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56 クレイvsモーゼ

クレイとモーゼが何度も剣を交える。一閃、一閃、互いの剣がぶつかり合う度に衝撃の波が空気を震わせた。

その迫力に俺も、包囲する騎士も、野次馬たちも目を奪われていた。


「おめぇさんらはおめぇさんらの仕事をしろ」


モーゼの激に我を取り戻した騎士たちは俺に向き直る。

その前に立ちはだかるのは大剣幼女コンビ、リリとルルだ。

リリとは1度、一緒にクエストへ行ったが戦ってるところは見ていない。ルルはモグネコ村で蜘蛛と対峙して呆気なく吹き飛ばされていた。

正直いってこの2人に戦えるイメージがない。

幼女に守ってもらうのも色々と宜しくないのでなるべく俺が頑張るとしよう。


「あんたはじっとしてて」


俺が身構えた事に気づいたんだろう。ルルは俺に手出ししないよう言ってくる。ルルは頑なに俺に戦わせまいとするな。


「いや、そうは言っても…」

「それが私たちの存在意義。勇者第一の剣である私の務めなんだから」

「第一の剣はあたし」

「私よ!」

「ススム、勇者?」

「ちょっと無視すんじゃないわよ!」

「俺は勇者じゃない、ただのススムだ」

「残念。ススム、勇者の匂いする。とにかく守る」

「まぁ…サポートくらいはいいだろ」

「手を出さないでって言ってんでしょ」

「お前のことが心配なんだよ」

「ななっ!?……こんな時に、にゃ、にゃんてこと言ってんのよ!時と場所を弁えなさい!」


ルルは何を取り乱してんだ?まぁいいか。


手を出すなと言われても、実を言うとマーレイと対峙した時から取り巻きの騎士にも地味にちょっかいは出している。


「くるぞ」


騎士5人のうち2人が向かってくる。


ルルは前と同じく一回転してスタイリッシュに剣を抜く。一方でリリは鞘に収めたまま小脇に抱え直した。


ルルは真正面から騎士と競り合う。

リリは剣の重さに身体を預けるような大振りで相手に突っ込む。鞘で叩かれた騎士は呆気なく吹き飛び、建物の壁に刺さった。


ルルはまだ剣を打ちあっている。互いに実力が拮抗しているようだ。

残りの3人も動き出した、長引くとまずいな。

俺は準備していた小細工を発動させる。


ルルに向かって剣を振り下ろした騎士は急に叫び声を上げて仰け反った。ルルはその隙を逃さず峰打ち一閃、相手は気を失ってそのまま倒れた。


「あんた!何かしたでしょ!」

「まぁ、ちょっとだけな。苦戦してるみたいだったから」

「全然全然余裕なんだから!」


とは言うものの、息も上がっているし、全然を重ねがけするあたりに余裕のなさが伺える。


俺がやったのは地面の針山化だ。地面に細かなこぶを沢山創ってやった。今、俺がテリトリー化しているここら一帯の地面は気にならない程度に凸凹している。

気にならないと言っても、靴を履いている場合の話、裸足なら話は別だ。


俺がずっと騎士たちに行っていた小細工、それはやつらの靴を溶かすこと。

騎士たちの立っている場所の地面に溶解液を生成して靴底を極限まで溶かしてやっていた。

そんな薄い靴底などあってないようなもの。地面を変質させる仕上げ作業により、騎士たちにとってこのフィールドは激痛足ツボ地獄と化したのだ、下手すりゃ刺さる。


急に足を襲う激痛にまともに立っていることすら困難になった騎士たちは何が起きたかも理解できないまま踊るように飛び跳ね、そしてその場に倒れた。


「ルル、なんで剣?」

「しょうがないでしょ!省エネよ、省エネ」



一方でクレイとモーゼの剣戟は衰えることなく、今もビリビリと衝撃が飛び交っている。


2人の尋常ではない攻防はダンジョンマスターとしての把握能力で辛うじて認識は出来てはいるが、肉眼では全く追えない。


「おっと、降参だ降参」


誰もいないところにリリが剣を向けると、そこにウォーリーの姿が浮かびあがった。

魔法なのか特技なのか、姿を消して接近してきたようだ。

俺も何かが移動しているのは感知していたが、何も見えないので不思議に思っていた。

リリが気づいてくれなかったら危なかったかもしれない。

支配領域で感知しているものと、目に見えているものに差があると混乱してしまう。

相手が見えないことだってあるということだ、スキルを信じて油断せずに行こう。


「そんな簡単に諦めていいのか?」

「俺らはお嬢専属だからな。諌める事はあっても、基本的にお嬢の決めたことにゃ逆らわねぇよ」

「そんなんでいいんだ」

「ま、でっけぇ国だ。色々あるってなもんよ」

「複雑だな」


いつの間にかフットマンもこちら側に来ていた、いつものように簡潔な単語でウォーリーの言葉をしめる。


「相変わらず大将のインパクトはすげーなぁ。お嬢の斬撃すら止めちまうんだもんな」

「圧巻だな」

「インパクト?」

「おぅよ、大将の得意なスキルだ。ビリビリ来てるだろ?」

「来てるけど…」


2人の攻撃がぶつかる度にビリビリと伝わってくる空気の振動。剣圧や気迫で大気が震えてるのかと思ってたけど、そうじゃないらしい。


「けどありゃあダメだな」


ウォーリーの予見が的中したように、モーゼの剣が砕けた。


「ありゃ」


武器が壊れたというのに、さして危機感を持ってないような声を上げて手元の剣を眺めるモーゼ。


「まだ続けますか?」


鋭い眼光と刃を向けてクレイが言う。


「うーん、やってもいいんだが、素手だと手加減が聞かないんだよなぁ。どうすっかなぁ」


と、その時―――


街中に激しい鐘の音が響いた。


『敵襲!敵襲!南に魔物の大群!数2000!黒獣だ!』


「魔王がおいでなさったってのかい」


警鐘を聞いた野次馬たちは慌てふためいながら皆どこかへ散っていった。


「剣壊して悪かったな。俺の名前で新しいの貰ってくれ」


モーゼは刃を失って柄だけになった剣を借りた騎士に返す。


「おい」


と、声をかけながらモーゼはマーレイを容赦なく蹴り飛ばす。


「ぐえっ!………っつつ………はっ!?私はなにを!」

「いつまで寝てるってんだい」

「モーゼ団長!それに総師団長まで……警鐘?なんだ!?」

「魔王がおいでなすった。仕事しろ」

「仕事…そうだ、偽勇者だ!貴様よくも」

「ほっとけ。ん?偽勇者?あいつは偽物だってのかい?」

「いえ、あの、それは………わかりません」

「わからないってのかい」

「しかし!奴は私に、騎士団に手をあげたのだ。ただで帰すわけにはいきません」

「後にしろ」

「しかし」

「後にしろ。何が大事か考えろ。それでもあの男が大事なら、好きにしろ」

「ぐっ…」


マーレイはモーゼに気圧され、好きにしろと言われても実質選択肢はない。


「避難誘導しながら隊に合流する。……貴様、覚えていろよ」


マーレイは捨て台詞を残して取り巻きと一緒にその場を去っていった。


「俺も装備取ってくっか」


モーゼもランニングのように、巨体に似合わない軽やかな足取りで去っていった。


クレイは剣を収めて戻ってくる。


「クレイも行かなきゃかな?」

「私はどちらでも問題ありません。ススム様が見学や参加なさるのでしたら案内させて頂きます」

「参加?って、俺も一緒に戦うってことか?」

「勇者が戦いに参加したと知れ渡れば、汚名の払拭にも繋がります」

「いやだから勇者じゃないし。それに騎士団は俺の事嫌ってるみたいだし」

「勇者様を抹殺しようだなんて。まったく、困ったものですわ」


嘆かわしいと言わんばかりにため息をつくクレイ。

周囲は市民や騎士が駆け回って合わただしく、警鐘はなり続けている。

そんな時に騎士団の総師団長がこんなにのんびりしていていいのだろうかと思う。


さて、俺はどうしようかな。


と、考えて思い出した。警鐘がなった時は集合するようにってアーヴァインが言ってたな。


うーん…行きたくない気もするけど、普段からご飯貰ってるし、恩がどうこうというより肝心な時にいつもいなくて都合のいい時だけ行くってなんだか気まずい気がしてしまう。体裁として一応顔を出した方がいいかな。


「俺はリユースコレクションに行こうかな。こういう時は集まれって言われたし」

「まぁ!アーヴァインがススム様に命令を?申し訳ございません。今後そのようなことがないよう私から言っておきます」


そう言ってクレイは剣に手をかける。


「いやいいって。嫌だったら自分で言うから」

「そうですか?ススム様がそうおっしゃるのなら、分かりました。ススム様の意思を最優先するよう言っておきますわ。それでは参りましょうか」

「え、クレイも行くの?」

「えぇ、御一緒させて頂きます」


こうして俺、クレイ、ルル、リリ、ウォーリー、フットマンの6人でリユースコレクションに向かうこととなった。

いつもお読み頂きありがとうございます!

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