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41 差し入れのススメ

本日、2話更新しております。

さて、飯を食いそびれた俺だが、次に行く場所は決まっている。


別にご飯にありつける場所という意味でじゃないが、最初から今日は孤児院に行くと予定を決めていたのだ。


昨日狩った肉がクレイから貰った分も合わせて中々の量があるから孤児院におすそわしようと持ってきたのだ。


フットマンの冷凍魔法は3日は持つって言ってたが、3日かけても食べきれない程の量がある。


孤児院はなんだかんだ年中食糧難っぽいからな。そのうち野菜も寄付してやろうと考えている。



孤児院の前では炊き出しに向かう準備が進んでいた。

そして広場真ん中では車椅子の乗った見知らぬ老人が、ここのシンボルとも言える大木を見上げていた。


「あ!ススムおにーちゃんだ!」


俺を見つけた子供たちが声をあげて一斉に群がってくる。


「こら!炊き出し組はちゃんと仕事する!」

「はぁ~い…」


ヒルシの一括で何人かの子供は炊き出しの準備に戻る。


遅れてアイリーも俺の元へ寄ってきた。


「こんにちは、ススム様」

「ちゃっす、シスターアイリー。今日は差し入れ持ってきた」


籠の中をアイリーに覗かせる。


「まぁ、立派なお肉。よろしいのですか?」

「あぁ、沢山手に入ったからみんなで食べてくれ」

「ありがとうございます。ほら、みんなもお礼を言って」

「「「ありがとうございます!」」」


子供たちが声を揃えてお辞儀をする。

やんちゃな姿しか見てこなかったから統率の取れた行動にちょっと驚いた。ちゃんと教えるべきことは教えてんだな。うむ、偉い偉い。


「冷凍されているようですね。早速今晩使わせて頂きましょう」

「どこに置く?」

「では中へお願いしてもよろしいですか?」

「任されろ」


アイリーの案内で孤児院の中へと入る。


「今朝は大変でしたね」

「今朝?」

「魔物の襲来があったのでしょう?警鐘もなって冒険者の方々も警戒にあたっておられるようでした」

「あぁだいじょぶだいじょぶ、俺は鐘にも気づかず寝てたからな」

「まぁ、冗談がお上手ですこと。ふふっ」

「まぁね、はっはっは」


冗談じゃないけどね。


「それで、皆は黒獣が出たと噂しておりますが、どうなのでしょう」

「そうらしいな」

「となると、やはり魔王が復活したということなのでしょうか」


えぇそうなんですよ。かくいう俺もその1人なんですけどね、はっはっは!


―――とは言えない。


言ったところで『冗談がお上手ですね』くらいの返事が返ってきそうだけど。


「魔王はまだ分からないみたいだけど、何が出てもシスターアイリーと子供たちは俺が守るから、安心していいぜ」

「まぁ、頼もしい。よろしくお願い致します。けれど無理はなさらないように、ご自分の事もいたわってあげてくださいね」


アイリーは俺の手を取ってギュッと握りしめる。


「お、おう」


急なことにたじろいでしまった。なんか、先日からアイリーのスキンシップが激しいのは気のせいだろうか。


調理場近くの暗室に籠をおろす。


足に土の存在を感じる。ここの床は地面と隣接してるのか。


「そういえば、外にいた老人は?」

「あの方はモートン様です」

「モートンって、たしかゴードンの」

「はい、ゴードン様のお父上です。この孤児院の創設者でもあります」

「様子見に来たりするんだ?」

「そうですね。体を悪くされる前はよく気にかけて下さっていました。広場の木に大層な思い出があるようで、今でもたまにあのように眺めにこられます」

「ふーん」

「かつては騎士団をまとめあげていた立派な方なのですよ」



少し遠巻きにモートンさんを眺める。


車椅子に乗ったよぼよぼの爺さんにしか見えない。昔は立派な騎士様だったと言われても、やはり人は歳には勝てないのか。


俺もこの世界で歳をとるのだろうか。それとも元の世界に帰れる日は来るのだろうか。


相当な長寿であろう大木を前に、ちょっとそんなことを考えてみた。


「久しいな……」


車輪の音に気づいて隣を見ると、思いに耽けてるうちにモートンがこちらに近づいてきていた。


「お前には……本当に済まないと思っている…」


その声は弱々しく掠れており今にも消えてしまいそうだ。俺に話しかけているようだが、顔は伏せたままこちらを見てはいない。


「調子はどうだ?」

「はぁ…まぁ、ぼちぼちです」


誰と間違ってんだ?と思いつつ、ボケた老人に厳しく当たるのもなんなので適当に返事を返す。


「また………手合わせしたいものだ……今度こそサシでな」


それは勘弁被る。

騎士団とやり合うなんて絶対嫌だし、ヨボヨボの爺さんを痛めつけるのも心苦しい。


「眠ったみたいね、ふひ」

「ふひ?」


車椅子を押していた小さなローブから、嫌な予感しかしない独特な笑い声が聞こえた。


車椅子の取手から頭一つ分くらいしかない小さなそれがフードを取る。


真っ白な髪、死んだような目、サメのような歯。


その正体はもちろん1人しかいない。


「ふひひ、会いたかったわススム」


車椅子を引いていたのはソルテだった。

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