺の手で。俺達の手で」


ガルムの背後に完全に人の形をした黒獣が大量に沸く。よく見れば頭の上に様々な形の獣の耳がついているように見える。


こいつら、獣人の黒獣なのか?

なんで人間の黒獣なんて従えてんだよ。おまえビーストテイマーだろ。魔物だけ従えてろよ。それともなにか、獣人は魔物扱いなのか?


俺をかばうようにルルとリリが前に立つ。


「やるの?」

「やれんのか?」


ルルが剣に手を伸ばして聞いてくる。


こっちは3人、対して向こうは数百人。獣人の黒獣たちがどれほどの強さかはわからないが、少なくともガルム本人は相当な実力を備えている。正直いってルルで相手になるとは思えない。

チラとリリに目をやる。リリならあるいはやりあえるかもしれないけれど、こんな小さな体を物量で押し切られたら強さ云々の話ではなくなるのではないだろうかと思う。


「ちょっと!私だってやれるわよ!やってやるわ!私は剣なんだから、やれるかやれないかじゃないの。あんたが私を振るか振らないか決めるの。でも絶対やってやるわよ!」


俺がリリを見て考え込んでいた事に気づいたんだろう。ルルは自己主張が強いというか、リリと張り合ってる節がある。無茶しないよう俺がコントロールしてやらないとな。


とりあえず数の差を何とかしないと……といっても、頭にはひとつの案しか浮かんでいない。それもまるで上手くいくとは思えない案だ。


だが相手も悠長に待ってはくれないだろう。とりあえずこれしかない。


「ガルム、サシで勝負しろ」

「サシ?」

「そうだ、俺とお前のタイマンだ。俺が勝ったら大人しくこの街から出ていけ」

「は?」


ガルムは呆気にとられた顔をする。


ダメか?

そりゃそうだろうな。相手からしてみれば、なんで自分の有利を捨てて俺の提案に乗ってやらなきゃいけないのかって話だ。提案している俺自身、ダメ元で言っている。


「あ~そっかそっか。にっはっはっはっはっは!」


怪訝そうな顔をしていたガルムが急に笑いだした。

わかってるよ。思わず笑っちまうほど馬鹿げた提案してる事なんて。


「心配しなくてもこいつら全員でかかろうなんて思ってねぇよ。1対3だ」

「1対3?」


3ってなんだ?提案にのってやるからハンデをつけろってことか?


「ススム、土の勇者だろ?知ってるぜ、土の勇者はってのは自分では戦わねぇ、お供の少女達が戦うんだろ。だから、そっちはおチビちゃんも含めて3人だ」


勇者が侍らせてる少女を戦わせるのは世界共通の認識なのか。

いつもリリやルルが俺の代わりに戦って、俺を庇って、その後ろで何もしない自分に気まずさを感じていたが、それが広く周知されている事だとは……恥ずかしいぞ。


……………うむ

まぁ今はとりあえずはガルムとの一騎打ちに持ち込めた事で良しとするか。勇者の風評など後だ。てか俺勇者じゃないからどうでもいいし。


「こいつらにはこいつらの仕事があるからな。さぁ、始めよっか」


軽いガルムの言葉を合図に獣人達が八方に散る。


「なっ!サシで勝負してくれるんじゃなかったのかよ!」

「やるぜ、魔人と勇者のサシの勝負。でもその間、この国の侵略を止めてやる理由もないだろ。さぁ、全面戦争の第2ラウンドだ」


俺の相手は1人でこなすが、その間は黒獣を

引っ込めてくれるなんて事はしてくれないわけか。


くそっ、状況は全くもって好転なんてしてなかった!

ようやく2人がぶつかりました。

ちょっと長くなった2章も終盤です。(ここから短いとは言ってない)

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