表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/102

42 修羅場のススメ

「ふひひ、会いたかったわススム」


取り払われたフードの奥から出てきたのはゴードン邸の地下で出会った少女、ソルテ=ゴルドーだった。


「おまえ、何でこんなとこに」

「好きな人に会うのに理由がいるのかしら?それに祖父の散歩に孫が同伴するのは何もおかしいことじゃないわ、ひひ」


相変わらずなにか企んでそうな怪しげな笑みと笑い方だ。

苦手というか、どう接していいのかわからん。


「用件はなんだ」

「ひひっ、相変わらず釣れないわね。ベットの上で語り合った仲じゃない」

「お前だけな」

「ススム様、そちらの方は?」


首筋にヒヤリと冷たいものが触れる。


このプレッシャー、振り向かなくとも分かる。クレイが来ているというのか。


「ベットがどうとか、仰っていたように聞こえたのですが」

「クレイさん?このことはなんでもないから、とりあえず剣を下ろそうか」

「ひどいわススム。薄暗い地下室で過ごしたあの夜を忘れたの?」

「ちょ、切れる切れる!ちょっとめり込んでるって」


この剣はソルテが口を開く度に俺の首に深く突き立てられていく。これ以上ソルテを喋らせれば胴体とサヨナラしなくてはならなくなる。


「ほんとに何も無いから!こいつはゴードンの娘だよ」

「ゴードン様の子女とは顔見知りです。このような小娘は存じ上げません」

「いやだって…え?もしかして嘘なの?」

「ふひひ、嘘なんてついてないわ。王女様とも顔を合わせたことはあるのだけれど、まぁ覚えてなくても無理はないわ。言葉を交わすのは今日が初めてですもの」

「なるほど、それなら知らないのも無理ないよな!姉妹も3人もいる訳だし!うんうんそういうこともある!だから王女様、早くこの危なっかしい剣をお納めくださってええええええ!?おうじょおおおおおぃたい痛い痛い痛い痛いっ!?!?!?」


俺の声に比例するように剣がより深くめり込んでくる。

首筋に何か暖かい液体が垂れるのがわかった。


「はっ!申し訳ありませんススム様」


クレイはすぐに剣を収めて俺の首筋にかぶりついた。

首を、傷口を吸われて快感と不快感が板挟みに押し寄せて体が動かない。


「ちょちょちょちょーーークレイさん!?なにしてらっしゃる!?」

「血が滴っておりますので」

「いや吸血鬼じゃないんだから!」

「だって勿体ないじゃないですか。ススム様の血が飲めるのでしたら、私は吸血鬼になっても構いませんわ」


首元から顔を離したクレイは舌をまわして自身の唇についた血を舐めとる。それがちょっと艶めかしく見えて唾を飲んだ。


首の傷を触って見るがもう乾いてきている、思ったほど深くないようだ。


「ったく、勘弁してくれよ」

「申し訳ございません。少し動揺してしまいました」

「動揺で首落とされちゃたまんねぇよ。にしても、いいとこのお嬢さんだとは思ってたけど、まさか王女様だとは」

「黙っていて申し訳ございません。騙すような形になってしまいましたが、ススム様には王族などではなく、ただ1人の騎士として見ていただきたかったのです」

「え、なんで?」

「それは……その、私の望みのためです。身勝手なことは承知しております。ですが、どうか、どうか私を見限らないで頂きたく存じます」

「まぁ、別にそのくらいの事でどうって事はないけど」

「それでは………お許し、頂けるのですか?」

「いや、うん。許すも何も本当に気にしてないから」

「あ、ありがとうございます!流石はススム様、海よりも大きな器量をお持ちですわ、このお詫びは如何様にも」

「いや、だからお詫びはいいって」


聞いた瞬間は驚いたが、クレイが王女だというのは実は想定していた。

そして何度も勝手にそういうシチュエーションを想像していた。


異世界に転移していきなり出会ったドレス姿の女の子がいたとしよう、どう思う?


絶対お姫様じゃん!フラグじゃん!メインヒロインじゃん!


実際はそうそう上手い話なんてないかと思って恥ずかしい妄想は心の奥底に閉まっておいたけど、クレイがお姫様だというフリはこれまで何度もあった。そのたびにやっぱりそうじゃないかと何度も思っていた。


俺にとってクレイが王女であることは予定調和、想定の範囲内、そうあって然るべきことだ。驚くことは何もない。むしろそうであることがわかってスッキリした。


そしてここで『どうして王女様が自由に行動できるの?』とか『どうして騎士なんかやってるの?』なんて野暮な疑問を持ってはいけない!そういうものなのだ!


そして、ここでの最適解はこれだ!


「王女だろうがなんだろうが、俺にとってクレイはクレイだ。今までも、これからも、何も変わらないさ」

「ススム様……。私、大変嬉しく思います。これからも私の事はただ1人のクレイとして懇意にして頂けると幸いでございます」

「おう!」


感動した顔でこちらを見つめるクレイにサムズアップ。

やはりこれで正解だったようだ。


相手が最も求めているもの。

そして何より自分のためにだ。

いきなり実は王族でしたと言われたところで器用にかしこまったり気を使ったりはできない。

だからここは開き直って『俺はこれまでと同じように無礼講で接するぜ』と宣言しておく。


これでウィンウィンだ。


所詮、俺は魔王。王国とはおそらく敵対関係であるべき存在だ。


何かあれば逃げる!


それにこの世界に転移させられた時点で好き勝手にやろうと決めてるしな。

だから無理して気を使うようなことはしたくない。楽に行こう、楽で行こう。


「ひひ、そっちの話は終わったかしら?」

「えぇそうね。それでは次は、こちらの話を致しましょうか」


クレイは再び剣を抜き、ソルテに切っ先を突きつけた。

ソルテは表情1つ変えず至って落ち着いた様子だ。いや、デフォルトの表情が不気味な薄ら笑いだから落ち着いてるかはわからないけど、むしろ挑発しているようにさえ見える。


「ふひっ、初めてご挨拶させて頂きますわ。私はゴードン=ゴルドーが3女、ソルテ=ゴルドーでございます」

「ゴードン様の3女………死神…」

「ひひひ、存じ上げて頂いて光栄でございます」


そういやソルテと初めてあった時、自分のことを死神だのなんだの言ってた気がするな。

冗談か怪談話かと思ってたけど、マジで有名だったのか。


あの時はどんな話してたっけか…たしか、触れるだけで死ぬとかそんな話じゃなかったかな。

あ、やっぱ嘘じゃん、俺はこいつに1度しがみつかれたがこの通りピンピンしている。首から若干の血は滴っているが。


「王女殿下なら私の事を知っておられるでしょう。私は誰とも添い遂げることの許されない命運を背負っております。なので心配なさる事などなにもありませんよ。きひひっ」


そういうソルテの表情は、絶対に何か隠しているようにしか見えない。それがデフォルトだから仕方ないけど。


「…………………………ふん」


クレイは少し考えて、やがて剣を納めた。


「尊大なご慈悲に感謝致しますわ、ふひひ」

「お嬢!こっちの見回り終わりやしたぜ!」


遠くからウォーリーがクレイに声を掛けてきた。


「あんちゃんじゃねぇか、おめぇ孤児院なんか出入りしてんのか。いや、そういやリユースコレクションに入ってんだったか」

「不憫だな」

「昨日の肉がだいぶあるから、ちょっと寄付をね」

「寄付?あんちゃんがか?そんな柄には見えねぇが、信仰心がお高いのはいいこった」

「………………さすがススム様!素晴らしいですわ。ウォーリー、私達の分の肉も使って頂きましょう」

「あ?昨日の残りなら全部騎士団に収めちまいやしたぜ………あーあーわかりやしたよ、引っ張り出せる分だけ孤児院に回しときやすよ」

「それではススム様、御機嫌よう」

「おう、またな」


クレイはなんだか早々に話を済ませて去っていった。いつも忙しそうで大変だ。


「……私の助けは必要ないようね」

「ん?なんか言ったか?」

「ひひっ、私も帰るわ。お爺様が体を崩しても大変だし」

「おう」


ソルテは車椅子に手をかけて踵を返す。


「ススム、自分を1番に大切にね、私の為にも。愛してるわ、ひひっ。それじゃ」


そう言い残してソルテも去っていった。


「あいつ、結局何しに来たんだ?」


俺に用がある風な事言ってたけど、ほんとに散歩してただけだったのか?

まぁいいや。


「あら、モートン様はもうお帰りに?」

「あぁ、たった今」

「そうですか。私達も炊き出しに出ますわ。ススム様もいらっしゃいますか?」

「いや、これでも一応稼ぎはあるからな。皆のタダ飯を奪っちゃ悪い」

「そうですか、残念です。ススム様にアリア様の御加護がございますように」


アイリーは軽く祈るような仕草を俺に向けると賑やかな子供ら一団を連れて炊き出しに出かけた。


なんだか急に静かになったな。

さて、俺はどうしようか


と考えたところで腹が鳴る。


「飯だな」


俺は食事を求めて街をふらつく。

次回、物語は急展開する!(いつも急展開しかしない)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ