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04 脱走のすすめ

街の中を目指して穴を掘り進んでいたところ、薄暗い地下室に掘り抜けてしまった。そこには何人もの縛られた子供らが転がっていた。


どの子も両手を縛られている。


壁と地面は石造りで一面は鉄格子になっていた。


牢屋か。


これはまた厄介な場所をピンポイントで掘り当てたな。トラブルの匂いしかしない。


「あっ!」


俺の姿に気づいた1人が声を上げる。それを見て皆が俺に気づき、一斉にしゃべり始める。


「何なのあんた!」

「お兄ちゃんだれー?」

「ん…もう朝~?」


子供たちが思い思いに口を開き、牢屋が一気に騒がしくなる。


「うるせーぞ!」


外からの一括に全員が体を跳ねさせて口をつぐむ。ドアが開いて人が近づいてくる。


「静かにしてろ」


それは手に持っていた棒で鉄格子を叩いて檻の中の子供らを黙らせた。


「ったく、急になんだってんだ」


ぶつぶつと文句を垂れながら持ち場に戻る男。


俺はというと、掘ってきた穴に戻って入口を塞いで隠れていた。塞いだ部分だけ石造りではなくなっているのだが、部屋の暗さもあって気づかれなかったようだ。


気配が去ったのを見計らって再び牢内に、人差し指を口の前に立てて声をあげないようにジェスチャーを送りながら入る。


囚われた子供らの中で1番年長っぽい女の子に近づく。


「あ、あんた、なんなのよ」


素朴な可愛さを持つその女の子は警戒心あらわに問いかけてきた。12~13歳くらいだろうか。


「いや、たまたま通りかかっただけだ」

「たまたま?」

「そう、たまたまだ」


本当にそうなのだからそう言うしかない。地中を散歩してはいけないなんて決まりがある訳でもないし……ないよね?


俺の言葉を聞いて少女は俯いてしまったが、すぐに顔を上げて再び俺の目を見た。


「私たちを助けていただけませんか?ここから出してくれるだけでもいいんです。お願いします」

「おまえら、なんでこんなとこに捕まってんだ?見たところ子供ばっかりだけど。人攫いかなんかか?」

「え…………あ、はい!そうなんです。私たち皆、人攫いにあってしまって。早くここを抜け出さないと、早朝には盗賊のアジトに運ばれてしまいます。そうなったらもう…………お母さん……」


少女はそう呟いて目に涙を浮かべる。


周囲の子供たちからも期待と助けを乞う目で見られている。こうも必死に訴えられると断れないじゃないか。


「んーーー。まぁ、とりあえずここを出るか。全員ついてこい、静かにな」


全員に今しがた俺が掘ってきた穴に入るよう指示する。


立ち上がるのに手間取る子には手を貸して、全員が穴に入ったところで入口を深めに塞いだ。


少し進んだ先で広めの部屋を作って、そこで全員の縄とを解いてやる。


「みんな、怪我はないか」


自由になった子供らははしゃぐように体を動かす。とりあえずみんな元気なようだな。


「助けていただいてありがとうございます」


牢屋内で最初に話した少女が頭を下げた。


「無事に抜け出せてよかったな。にしても中々の人数だな。仲良さそうだけど、おまえら全員まとめて捕まったのか?」

「えっとねー、貴族の屋敷に忍び込もうと思ったらまちぶせんんぐっ!?」

「あはははっ……えっと~、あの人たちは子供らを捕らえては国外に売り飛ばしている悪い人達なんです。助けていただいて本当に助かりましたわ。おほほほほほ」


男児がなにか不穏な事を口走った気がするが、女の子が直ぐに割り込んでその口を塞ぎ、早口で説明してくれた。


俺はジト目で彼女を睨む。


「な…なにか?」


額から汗を垂らしながら目をそらす彼女。


俺は近くにいる違うちびっこを捕まえて聞く。


「君たちはどうして捕まってたのかな?」

「あのねー、ゴードンさんの家に盗みに入ろうとしたら兵隊さんがいっぱいいたのー」

「ほう、そうかそうか」


男の子は元気いっぱいに答えてくれた。


どうやら俺はとんでもない事をしでかしたようだ。


子供ばかり捕まってたからてっきり誘拐かなにかかと勝手に判断したが、どうやらこの子らは少年窃盗団のようだ。


つまり俺は意図せず集団脱獄の手引きをしたわけだ。


これは何とかせねば。


「おいおまえら、全員牢屋に――」


そこまで言いかけたところで背中に衝撃を受けて倒れた。


俺はそのまま押さえつけられて手足を縛られ、さらに簀巻きにされてしまった。


「おい、何のつもりだ」

「だってお兄さん、私たちのこと知ってて助けたわけじゃないんでしょ」

「おまえ、恩を仇で返すってのか」

「恩?あなたが勝手に助けただけでしょ。命は取らないであげるから感謝しなさい。それじゃあね」


少女は晴れやかな笑顔を見せると、子供たちを引き連れて部屋から出て言った。


「はぁ…」


静かになった部屋で、簀巻きになったままため息をひとつついた。


子供らはまっすぐ出口に向かっているようだ。そのことが手に取るようにわかる。


子供らが進んでいるのは俺が掘っていた穴だ。

おそらくだが俺の掘った穴は、俺の管轄するダンジョンってことになるんだろう。



そして離れた場所であろうとダンジョンをいじることが出来るのを直感的に感じた。


恩義を知らぬ子供たちにはお仕置きが必要だな。


くくく、ダンジョンマスターを敵に回したことを悔いるがいい。

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