39 ぴょん太のススメ
街に着く頃には日は落ちきっていた。
俺はクレイに貰った籠をしょっている。中には今日狩ったマッドボアの肉、それにクレイの狩ったガラマッドボアの肉も入っている。
ウォーリーとフットマンは馬車を片しにいって、この場にはクレイとリリしかいない。
「ススム様、本日はありがとうございました」
「いや、俺の方こそ、楽しかったよ」
「黒獣の事はまだ口外せぬようお願い致します」
「あぁ、わかってる」
「では、御機嫌よう」
「おう、またな」
「はい!またです」
「リリもな」
「また行く」
「そうだな。それじゃ気をつけてな」
「失礼致します」
腹もそこまで減ってないし、俺も真っ直ぐねぐらに戻るか。
ベッドに横になって今日1日を振り返る。
初めての狩り、マッドボアとの戦闘を思い返すと今でもあの時の恐怖と興奮が蘇る。
壁で進路を妨害して、落とし穴で一撃。俺のスキルは上手く働いてくれたが、肝心の使い手がビビりすぎて全くスマートじゃなかった。
もっと落ち着いて対処できるようにならないとな。
まぁここは慣れも必要か。これまでの人生、平和な国で戦いとは無縁の生活を送ってたんだ。仕方ないな、うん。
そして問題なのは黒獣。
魔王が生み出すという黒き魔物。
今現在、この世界に魔王がいるというのは疑う余地もない。なんてったって俺もたぶん魔王の1人だしな。
そもそも魔王が生み出すとはなんなんだろうか。
この世界に転移する直前、誰かが何か話している風景を見た。だが記憶は朧気で内容はほとんど覚えてない。
あの時に見た他の影が魔王だとしたら、魔王は複数いる。
そして黒獣だ。
もし黒獣が、魔王が存在するだけで勝手に発生するものだとしたら、昼間の黒獣は俺がここにいる影響で現れたものかもしれない。
だけどもし、魔王が意図して生み出すものだとしたら、他の魔王が近くにいるって事もありえる。
あ、そうだ!俺も魔物を生み出したかったんだ!
ずっと楽しみにしながら試すことが出来なかった能力、魔物の創造。
これまでは魔物のサンプルがなかったから使えなかったけど、昼間の狩りでシーザーラビットをダンジョンに吸収させた。
これでシーザーラビットを創造できるようになってるはずだ。
力を使おうと思って念じるとシーザーラビットの姿が明確に頭に浮かぶ。
なんてことはない、キノコなんかを創るのと同じ要領だ。
それじゃあさっそく―――
「いでよ!シーザーラビット!我が呼び声に応え顕現せよ!」
呪文とか全く要らないんだけど、せっかくなので召喚術風に。
もしかしたらこのスキルも今後、人前で誤魔化しながら使わなきゃいけない日が来るかもしれないしね、予行練習だ。
魔法陣が現れたり、光を放ったりといった演出はない。
実に呆気なく、地面から生え出るかのように黒い固まりが生まれた。
ブラックホールかってくらい真っ黒な塊はふるふると震えだし、ぴょこんと2本の耳を立ててこちらを向いた。
あかん………こいつ100パー黒獣だわ。
昼間に見たシーザーラビットは茶色い毛並みでお腹周りなんかは白かったが、こいつは全身黒一色。それも毛並みなどではなく、黒い1つの物質で構成されてると思わせるくらい真っ黒だ。
黒獣を生み出す=魔王
俺の生み出した魔物=黒獣
俺=魔王
完璧な連立方程式が完成してしまった。
これは人前では絶対に使えない。もう誤魔化すとかいう次元じゃない。現行犯で1発アウトだ。
でもこいつ―――
俺の生みだしたシーザーラビットはピョコピョコと俺の元に寄ってくると、俺の足に体を擦り付けてきた。目を細めてとても気持ちよさそうにしている。
「か、かわええ~~」
思わず吐息が漏れてしまった。
おそるおそる抱き上げる。
「ふおおおおおおっ」
やわらかい、それでいてあったかい、そしてなにより
「もっふもふやぁ~」
そう、すごくもふもふなのだ。
見た目はかっちりとした黒一色だ。影や炎でも纏ったかのような揺らめきは一切なく、切り絵で作ったかのように輪郭はハッキリしている。
なのに触れると毛並みの感触も温もりもあるのだ。
最初は凶悪に思えた真っ赤な瞳も愛くるしい。何も食べてないのにモキモキしてる口元が可愛い。
あ~語彙力落ちる~。あたしもうウサギ肉は食べられないわ。
「よし、お前は今日からぴょん太だ!」
ぴょん太かわいい、やばたにえん、マジ卍。
名前をつけてもらってすごく嬉しそうだ。表情も態度も全く変わってないが俺にはわかる。そうかそうか、気に入ってくれたか。俺も嬉しいぞぴょん太。
魔物を生み出せるからって、別にそいつを戦わせなければならないという決まりはない。
愛玩動物を生み出す能力、実に良いじゃないか!
こんな可愛いものを戦場に出すなんてとんでもない。
よーしよし、ぴょん太は俺が守ってやるからな。
俺はぴょん太を抱いたままベットに寝転がった。
ぴょん太の温もりが心地よくて、今日はそのまま眠りについた。
☆☆☆
ススムは両手を尊厳の限り広げて大層な構えを取る。
「いでよ!シーザーラビット!我が呼び声に応え顕現せよ!」
「ぶはっ!」
ススムの召喚術の真似事を見てミスティは思わず吹き出した。
「やばっ!なんすかそのいい加減な詠唱!いる?それいるですか?いらないですよね!しかもシーザーってなに!シザーじゃないの!?サラダかなにかなのですかね!?」
ススムはシザーラビットを抱き上げて愛撫する。
「ふおおおおお、もっふもふやぁ~」
「ぶっふふぉあああっっ!!
何その雄叫び!ふおおおおっつったよ、大の男が、ふおおおって!もっふもふとか言ってたよ!やばっ!」
「よし、お前は今日からぴょん太だ!」
「ぶふふほあっふはあああ!!
ぴょん太!ウサギだからぴょん太!やばっ!センスなっ!安易すぎですぅ!」
野郎が洞窟の奥底でひとり、ウサギを可愛がり話しかけている姿にミスティはただただ戦慄するしか無かった。




